マイタイム&交流タイムで自己評価力をみがく
「ソニー科学教育プログラム」(主催 財団法人ソニー教育財団 理事長 出井伸之)は、全国小・中学校を対象に「科学が好きな子どもを育てる」教育実践を募集し、優れた取り組みを表彰・支援するプログラム。2006年度は174校の応募の中から「最優秀プロジェクト校」に長野県茅野市立永明小学校(小松正夫校長)と千葉県千葉市立泉谷中学校(三根豊治校長)の2校が選出され、11月には両校で研究発表会が開催された。
最優秀プロジェクト校を受賞した永明小学校では、11月9日、研究発表「謎解きの面白さを味わう子ども〜自己評価力を発揮しながら」を開催。自由参観授業、共同参観授業、ポスターセッションなどを通して、この1年の研究成果が発表され、近接する茅野市民館では、白川英樹氏(筑波大学名誉教授、ソニー教育財団理事)による講演が行われた。
茅野市立永明小学校では06年度、科学を好きな子どもを育てるため「謎解きの面白さを味わう子ども」の育成を目指し、1、「求め」 2、「繰り返し」 3、「味わう」学習から児童が科学の面白さを味わえるよう研究を推進してきた。その中では、「自分の学びの望ましさを自らふりかえり判断し改善する力」(自己評価力)が求められることから、自らの学習を意識できる「自己評価力」の育成がサブテーマに据えられている。
自由参観授業の一こま |
自己評価力育成のため、同校では2つの工夫を取り入れた。まず1つは、学習カードに「目標設定」「計画と実行」「実態把握」「目標達成度の判断」「改善の検討」「改善策の実行」を盛り込んでいる。授業のめあてに対して何が解決でき、何ができなかったのかを判断できるようにするためだ。また2つ目は、一人一人の疑問を追究できる時間と場を確保しながら、得られた成果や“心”を友人と共有して、自己を見つめ直し探究心や知的好奇心を高められるよう、授業に「マイタイム」と「交流タイム」を設定して実践を続けてきた。
06年度の審査では、こうした工夫に加え、学校教育の全体を通してテーマに即した教育活動が着実に行われ、また実践をふまえて新たな課題に積極的に取り組もうとしている姿勢が高く評価され「最優秀プロジェクト校」を受賞している。
共同参観授業
実験結果は学習ノートにまとめ、次の授業へといかす |
小林俊男教諭は、体育館に実験器具を移して共同参観授業「知りたい物のとけ方の秘密」(5年理科)を行った。
これまで子どもたちは「食塩の溶ける様子から問題をもつ」ことに始まり、マイタイムと交流タイムを取り入れながら、水の温度や量などの条件による砂糖やミョウバンの溶け方の違いなどを学習。本時では、実験を通して自分の予想をもとに条件を変えながらミョウバンや砂糖が水に溶ける際の規則性を考察、その結果を級友と交流して次の学びにつなげることを目指した。
この日の授業では始礼とともに早速それぞれの課題に挑戦。水150gにすり切り11杯溶けた食塩と比べてミョウバンや砂糖は何杯溶けるか、食塩同様ミョウバンや砂糖も水分を蒸発させると表出するかなど、実験器具を手に前時からの疑問の解決に取り掛かった。実験結果から得られた内容は、「予想」「実験方法」「準備品」「はっきりしたこと」「はっきりしなかったこと」「友達と交流して考えたこと」「どうすれば解決しなかったことができそうか」「新たな疑問」「次に調べること」について学習カードにまとめた。交流タイムでは互いにそれまでの実験から得られた結果を持ち寄り共有し、次時のめあてにつなげた。
小林教諭は、取組みについて「話題が絡むよう、相手の言うことに耳を傾け、その発表に自分の内容を絡めて伝えることを指導してきた。自分の考えと友達のものが違うことで、また新たな学びが生まれ、相手に学ぶことを知る機会になる」と説明する。学習内容の定着率だけでなく、コミュニケーション能力育成の面からも効果があるという。
共有タイムでは、それぞれがマイタイムで得られた結果を発表しあった。子どもたちは、思わず敬語になってしまうという。 |
「説明しようとすると自然と敬語になってしまう」と笑顔で取材に応じた女子児童は、理科の授業について「実験を始めると、どうなるかドキドキわくわくする」と感想を語り、友達2人とともに「理科が好き」と口をそろえた。
取組みの中で子どもたちは、自己判断力をはじめ、予想や問題発見、解決方法の質や量などが向上。また教員側には、単元を構想するに当たり、教材価値の洗い出しや児童
に応じた教材化、自己評価力を高める視点の明確化などを大切にするような変化が生まれたという。
同校では今後とも継続した実践を進め、他教科への広がりや、より子どもの意識に寄り添えるよう自己評価カードの改善等に取り組む構えだ。
▼講演「科学を学ぶ 科学を教える」
白川英樹氏
子どもの豊かな好奇心について司馬遼太郎は、「高い童心を持て」と作品の中で書いている。子どもが本来持っている疑問を持ち続けることが大切で、教育の大部分がいかに童心を育み、維持させるにあるかといっても過言ではない。
個性を育てることは独創性を育てることが必要でそのためには、1学級の生徒数40名は多過ぎる。先生が児童の個性を十分に把握するため、理想としては義務教育では現在の学級を半減して20人以下の少人数のクラス編成にして欲しい。また、先生が一方的に話をし、生徒がそれを受け入れる、知識詰め込み型の受動的教育からの脱却は不可欠。記憶力に優れ、課題にすばやく対応できる子が優秀という評価は、独創性を育てるのとは反対にある。
次世代の人材を育てるために最も大切なことは、子ども達に童心を持ち続けさせること。先生にとっても子どもに教えることによって子どもから学ぶことでもあるはずで、教えることと学ぶことの間に上下関係はないと言える。
人によって興味を持つ部分は違うので、他に興味があればそれで良いのだが、理科に興味を持たない子どもに興味を持たせるには、身近にある、子どもが興味を持てそうな題材を使うのも1つ。そうした題材はいくらでもあると思うが、そのためにはその子が日頃どのようなものに興味を持っているのか観察して欲しい。
教科書に書いてあることは、これまでに判明していることだけで、わかっていないことのほうが圧倒的に多い。わからないことがあったら、先生はわからないと伝えれば良い。大事なことは、どこを調べれば良いのかを子どもに示唆できること。全ての教科に当てはまるが、教科の面白さをどう教えどのように興味を抱かせるかが大切になる。