学校給食 ポリカーボネート製食器の使用状況が判明
学校給食に使われているポリカーボネート(PC)製食器から、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)の一種であるビスフェノールAが溶けだすことが問題になっているが文部省が調査したところ、給食を実施している公立の小・中学校の約4割にあたる1万2409校で、このPC製食器を使っていることが判明した。また、すでに39自治体が他の材質の食器に切り替え済みで、現在使用している市町村のうち168自治体が他の材質に切り替える予定であることもわかった。これは今年5月現在の調査で、厚生省の食品衛生調査会(厚相の諮問機関)の「使用規制は必要ない」との判断をもとに、文部省では一律の措置は打ち出さず、使うか使わないかについては各自治体に任せる方針だ。
<詳細>
同調査は今年の5月現在の数字をまとめたもの。それによると、学校給食を実施している小学校2万3065校中39・9%にあたる9202校、同じく中学校7844校中40・9%にあたる3207校でPC製食器を使っていた。 PC製食器は1衝撃に強い2軽量3見た目がきれい−−といった特徴を持つこともあって、平成6年5月現在の使用率(16・8%)に比べて約2・4倍にまで増えていたのが実情。また市町村数で見ると、給食を実施している3207市町村のうち、1種類以上のPC製食器を使っていたのは1686市町村だった。
このPC製食器については、食品衛生調査会の部会が今年3月、お湯や酢など4種類の液体を容器に入れてビスフェノールAがどの程度検出されるかを調べたところ、食品衛生法の基準値である2・5ppmを大幅に下回っていたこともあって、「使用禁止にあたらない」との見解をまとめていた。ただ、ごく微量でも作用する性質を持ち、専門家による動物実験では生殖への影響が指摘されていることもあって、人体への影響が懸念されている。環境庁と建設省でも全国の河川で濃度を調査中だ。
一方文部省では、PC製食器を一律に使用禁止とする方針はとらないものの、環境ホルモンに対する保護者の不安が広がっていることを考慮。1学校給食で実際に使用されているPC製食器からビスフェノールAがどの程度溶出するかについて、食品衛生法の基準に基づいた試験を実施(47都道府県846市町村)2学校関係者に向けた「内分泌かく乱物質」に関する情報(分権情報、統計データ、各省庁の取り組み)を提供するためのホームページをインターネット上に開設する−−といった事業を平成11年度予算の概算要求に盛り込み、合わせて2900万円を要求する方針を固めている。
他の材質に切り替えた市町村と切り替え予定の市町村は次の通り。
【他の材質に切り替えた市町村】▽北海道=黒松内町、厚岸町、白糠町、清水町▽宮城県=柴田町▽秋田県=大潟村、矢島町▽山形県=大蔵村▽福島県=大越町▽群馬県=川場村▽埼玉県=松伏町▽千葉県=神崎町▽東京都=板橋区▽岐阜県=春日村、板取村、高根村▽愛知県=西枇杷町▽三重県=芸濃町、尾鷲市▽島根県=広瀬町、温泉津町▽岡山県=備中町、哲西町、勝央町▽広島県=三和町▽徳島県=鳴門市▽高知県=鏡村、土佐山村、佐賀町▽福岡県=吉井町▽熊本県=三角町、菊水町、鹿北町、七城町、旭志村、産山村、鏡町、球磨村、栖本町
【他の材質に切り替え予定の市町村】 ▽北海道=江差町、上ノ国町、厚沢部町、熊石町、北檜山村、岩内町、仁木町、赤井川村、岩見沢市、栗山町、新十津川町、妹背牛町、秩父別町、名寄市、東神楽町、当麻町、剣淵町、朝日町、風連町、留萌市、猿払村、稚内市、利尻町、利尻富士町、小清水町、置戸町、生田原町、豊浦町、静内町、浦川町、忠類村、本別町、標茶町、鶴居村▽岩手県=雫石町、西根町、矢巾町、大迫町、水沢市、藤沢町、東山町、大槌町▽宮城県=白石市、蔵王町、柴田町、小野田町、鹿島台町、鳴子町▽秋田県=八郎潟町▽山形県=新庄町、舟形町、遊佐町▽福島県=大越町、都路村、熱塩加納村、楢葉町、川内村▽栃木県=黒磯市、市貝町、岩舟町、氏家町▽群馬県=宮城村、子持村、新町、中之条町、東村▽埼玉県=都幾川村、吉見町、荒川村、妻沼町、川本町、菖蒲町▽千葉県=松戸市、四街道市、八日市場市、飯岡町、海上町、蓮沼村、大網白里町、茂原市、御宿市、木更津市▽神奈川県=相模原市、松田町▽新潟県=長岡氏、村上市、亀田町、中之口村、塩沢町、中里村、刈羽村、松之山町、中郷村、清里村、朝日村、佐和田町▽長野県=八千穂村、青木村、武石村、松川町、堀金町、豊野町▽岐阜県=春日村、清見村▽静岡県=富士市、長泉町、富士川町、福田町▽愛知県=名古屋市、額田町、稲武町▽三重県=玉城町、阿児町▽京都府=加茂町▽大阪府=和泉市、高石市、河南町▽奈良県=橿原町、川上村、東吉野町▽島根県=湖陵町、柿木村▽岡山県=吉永町、牛窓町、矢掛町、有漢町、哲西町、新庄町、勝央町、西粟倉村▽広島県=東広島市、芸北町、豊町、向島町、油木町、豊松村、庄原市、上下町、吉舎町、比和町▽愛媛県=大西町、弓削町、西海町▽高知県=十和村▽福岡県=宗像市、古賀市、新宮町、香春町、添田町、金田町、山川町▽佐賀県=山内町、三田川町▽熊本県=嘉島町、泉村、姫戸町、苓北町▽宮崎県=綾町▽鹿児島県=伊集院町、高山町▽沖縄県=東村、宜野座村、伊是名村、西原町、仲里村、具志川村、南大東村、石垣市
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【横浜市がPC食器使用続行】
全国に先がけて学校給食用ポリカーボネート食器(PC食器)の調査を行ってきた横浜市が、先月28日にビスフェノールA溶出試験の結果を発表した。試験は実際の学校給食での使用状況を踏まえた横浜市独自の試験項目と食品衛生法に基づく試験項目により行ったが、横浜市独自の溶出試験ではビスフェノールAが全く検出されなかったことから、現時点でのポリカーボネート食器の使用中止や他の食器への変更等の措置を行わないことを明らかにした。
【横浜市の調査状況】 横浜市では平成6年度より、それまで主流であったアルマイト食器から、ポリカーボネート食器を導入し、年々使用校は増えてきており、現在市内の使用甲は353校のうち238校(1部でも使用しているものを含む)。PC食器の環境ホルモンに関する多くの報道や市民の不安感をうけて今年度から調査にのりだした。 検体の食器はあらかじめ学校給食での使用状況を想定し、洗浄後に熱風保管庫(850113・30分)で消毒を行ったもので、新品と1年から3年までの使用品あわせて186の検体を使用して行われた。
横浜市独自の試験は、水(800113)、水(再洗浄したもので800113)、スープ(800113)スープ(600113)、オリーブ油(600113)の5項目ですべて放冷した状態で30分間行われたが、どの検体からもビスフェノールAは全く検出されなかった。一方、食品衛生方による試験は、国の基準値(2500ppb)以下ではあるが、60検体中8検体で0・6〜1・0ppbのビスフェノールAの溶出が見られた。
同市の中間報告では、ビスフェノールAを含む外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の健康への影響に関しては国も調査研究を進めている段階なので、市としては現段階での知見や学校給食での実際の使用状況を踏まえた今回の調査結果から、このような措置をとることになったとしている。しかし、今後も学校給食用として望ましい食器については、児童の健康と安全を守っていくという観点から他の食器を含めた調査を実施し引き続き検討を重ねていく。
【各市のPC食器使用状況〜報道先行する場合も】
文部省から8月26日にポリカーボネート製食器の使用状況について発表されたが、すでに他の材質に切り替えた市町村のいくつかに取材をしたところ、ポリカーボネート食器について何らかの調査結果を踏まえての切り替えではなく、テレビや新聞などの報道で環境ホルモンについて騒いでいるために使用を中止したという市町村がほとんどであった。2学期から市内で使われていた2000セットのポリカーボネート製食器の使用を中止しステンレスに切り替えた仙台市でも、「連日の報道で市民からの不安の声が相次ぎました。科学的な結論はわかっていないが市民の不安を取り除くために切り替えた」と理由を述べている。 すでに他の材質に切り替えたいくつかの市町村の回答は以下の通り。
【A市】使用していたのは81校中7校。買い替え時期にともない新聞報道で環境ホルモンについて取り上げていたため、すべて使用を中止し、ポリプロピレン、強化磁器製に切り替えた。
【B市】小学校8校、中学校1校で平成9年から使用していたが、今年度からメラミン、ポリプロピレン、強化ナイロンに切り替え。
【C市】2、3年前から検討を進めており、以前から徐々に強化磁器食器へと切り替えていった。
【D市】現在中学校4校、小学校5校で使用していたものを強化磁器食器へ切り替え。
【E市】見た目がきれいで使いやすいので4校中2校が使用していたが、安全性の面でポリプロピレン食器に切り替え。
今回の発表で使用率が7割以上と高かったのは青森県(75・6%)、沖縄県(73・3%)岩手県(72・8%)、群馬県(72・2%)であったが、この中で青森市では全小中学校のご飯と汁を盛る食器は全てポリカーボネート製で、おかずの食器はアルマイトを使用している。さらに盛岡市でもすべての小中学校で、ポリカーボネートとポリプロピレン製の食器を併用している。盛岡市では、これらの食器が厚生省の基準をクリアしているので現段階で切り替えの予定はないという。
もっともポリカーボネート製食器の使用率が低かった東京都はどうかと都内の6つの区で話を聞いたところ、どの区も主流となって使っているのはメラミン製食器で強化磁器との併用を行っている区も多く、またポリカーボネート製の箸を木製に変えたという区もあった。 東京都では、「家庭で使っているものと同じ食器を使って給食指導を」という考えのもと、各市町村区に強化磁器や陶磁器の使用を薦めているというが、収納スペース等の問題で使用しているところはまだまだ少ないという。 各自治体によって学校給食用食器の使用素材は様々であるが、今後望ましい給食用食器の検討が進むであろう。
【食器メーカー安全性強調】
三信化工・坪井昭氏の話−
ポリカーボネート製食器とは−− まず第一に軽いので、大量の食器を持ち運びするのにも便利であること。さらに耐熱性に優れ、形状は安定し見た目もいいというのが特徴です。学校給食に使用する上では、形状が変わり易いメラミン、着色料の汚れが付着しやすいポリプロピレンなど他の素材と比べてもっとも優れている食器といえます。強化磁器に関しては、食教育の面から使用する自治体も増えてきていますが、やはり大規模校になればなるほどその重さが子どもや調理員の負担となってきます。
ビスフェノールAに関して−− 当社でも溶出試験は以前から行っております。3年から5年使用したポリカーボネート食器からは0・5〜1・0ppbという微量のビスフェノールAは検出されますが、これは厚生省の定める基準値(2500ppb以下)の1000分の1の値であるため、身体への影響はほとんど心配ないとの見方をしております。特に環境ホルモンは胎児の段階でもっとも影響を受けやすいとの報告もされていますし、小・中学生への影響は微弱であると考えています。
今後の対策−− メーカーとしては、お客様のニーズに合わせて対応していくつもりですが、ポリカーボネート食器の安全性も継続して伝えていきたいと思っています。まだまだ情報不足の自治体が多いのが現状ですが、要請があればいつでも情報を与えていきたいと思っております。また、より確かな調査研究を続け、安心して使っていただける食器を提供していきたいと思っております。
(教育家庭新聞98年9月12日)