教育家庭新聞・健康号

子どもの心とからだの健康

大震災から見た親子の絆

 「PCOT」とはPrimary care for obstetrics patients teamの略で、日本プライマリ・ケア連合学会内の東日本大震災被災者支援プロジェクト(PCAT)の妊産婦支援チーム。PCATの医師が震災後、避難所でまったくケアされていなかった妊婦さんたちに気づき、妊婦検診を行ったのをきっかけに立ち上がった。現在は地元行政や出産・子育て支援者と協働し、被災した産婦人科医院への医師派遣、助産師による宮城県東松島市の新生児訪問、石巻市・東松島市内の子育て支援センターへの支援、地元助産師への活動支援などを行っている。チームといっても現地で実働できる支援助産師はたった一人。今回の大震災では、様々な人に急性期から中期、長期と様々なケアの必要性が明らかとなった。柴田さんの奮闘振りと助産師の今を伺った。(レポート/中 由里)

助産婦による心身のケア

避難所の妊婦と新生児を支援

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日本プライマリ・ケア連合学会
東日本大震災支援プロジェクト
PCOTコーディネーター・助産師
  柴田洋美さん

‐PCOTに参加された経緯を教えてください。

  私の実家は仙台市内ですが、今年3月まで9年ほど京都で助産師をしていました。結婚の予定があったので、3月いっぱいで常勤は退職し、しばらく仕事量を減らして結婚の準備に備えようと思っていたところに、震災があったのです。実家ともなかなか連絡が取れませんでしたし、よく知っている地域が大変になっているのを報道で見るのは衝撃的でした。そこで方向転換をして、4月から看護師として被災地ボランティアに参加したのです。その後7月に東松島市から委託を受けてPCOTで助産師としての活動を始めました。今は遠田郡涌谷町国民健康保険病院に宿泊して、東松島と石巻を中心に新生児訪問などを行っています。

母親の使命感と父親の疲弊感

‐被災後の現地の様子はいかがでしたか。

  とにかく被害がひどく、誰もが問題を抱えていましたので、心のケアは大切な仕事なのですが、私が活動を始めて驚いたのは、意外とお母さんたちが事態をありのまま受け止めているという印象を持ったことです。もちろんショックも受けているでしょうし、生活も大変なのですが、悲壮感がすべてを支配しているわけではなく、そんな中でも赤ちゃんとの生活が楽しいと感じていることが伝わってくるのです。

  都市部に比べてゆったり子育てできている人が多いように感じました。3世代、4世代同居が多く、地域のつながりも深いので子育ての手が多いためか、理由ははっきりとはわからないのですが、ベースとして海や山、自然の力の中で過ごしていた人たちの強さがある気がしました。自然をありのままに受け止め共生するという思いが強いのではないかと思います。気仙沼の市長さんとお話したことがあるのですが、市長さんは「海がある限り気仙沼は不滅」とおっしゃるのです。「海にやられたのに!」とびっくりしました。

  一方、現地では日常的な報道では伝えられていないさまざまな問題があることがわかりました。仮設住宅一つとっても、地域ごと移った小規模なものもあれば、巨大な仮設団地に寄せ集めのように入居するという例もあります。後者はやはり地域のコミュニティができていないので、運営が難しいのではないかと思います。

  また、同じ県でも人々の考え方も体質も違います。それぞれにきめ細かくケアしていかなければいけないと感じています。

  それから最近になって感じるのは、被災の事態は全然収まっていないのに、なんとなく物事が収束に向かっているかのような誤解が広まりつつあることです。全国からの支援もどんどん撤退していますし、同じ地域の中でも被害の大きかったところと小さかったところでは、やはり完全にはわかり合えないんじゃないかというあきらめのような空気も漂ってきました。本当に皆さん、日々の暮らしに精一杯で、先の見えない閉塞感に苦しんでいます。集まった義捐金はありがたく役立ててはいるのですが、生活を立て直すということは、お金をもらえばそれでいいということではなく、きちんと仕事を持って生き生きと働き、やりがいを持って家庭を運営していくことです。そういう意味では仕事や家を失ったお父さんたちのほうが疲弊しているように感じます。赤ちゃんを産んだお母さんたちは今子育ての使命感に支えられて強く生きているのではないかとも思います。

いのちの教育で結びつきを高める

‐現在、少子高齢化で出産自体は少なくなっていますが、助産師さんの仕事はむしろ増えているのではないですか。

  今の助産師の仕事には、お産の介助のほか、妊婦さんの健康管理、母親教室などのイベント開催、出産後のサポートなどがあります。現代は地域の力が昔に比べて弱ってきていて、子育てに戸惑いを感じるお母さんが非常に多いので、その相談にのるという仕事は特に重要だと感じます。また、性教育にも携わっています。学校へ出向いて「いのちの授業」を行います。

‐内容はどのようなものですか。

  子どもたちに、赤ちゃんがどのようにお母さんのお腹の中で育っていって、お母さんはどんな思いで産んだのか、赤ちゃんが生まれるということが家族にとってどういうことか、などの話をします。妊婦体験、胎児体験などもあります。お母さんに出産した当時のことを手紙に書いてもらったりもします。望まれて生まれてきたこと、ご両親の思い、自分自身も頑張って生まれてきたのだということを知ることによって、いのちの原点、いのちの大切さを学んでもらい、自己肯定感を高めてもらうのです。

  私は、今こういうときだからこそ親子のつながりを大事にしてもらいたいと思います。親が自然への対応を知っていると、子どもが落ち着くというのが今回の経験で私が得た感想です。親子のしっかりとした結びつきを高めていくのが私の仕事だと思います。

【2011年12月19日号】


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