東京電力の原発事故以来、放射性物質が広い範囲にわたって降下しており、日々食卓に上がる食材について不安を抱く人は少なくない。学校給食に不安を抱く保護者も急増した。3月17日には厚生労働省から食品衛生上の暫定基準値が通知され、農林水産省も都道府県、厚労省と連携をとって食の安全に努めたいとしていたが、未知の出来事に懸念を振り払えない保護者がいるのも無理からぬこと。横浜市の学校給食に対する取り組みを取材し、安全を願う保護者の要望にどこまで応えられるか、その難しさも踏まえて紹介する。(レポート/中 由里)
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横浜市教育委員会事務局 |
‐事故当初、保護者からはどのような声が寄せられ、どう対応したのですか。
横浜市には、市民からの提案制度がありますが、5月末には学校給食の食材の放射性物質の影響に関するご意見などが約200通寄せられました。また、電話による問い合わせもありました。
そこで保護者の不安を払拭するため、金沢区の「海事検定協会」と港北区の「新日本検定協会」という民間機関で、6月16日から野菜を中心に毎日1件体ずつヨウ素131、セシウム134、137の測定を行うことになりました。測定結果は産地とともにHPで公表しました。
‐横浜市の学校給食のシステムはどういうものですか。
市内には344校の小学校があり、毎日約20万食の給食を提供していますが、献立は教育委員会が作成し、横浜市学校給食会が食材の調達業務を担い、実際には、給食会登録業者が食材を学校へ納品し、自校で調理しています。つまり共同購入、自校調理です。
また、献立については、学校数が多いので食材を確実に調達するために、献立を4つのブロックに分けて1か月でローテーションするという方法を取っています。
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‐その後、検査方法に変化はありましたか。
ほぼ毎日摂取するものなので、7月には牛乳の検査を行いました。その後夏休みに入ったので、検査はいったん休みに入りましたが、8月30日から9月1日の給食再開へ向けて検査も再開しました。しかし、保護者の方々の不安は払拭されませんでした。全食材の検査を行ってほしいという声がずっと寄せられていたのです。そこで、10月11日から、全食材を対象に検査をを行い公表することになりました。
‐手間は相当増えたのでしょうね。
検査機関を増やしました。従来の2機関に加えて、横浜市衛生研究所という機関を追加しました。毎日、検査機関の職員が翌日提供する食材を納入業者の店舗や学校に受け取りに行き、検査機関に運んだり、牛乳など工場が遠いところは送ってもらったり、食材の特性によっても、持ち込み方法を工夫して、できるだけ効率よく組み合わせます。原則として、検査は1食材につき2キログラムほど必要で、時間にすると2000秒程度なのですが、検査にかかるまでに食材の洗浄、刻み、検査容器に詰めるなどの作業がありますので、それ以上の時間がかかります。
横浜市は6月1日に放射線対策部を立ち上げて対応しています。この部長には、3人の副市長が当たり、副部長に健康福祉局長が就任しました。一つの課や委員会では対応できませんので、本市関係機関で連携を取りながら今後も新しい事態に対応していきたいと思います。
‐保護者の方々の反応はいかがですか。
「検査がより充実することを望む」という声が多いですね。市としては、できるだけ市民の皆さんの不安を払拭したいのですが、100%というわけにはいきません。たとえば「西日本の食材だけを使ってほしい」という声もあるのですが、給食は市内344校の児童すべてに提供できる食材量を確保しなければならないことや、産地の特定は行っていないことから難しいのが現状です。また検査は、同じ産地のものについてサンプルを挙げていますが、生産者別にという細かい検査はできません。
そもそも、国が定めた規制値に従い、それぞれの生産地でも検査が行われておりますので、流通しているものは安全であるというのが我々の考えです。しかし、それでも不安がぬぐえないというご意見にお応えして、横浜市では、市場でも検査を行っており、それに加え、学校給食食材の検査をしているのです。どうかご理解をいただきたいと思います。
【2011年10月17日号】