一人一課題を持ち

一年間通し研究をし発表

埼玉県立杉戸町立杉戸中学校


1年間の活動を終え生徒の発表から

 「自分で課題を持ち、調べる。普段の授業では調べられないことも、調べられた。実際に現場に行って見聞し、地域の人とも交流できた。インターネットも使った。コンピュータやOHP、OHCを使って他の人に分かりやすく発表することもできるようになった。はずかしかったが、人前で発表することにも慣れてきた。」
 「すべて自分1人で行動していく授業は、はじめてだった。自分なりに考えていくことの難しさを知り、情報機器の使い方も知り、他の人の発表からもいろいろなことを学んだ」

 埼玉県杉戸町立杉戸中学校(生徒数844人、普通学級23学級、特殊学級2学級)では、平成9年11月に文部省の研究開発学校の指定を受け、総合的な学習についての研究をはじめた。平成9年度は理論的な研究に費やし、10年度から実践をはじめた。
 「自分の個性や学習スタイルを発見し、生涯に生かせ学んだことについて提言ができる生徒を育てていく」を目標にした。目指す生徒像として、1自分の興味・関心のもとに適切なテーマを見出せる生徒2主体的に情報を収集・選択し、表現方法を工夫できる生徒3人と人との関わりの中で、粘り強くテーマを追求できる生徒4既習事項をもとに自分で考え、実践できる生徒5他の意見を尊重し、自分の考えをまとめ提言をできる生徒、5点を設定した。

 研究当初は迷いもあったようで、「研究を進める過程で、埼玉県が総合的な学習の時間に関する調査研究検討委員会を作ってくれた。そこでの指導が研究の支えになった。とにかく、どこにもモデルがなかった」と小熊章夫校長。また、福原良男教頭も「当時、総合的な学習の時間と言われても、正直良く分からなかった」と本音を語る。
 しかし、3月3日の研究発表会では、生徒一人ひとりが1課題を設定し、1年間を通して調べ研究したことを発表する。総合的な学習の成果が良く現れていたように、思われた。

異学年構成のクラス
 同校では、教育課程の編成において原則すべての教科で下限を取ることで、総合的な学習の時間を生み出した。1年間70時間、各学年週連続2時間、しかも1、2、3年の異学年構成で3〜4学級合同で総合的な学習に取り組むという形態をとった。
 生徒のアンケートをもとに、総合的な学習の時間の名称は「ふるさとE・L・」(Enjoy Leaning)とした。そして、1年7組、2年3組、3年4組、3年7組などで構成される7つのELクラスを構成。3学級のELクラスには教員が5人、4学級には7人の教員が付き、活動を展開していった。

5つの学習の流れ
 年間の学習の流れは下表の通り。オリエンテーション↓メディア学習↓ホーム学習↓テーマ学習↓ジョイント学習と進めて行った。オリエンテーションは「ふるさとE・L・」の導入部として、例えば教員自身が車椅子に乗って登場し、生徒が学習全体のイメージをつかめるような提示をした。総合的な学習のバックボーンとして考えたメディア学習では、OHPで家から学校までの地図を書く課題やデジタルカメラで4コマ写真を撮ってくる課題などを課し、基本的な使い方を教えた。

難しかったホーム学習
 ホーム学習は、生徒自身がテーマを決めて、1年間を通した学習の活動計画を立てる時間。学習の大きな括りとして、杉戸町の出身ではない生徒が多い実態を踏まえて「郷土」を付け加え、郷土、国際理解、情報、環境、福祉・健康を5本柱として設定。しかし、ホーム学習ではあえて5本柱については生徒に話さず、郷土を念頭におきながら、「環境があるね」とか「インターネットというのもいいね」という程度の呼びかけをしたという。
 「ホーム学習が一番難しかった。学習時間は6時間に設定していたが、課題を発見するまで12時間ぐらいかかった生徒もいた。それでも、その時間が貴重なことであると考え、生徒が自分で課題を決めるまでとにかく待つことにした。総合的な学習の良さは自分のペースで学習できること」(福原教頭)

 そして、テーマ学習で、調査や現場体験、外部講師の招聘、見学などを繰り返して、生徒一人ひとりが自分の計画に従って学習。ジョイント学習でその成果を発表するとともに、他の生徒の発表を聞き刺激を受け合った。
 基本的に、この流れを前・後期2度繰り返すことで、生徒の学習を深めて行った。
 校内のいたるところに、生徒たちの作品が掲示されている。画用紙に新聞の切抜きを貼りつけ、記事についてコメントしたものや、「地球とエネルギー」「公害について」「遊びと子どもたち」「スポーツホームページを作る」「ギネス94」「星座を調べる」など844人の生徒一人ひとりのテーマの一覧も掲示されている。他の生徒の掲示作品を見て、友達同士で前向きに話し合う生徒も見られる。

 全体発表会では、国際理解、環境、郷土、福祉・健康、情報のテーマ別に生徒の代表者が、自分のテーマについて発表した。「お年寄りと楽しもう」をテーマにした生徒は、「まず、老人体験でお年寄りの立場に立った。ゆるやかな坂でも車椅子は大変で、目と手が不自由な人を想定した体験もした。そして、体験をまとめた新聞をパソコンで作った。パソコンで作るのははじめてでどう作ってよいか分からなかったが、勉強になった。最後に私の提言。私たちが大人になってやっていくべきことは、生きがいをお年寄りに持ってもらえる社会を作ることだと考えた」と。生徒はデイサービスセンターなどを訪問したときの写真を書画カメラで投影したり、様々な情報機器をスムーズに扱いながら発表していた。
 同校にWindows95対応のパソコン40台が導入されたのは、昨年の9月(それまではMS−DOS対応機)。それでも、なんら抵抗なく扱っていたようで、生徒の情報機器への柔軟さを示していた。

活動の成果
 (田中研寿研究主任)
1自分の意思を伝えられるようになった生徒が増えた。
2保健室に行っても、きちんと自分の症状が言えるようになった。
3メディアを普通の文房具のように使えるようになった。
4自分自身の勉強として、取り組めるようになった。

課   題
1図書・調査資料の充実
2コンピュータ活用に向けた研修の充実
3校外調査活動の充実と安全確保
4個人差に応じた学習支援

(教育家庭新聞99年4月3日号)