子どもの心とからだの健康

的確な診断で正しい治療を

子どもの心とからだの健康

医療法人社団茂恵会
半蔵門病院副院長(医学博士)
日本アレルギー学会認定指導医
灰田 美和子さん

 最近、風邪や喉の不調のあと、長い咳症状が続く知人が「咳喘息」と診断されるというケースをいくつか聞いた。筆者もその一例である。「咳喘息」とは初めて聞く病名なのだが、特に検査もせず、問診だけで診断されたことにやや違和感があった。風邪からいつこの病気に移行したのか、喘息になる恐れはないのか、またステロイド系の薬が処方されたので薬に対する不安もあった。「咳喘息」についての正確な情報をアレルギー呼吸器科の専門家・灰田先生に聞いた。(レポート/澤邉由里)

「咳喘息」の現状とは

持続8週以上の咳は可能性あり

‐周囲で「咳喘息」と診断される人が多いのですが、増えている病気なのですか。

  咳喘息そのものが増えているわけではありません。ある大学の教授が「咳喘息が大変多い」と発言されたことから、言葉が独り歩きをしてしまって、咳が長引くと何でも咳喘息と診断してしまう風潮になっているのです。もちろん、実際に咳喘息であったという場合もあります。出された薬がすぐに効いて症状が改善されたら、それは咳喘息だったと判断できます。でも効かなければ別の病気を疑う必要があります。

  診断の目安の一つとなるのは咳の持続期間で、咳が3週間程度で治まる場合は風邪などの感染症によるものと思われますが、8週を過ぎても咳が持続する場合は感染症以外の病気の可能性を考えます。

‐咳喘息以外の病気にはどんなものがあるのですか。

  咳喘息と間違われやすい病気はたくさんあります。逆流性食道炎、慢性気管支炎、副鼻腔気管支症候群、慢性副鼻腔炎の後鼻漏による咳、アトピー咳嗽、喉頭アレルギー、心因性咳嗽、薬剤誘発性咳嗽、風邪症候群後遷延性咳嗽などです。肺がん、気管支結核、気管内異物なども咳が出ますが、これらは咳喘息と間違われることはないでしょう。

  逆流性食道炎とは、食べたものが食道を逆流して喉に引っかかって咳が出るものです。最近日本人に増えてきました。慢性副鼻腔炎の後鼻漏による咳も多いです。鼻水や膿が喉に回って湿った咳が出ます。

喘息への移行も
初診での検査を

‐では咳喘息とはどんなものですか。

  喘鳴、呼吸困難を伴わない慢性の咳が出ますが、呼吸機能はほぼ正常です。メサコリンという薬を用いた場合に気道過敏性が亢進します。症状は気管支拡張薬でよくなります。だいたい風邪症候群から起こることが多いのですが、進行するとタバコの煙、会話、運動、冷気、飲酒でも起こることがあります。喘息へ移行することが多いのが特徴で、注意が必要です。

‐診断は難しいのですか。

  診断の目安となる症状は、1.夜間ないし早朝に多発する、2.2週間以上続く咳、痰、から咳のみのことが多く、喀痰を伴うことは少ない、3.自覚他覚的に喘鳴を認めないが、咳の際に喘鳴感を自覚することもある、4.強制呼出(息を吸って強く吐き出すこと)でも喘鳴、ラ音(ラッセル音=呼吸時に聞こえる雑音のこと)を認めない、5.抗菌剤、通常の鎮咳剤、コデインに反応しないが、ステロイドに反応する、などです。

  典型的な喘息の症状がないので、喘息と思わないで治療していると治らず、喘息の治療を行うと効果的という事が特徴です。呼吸器関連の検査には様々なものがあります。肺機能検査、鼻のCT、可逆性試験、過敏性試験などです。途中まではセットで行って、後は可能性のありそうな検査をオプションで入れていきます。検査費用はかかりますが、的確な診断がつくので、私は初診の検査をきちんと受けることをお勧めします。

‐それは適正な治療のためですか。

  初診の診断を間違えてしまうと、適正な治療はできません。適正な治療ができなければ症状がとれないばかりか、治療そのものが無駄になってしまいます。先日、ある患者さんは、咳喘息と診断されて同じ薬を5年間も飲んでいるが一向によくならないということで、遠方から来院しました。私の診断は逆流性食道炎でした。薬5年分がまったく無駄になり、その間苦しさも続いてしまったわけです。

  またある患者さんは、やはり他院で喘息と診断されたのですが、よく調べてみると、病名はパニック障害でした。突然息苦しくなるという発作が起きるのですが、薬を飲んでも効かず、それを訴えると、薬をどんどん増量されてしまったそうです。私は心療内科の研究もしていますので診断がつきましたが、こうした方は知らずに長い間苦しむことになってしまうので、お気の毒だと思いました。ほかの病気と鑑別するためにできるだけ多くの知識を持っていなくてはいけないと思います。

  こういう事例は最近大変増えています。医師に向かって「薬が効かない」「診断が違うのではないか」といえる患者さんはなかなかいません。だからこそ我々医師がきちんと診断しなければいけないのですが、患者さんのほうも疑問に思ったことは医師に聞くようにしてほしいと思います。

症状を改善している
治療か分析を

‐治療はどのように行いますか。

  喘息の治療とほぼ同じです。抗生物質、咳止めでは効果がありません。気管支拡張薬、吸入ステロイド薬を使います。抗アレルギー薬を用いる場合もあります。いずれにしても、その治療が症状をきちんと改善しているかどうか、患者さんご自身が分析していくことが大事だと思います。

  万が一喘息に移行してしまうと、長く付き合っていかなければならない病気になります。そうなればますます自己管理が大変になります。早いうちから的確に自分の体を知り、病気を知り、管理をしていってほしいと思います。

【2012年7月16日号】

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