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INTERVIEW 
新学習指導要領

  日本の子ども達は良い方向に向かっている

独立行政法人大学評価・学位授与機構 機構長
 木村 孟氏
木村 孟氏
木村 孟氏

 3月9日、高等学校と特別支援学校の新学習指導要領が公示され、小中高・特別支援のすべてが出揃った。中央教育審議会副会長などを務め学習指導要領の改訂に深く携わった木村氏は「現行学習指導要領には、PISA型学力も基礎基本の徹底もうたわれていたものの、それを実現する手立てが十分に示されていたとは言い難い。新学習指導要領は、その反省点を踏まえて改訂された」と述べる。 ―「平成20年度CEC成果発表会」(主催・財団法人コンピュータ教育開発センター基調講演より/肩書きは取材当時)

 ゆとり教育と批判された現行カリキュラムだが、決して基礎・基本を無視しているものではない。教育内容を厳選して基礎基本の徹底が掲げられ、総合的な学習の時間が出来、個に応じた学習が明確にうたわれ、選択の幅の拡大と体験的・問題解決的な学習活動の重視が示されている。

 主体的に判断し子ども同士、より良く問題を解決することが重視されるなど、13年前から世界に先駆けてPISAの学力基準に相当するものも盛り込まれていた。だが5つの柱のうち4つが新しかったために、先生が新しいものの準備に追われて基礎・基本の指導が疎かになってしまった面はある。また、週5日制の導入も前倒しで実施されたので、準備する間もなく始まってしまった。

 平成5〜6年、13年、15年の教育課程実施状況調査を比較して、小学校の成績が一番良かった年度は、5〜6年が17問、13年が13問、15年は37問と圧倒的に15年。これはいわゆる「ゆとり」のカリキュラムで教わった子どもたち。中学校は6〜7年が41問で13年が15問と少くなったが、15年は43問で、6〜7年の数値に戻っており、小学校ほど大きな違いはないものの、やはり「ゆとり」世代の成績が一番高い。
 アンケート結果によると、各教科の壁があり、中学校の先生は小学校の先生ほど「ゆとり」カリキュラムに前向きに取り組んではいなかったことの影響も考えられる。

◇   ◇

 高い目標を立てた現行の学習指導要領だが、実現するための具体的な手段の提案ができていたとは言い難い。そこで新学習指導要領では、この具体的な手立てについて議論を重ね、反映させた。また、学習指導要領の改訂にもかかわらず、生活基盤の確立、生活習慣の重要性を随所に盛り込んだことも特徴だ。中学2年の英語の試験で朝食習慣の有無と成績との相関関係をみると、成績に違いが出た。いかに生活習慣が大切かということだ。

 ケンブリッジ大学の人たちと一緒に仕事をしたときに驚いたのは、意外に数学や物理の知識が多くないということだ。しかし、少ない知識をコマンドする力がものすごい。知識がきちんと整理されている。知識の量はある程度必要だが、それほど広く必要ないのではないか。それよりは、知識をコマンドする力が重要だ。

 新学習指導要領では、授業時間が増えたが、放っておくと日本の場合は知識の習得ばかりに当てられる懸念がある。時数の増加は知識の活用力の育成に使うためのものだと考えてほしい。

 IEA(国際教育到達度評価学会)では、学校で習った知識がどの程度身についているかを国際比較するテストを行っている。その意識調査から画期的な結果が見えた。第4回(平成15年)に「勉強は楽しい」という回答は、小学校の算数は65%だったが第5回(平成19年)では70%。増えてはいるもののどちらも国際平均(80%)より低い。
 驚異的なのは理科で、第4回の小学校で81%が、第5回には87%が理科は楽しいと回答し、国際平均(83%)を超えた。実験を授業に取り入れたことや、学校の先生が頑張った成果だろう。「学校外の時間の過ごし方」では若干、テレビやビデオを見る時間が減ってきた。全体を見ると日本の子ども達は良い方向に向いていると言える。

【2009年04月04日号】

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