ICT活用は児童生徒の意欲喚起と学力向上に実質的な効果がある、という検証結果が出た。これからは、より前向きにICT環境の効果的な活用方法が模索されていくことになる。東京都杉並区立桃井第二小学校(児玉良司校長)では画像活用WEBデータベースソフトを活用し、絵画、書道など数々の児童の活動記録を画像として蓄積、それらをICT環境と連動することで様々な授業シーンを展開している。
子どもの「図書紹介カード」で図書データベースを作成
「ぼくはウルトラマンの生みの親『円谷英二』という本を読みました。ゴジラという名前がゴリラとくじらから生まれた名前だと分かって面白かったです」。「オオクニヌシとちえの神様スクナヒコが日本を良い国にするためにけんかをしますが、最後には本当の友達だと分かりました。いいお話なのでぜひ読んでみて下さい」。3年2組の児童らが、自分が読んだ本について紹介しあう場面だ。図書室のボードには児童が書いた図書紹介カードがプロジェクターで拡大提示されている。教室から「ぼくも発表したい」という声が上がった。数人の発表後、互いの図書紹介カードをパソコンで班ごとに閲覧したり、図書紹介カードを書いたり、読書する活動にうつる。教室の中には「絵が上手だね」「この本はどこにあるの?」と、「読書」を通じた会話が生まれていった。
児童らの書いた「図書紹介カード」はエプソンの「チルドレンライブラリ」というソフトでデータベース化されており、パソコンからアクセスして閲覧できるようになっている。図書紹介カードは学年別に「ワクワクドキドキ」「シクシク・ジーン」「なるほど・すごい」など5ジャンルに分類されて登録されており、子どもたちでも簡単に検索できる。
図書室には大判プリンタで印刷された「チルドレンライブラリの使い方」が貼られており、使い方に迷った場合もそれを見れば良いようにするなどの配慮がされていた。
子どもの書いたものを「そのまま」残したい
桃井第二小学校では読後の感想や紹介文を記載した図書紹介カードを年2回作成しており、読書週間には学校に掲示される。児童が書く図書紹介カードは年間1000枚。これまで掲示期間が終わると返却していたが、それを学校の財産として保管し、必要なときにいつでも活用できないか、と考えたのがチルドレンライブラリ導入のきっかけだ。
中島武史先生は「手書きの作品をそのままデータとして保管・蓄積できる点がいいですね。チルドレンライブラリに登録することで、全学年のカードをいつでも見ることができるようになりました。キーボードを使わずにアクセスできるので、初めてでもすぐに使うことができます。子どもにとって使いやすいソフト」と利点を述べる。
3年2組の授業後の感想で「友達の書いた図書紹介カードを見ることは楽しい」と答えた児童は全体の9割、「カードを読んで自分も読みたいと思った本があった」と答えた児童は5割強。子どもたちがチルドレンライブラリに登録されている図書紹介カードを楽しんでいる様子が伺える。今後は、1年間の読書感想文の冊子化や図書紹介カードを活用した発表会なども企画。それらを通じ、より読書活動を活発にしていきたいと考えている。
チルドレンライブラリでデジタル展覧会やアルバム作り・教材作りを
絵画や習字、作文、絵日記−−子どもの作品は学校の財産だ。しかし児童の写真や作品、学習記録などの管理は煩雑になりがち。それら作品の管理・活用に役立つのが画像活用データベースソフト「チルドレンライブラリ」だ。児童の様々な作品をスキャナやデジタルカメラで取り込んでチルドレンライブラリに蓄積し、授業や行事などで活用するためのソフトである。
蓄積された作品を使って、絵画作品を活用したポスターの作成、授業での記録データのレポート化や児童別に作品を抽出し「思い出アルバム」を作成して卒業記念品にする、など使い方は様々だ。また、チルドレンライブラリの「ビューワ機能」とプロジェクターを使って、授業でのレポート発表や行事で作品を投影して「デジタル展示会」に利用する、など活用用途は広い。
画像活用データベースとICTが「情報モラル」の学習で思考を深める
チルドレンライブラリは、ずっと保存しておきたい作品だけではなく、作文やワークシート、感想を書く場面が多い通常授業でも活用しやすい。
5年2組の「携帯電話の情報モラル」を考える授業の中で中島先生は、子どもの手書きのワークシートをチルドレンライブラリに画像データとして保存し、互いの意見を共有、思考を深める場面で活用し、ICT機器と連動をさせて子どもたちが主体的に学ぶ授業が行われていた。
授業で取り上げたのは携帯電話にかかわる4事例。最初に取り上げたのは「チェーンメール」だ。「このメールを5人に送らないとあなたに不幸なことが起こります」とチェーンメールの内容を記したフリップを提示。このフリップは、専用のボード紙を使って大判プリンタで印刷したもの。厚紙に印刷されているため劣化しにくく繰り返し使うことができる。
この事例について中島先生が中心となり、問題点と解決点を考えていく。先生のコメントを記した手書きのワークシートを書画カメラに提示してプロジェクターで投影する。フリップやプロジェクターの活用は、今取り組むべき課題について児童らを集中させる工夫のひとつだ。
次に「メールによって悪口がエスカレートしていく事例」など3つの事例について、1人1人がワークシートに問題点を書き込んでいく。手書きのワークシートはスキャナで読み込み、そのままチルドレンライブラリに保存・蓄積、ほかの児童はそれを閲覧してクラス全員の意見を確認し、共有することができる。
発表では、グループごとにまとめた手書きの発表用ワークシートが書画カメラに設置され、プロジェクターで大型スクリーンに表示された。「事例」を記したフリップを持ちつつ、自分たちの発表用作成物を指で示しながら「問題点」「解決法」などを説明していく。書画カメラを利用し、子ども達が前を向きながらプレゼンテーションできるように工夫されているため、発表者は説明しやすく、聞いている子どもたちにとっても分かりやすい発表スタイルだ。
児童の書いたワークシートをメインに発表させたことについて中島先生は「自分の書いたものがそのまま保存されるため、‘見られる’ことを意識して書くようになる。この機能は彼らをいい意味で‘大人’にしていきます」と述べる。
広い意見交換が短時間で可能に
授業では、大判プリンタで印刷した説明用のフリップやプロジェクター、書画カメラなどICT機器が有効に活用され、児童らの思考を深めたり集中度を増すなどの効果が見られた。
授業後、中島先生は「情報モラルの授業を成功させるためには、自分にとって身近な問題としてとらえる必要があります。よって身近な事例を元に、考えを深めて行けるような授業にしたいと考えていました。そこで『チルドレンライブラリ』を使って、児童の間で十分に意見交換を行い、考えを深めていく流れを意識しました。短時間に多くの意見を吸収できたため、発表に深みが出たと感じています。
これまでは、手を上げて発表して何人かの意見を聞くだけで終わったり、全員のワークシートを印刷して流し読みをするなどが精一杯。互いの意見や感想を共有する活動は重要でありながら時間がかかりすぎて、十分ではありませんでした。
この活用方法では同じ課題で学んだ他クラスの意見も閲覧できるので、児童の意見の共有や深堀には役立ちます。ワークシートやカードの活用は通常授業の中でも数多くありますので、今後、他教科でも取り入れていきたいですね」と述べた。
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