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INTERVIEW 
小学校外国語活動

  学級担任との信頼関係が
  国際コミュニケーション力育む

横浜国立大学名誉教授
 佐野 正之氏
佐野 正之氏
佐野 正之氏

オランダでも
「学級担任」で成果


  かつてオランダで英語活動が小学校に導入された際には、やはり小学校教員から反対や懸念がありました。  ところが、小学校担任と中学校の英語教員が小学校で教えた結果を比較したある調査では、意欲、成績両面において、小学校担任が指導したほうが良い結果が出ているのです。日本でも同じことが起こる可能性があると考えています。

 第1の理由は、小学生の発達段階です。  小学生時代の子どもたちは、英語を「学んで覚える」というよりは、「仲間作りを通して自然に覚える」ことが得意です。遊びや体験を通して学ぶ外国語活動のアプローチは子どもたちにとって自然なこと。むしろ既存の中学校英語を先取りして、単語や文法を意図的に教え込む方法は、小学生には向いていないといえるでしょう。

 第2の理由は、担任との人間関係です。  小学校ではあらゆる教科や活動で、学級担任が中心になって児童同士のコミュニケーションを図り、信頼関係を築いていきます。当然、子どもたちは学級担任を信頼しています。学級担任もまた、あらゆる教科において児童らに「発言」や「発表」の機会を提供し、どんな活動を提示すれば子どもたちの活動が生き生きとするかを考えて指導案を作っています。  この相互の信頼関係や、それに基づく教育観が、英語という新しい手段でのコミュニケーションにチャレンジする子どもたちを育成するには、とても大切なのです。  

 第3の理由は、小学校の先生は、日頃から、声も大きく、表情豊かに子どもに接していること。  これは、小学校外国語活動を始める際、特に非言語的なコミュニケーションの手段の大切さを気付かせるうえで、高等教育の先生にはないメリットといえます。  ただ、小学校においてこれまで「教授型」で、情報を与える授業を中心に行ってきた先生にとっては、小学校外国語活動は乗り越えるべき課題が多い教科になるかもしれません。

第二外国語教育は
「世界大戦」の反省から


 現在ヨーロッパでは、母国語のほかに第一外国語と第二外国語を学ぶのが普通です。この流れは、第二次世界大戦や、行き過ぎた市場至上主義の「国際化」への反省からきています。世界を巻き込んだ大きな戦争を二度と起こさないためには、また、国による経済格差や固有の文化環境を拡大しないためには、外国語教育が唯一の切り札である、という考え方です。

 たとえ国が異なり様々な問題があっても、それを解決していかなければなりません。そのためには、世界には様々な国や言語があり様々な考え方があり、それを話し合いを通した相互理解で乗り越えていかなければならないのだ、ということを、外国語教育の中で学んでいこう、という姿勢です。これは新学習指導要領で示された「小学校外国語活動」の理念と一致します。

英語活動は堂々と行う

 小学校外国語活動成功のポイントは、まず、これまで自分が受けてきた英語教授法を踏襲することはできない、という認識を持つことです。
 「外国語活動」は、これまで行ってきた受験向けの「英語教育」ではなく、日本で初めての科目であり、その目的は、世界の人々と共通に直面している問題を平和的に解決するためのコミュニケーション能力の育成である、と考えて取り組んでいくことが必要ではないでしょうか。

 加えて必要なのは、小学校外国語活動の指導がたとえ初めてでも、自信なさげに行わないこと。十分な教材研究をしたうえで、たとえ正確ではなくても、堂々と楽しくやること。子どもと一緒に身体も心も口も耳も、全身すべて動かすことです。

 子どもと一緒に楽しみながら英語を学び続ける「覚悟」さえ持って頂ければ、小学校担任による外国語活動は、高等教育の英語教員や専門家が携わるよりも成功する可能性が高いといえます。

【2009年05月02日号】

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