21世紀は「平和」で「私が尊重」される世紀に |
松下電器産業 山本 亘苗本部長 |
いよいよ21世紀が到来した。メディアを活用した教育の発展について、視聴覚機器の開発・販売や松下視聴覚教育研究財団による学校・団体を対象とした研究助成により、長年にわたり貢献してきた松下電器産業。ホームページによる教育情報の提供や、「学びジョン21」としてマルチメディアを活用した、いつでもどこでも学べる環境づくりの提案なども行っている。21世紀を迎え、今後の展開について、また教育全般について、山本亘苗本部長にお話をお聞きした。
●コンテンツは先生の中に −21世紀の初頭は、どのような時代になると推測されますか。 「やはり、インターネットの影響が大きい。行き交う情報の量が非常に膨大になる。一年間の生活の時間が変わらない中で、情報の取捨選択をいかに行うかが問われるだろう。情報格差というより、情報の選択格差が問われる時代になり、情報の取得の仕方、選択の仕方で格差が広がってくるだろう。企業としては、ITをいかに活用するか。そして、ユーザーに活用していただくか。ハードやソフト、ソリューション、そして新しいサービスへの参入は欠かせない時代になる。そして、消費者がどう変っていくか、と考えた時、モデルはないが、自分たちも同じ立場にいる。自分の生活の嗜好や価値、などを考えていく必要がある」−情報化の面では、松下電器産業では松下視聴覚教育研究財団による助成など、一貫して教育の情報化に貢献されてきましたが、振り返ってどのような感慨をもたれていますか。
「コンテンツは先生の中にあると思っている。先生の持っている情報や人間性が100%生徒に伝わることによって、子どもたちが生き生きと育っていく。そうした教育をサポートする一つのツールとしての役割を、視聴覚機器は果たしてきた。その普及についての貢献はできたと思う。そして、視聴覚機器やITをどう活用するか、そこにどのようなコンテンツ、情報の中身を伝えるのかということについても、私どもとしてもいろいろと研究をして、ユーザー支援もしている。しかし、最も必要なことは、先生方自身が作り出すコンテンツや先生と子どもたちと一緒になって作り出すコンテンツで、そうしたコンテンツのさらなる拡充が必要だろう。それをインターネットで情報交換をすることが進めば、良い情報の共有が行えるだろう。非常にモデル的にすばらしい学校はたくさんある。しかし、それが横に広がって全体の活用レベルが上がるということが大切である。インターネットやITはその役割を十分に果たすだろう」
●衛星通信の利用 −いつでもどこでも学べる環境の構築やマルチメディアによる学びの支援を目標に、「学びジョン21」を展開されてきましたが。
「学校に視聴覚機器や情報機器などが導入され、教科の学習などの教育効果を上げるために長年にわたって取り組んできた。現在は、コンピュータが中心になり、当時からすると性格が大きく変ったと思う。「学びジョン21」といっても、当時は学校単位のクローズなものだったのが、衛星を使ったエルネットなども教職員の研修や教育情報の交流システムとして整備されつつあり、インターネットも加速度的に普及している。モデル的な学校の取り組みが他の地域の学校に伝わりやすい環境が整いつつある。教育の近代化に我々のハードやシステムでお役に立ちたい、と私たちが言ってきたことは20世紀で終わって、21世紀には衛星通信やインターネットも含めて、コンセプトを全国レベルに広げなければならない」
●Webでも交流を支援 −具体的には、松下電器産業のWebを利用して教育用のコンテンツを配信するようなこともお考えでしょうか。「これまで、パナソニックAVインタラクティブ(http://www.panabi.co.jp/)として教育情報を約3年間提供してきた。しかし、今後3年から5年先を考えると確実に、学校も常時接続環境になり、先生方も職員室で1人1台のパソコンを使って、教えるための情報収集や教材作りに活用するようになるだろう。そこで、来年4月にはホームページの内容を全面的に変える予定である。それは、従来の情報を発信するという機能に加え、新しい二つのサービスを加えてスタートする。一つは従来型の情報発信サービスで、“Eセレクションサービス”として、当社が持つ情報やコンテンツだけでなく、教育関連会社へのリンクや実際の授業の事例も掲載する。これに加え、新しく“Eコミュニケーションサービス”として、学校間のコミュニケーションをサポートする機能も入れる。学校内のサーバーから接続するための安全な環境や子どもたちが活用できる新しいツール、そして先生方がわいわいがやがやできるような会議室や掲示板など、このサーバーにアクセスしていただければいろいろなテーマで交流する情報や討論の内容が見られるサービスである。学校の先生が使えるレンタルサーバーのスペースも予定している。このサービスを立ちあげる段階で、いろいろな先生とお話している。インターネットは距離や地域を越えられるが、実は地域のコミュニティが大切であると言われる先生も多い。例えば、北海道で九州や沖縄の学校と交流をしたいが、身近な地域でこんなことをしている、私立学校と公立学校がクロスするような取り組みもしてみたい、ということも言われている。そんな先生方の思いもこうしたコミュニケーションサーバーで支援していきたい。三つ目は“Eソリューションサービス”として、学校がLANを構築する時などに、出入りの業者はいるのだが、もっとオープンに相談するところがなかなか見つからないという要望がある。「このぐらいの規模でこんなことがしたいのだけど」といった質問に対して相談に乗れるコーナーを持つ。そして、Web上の相談だけでなく、実際に学校に来てほしいと希望される場合はそれにも対応できるようにしていく。わかる授業が大切と言われる中で、動画像などを活用しプロジェクタとパソコンを使って、どんな授業ができるのか、全国で実施されている実験授業事例も載せていきたい。一方、「学びジョン21」の中では現在、無線LANのユニットをご提案している。ノートパソコンを職員室から教室へ持っていけば、ずっとそのままつながっている。1フロア3台ぐらいの受信ポイントを置けば、全部カバーできる」
●欠如している優しさ −今、国全体で教育改革を進めようとしていますが、今の教育の状況をどうご覧になっていますか。「思いやりややさしさが全体として欠如しているのではないか。最近、私は作家の宮本輝の本をよく読む。読書ノートもつけている。例えば、『ひとたびはポプラに臥す』の中で、キーワードが出てくる。焦る、というのは、現代という時代の一つの病根である。時の流れ方に対する処し方から生じる現代の業病である、と書いている。『オレンジの壷』という小説の中では、やさしさというものが、かつて人間の哲学の中に入れられたことがあっただろうか。やさしさがイデオロギーになったことがあっただろうか。私は、人間を侮辱するありとあらゆる権力や暴力を憎む。そして、やさしさに荷担する、と。つまり、今の青少年の暴力的行為が蔓延している状況では、やさしさを大切にする思想や哲学が必要ではないだろうか」−昔はもっと潤いがあったのでしょうか。「何でも昔は良かったではないが、「結核を治した栄養改善が肥満を生んだ」ということも言われている。すべて、文明の進歩は両刃の剣。物質的に豊かになったのはいいことだが、そのためにやさしさが失われたのかもしれない。そういうことも含めて、テレビやインターネットの使い方も考えなくてはならない。一方で人間はさびしさを感じている。だから、携帯電話が普及し、6200万人もが使うようになって、いつでもどこでもコミュニケーションをしている。しかし、社会が無味乾燥としているかといえばそうではなく、若い人の多くがどこかみんな心根が寂しいのだろう」
●人情の機微わかる人材 −そうした中で、21世紀に入社してくる社員にどのような人材像を望みますか。「多分、ITを駆使したり情報の大切さは十分理解している人が多いだろう。そうしたものを使って何をしようとするのか、何を伝えようとするのか、についてしっかりした考えを持っていること。できれば、人間の感情や心根の深さや感動とかが伝わるコンテンツが流せられるようなものを、自分の中に素養として持っていることが大切であり、期待したいと思う。あるビジネス提携の記者会見後、30分も経たないうちに、社長から携帯iモードメールが届いた。『会見が非常に良かった。スタッフの人にもよろしく伝えてほしい。』という感謝の言葉だった。それをスタッフに見せたら、涙を流してよろこんだ。情報とは“情に報いる”と書く。人情の機微、人間と人間とのやりとり。そうしたことをできる心根のやさしさを持っている人を育てたい。私はざっとこう考えている。10歳から20歳までで人間観が、15歳から25歳までで人生観が、20歳から30歳の間に社会観が形成される、と。20歳前後は人間観、人生観、社会観の分岐点で、大切な時期である。この頃に人生の師に出会ったり、素晴らしい芸術に出会うことが望まれる」−20世紀を振り返って個人として、会社として最も印象に残っていることは。「私は、7年前にガンで胃を4分の3切除した。それは、自分として、一番の大きなできごとだった。その時に出会ったのが、宮本輝の小説の中に出てくる、「明るく振る舞えて、感謝の気持ちを忘れなければ必ず勝つ。地獄でも勝つ。」というたった二行の言葉だった。その言葉にいたく感動して、自分がガラっと変った。やさしさとか人間としての喜びとか生きる大切さを悟った」−山本本部長にとって、21世紀のキーワードは、なんでしょうか。「20世紀は「戦争」と「公、優先」と「強さ」の100年だった。
21世紀は「平和」で「私が尊重」され、「やさしさ」で潤う世紀となるのでは」。
第27回 実践研究助成
「視聴覚メディア・情報メディアの効果的な活用及び教材開発」などに関する実践的研究を行う団体を助成する、松下視聴覚教育研究財団主催の第27回実践研究助成の応募要項が開示された。
2001年4月からスタートする一般研究(1年間を単位とした自由課題)とテーマ研究(2年間を単位とした特定課題)からの応募を受け付けている。応募資格は団体を単位とする(学校、社会教育施設、教育研究所、教育センター、教育関係団体など)。
一般研究への助成は1件あたり最高額70万円(約74件)、テーマ研究は1件あたり総額120万円(3件)。
本年度のテーマ研究における特定課題は「総合的な学習と情報コミュニケーションの相互作用に関する実践研究」。
受付は1月31日まで(消印有効)。
応募要項・申請書の請求、問合せ先は同財団助成推進課まで 〒140−8632東京都品川区東品川4−5−15
TEL03・5460・2705、FAX03・5460・2719
http://www.mef.or.jp |
(2001年1月1日号より)
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