教育家庭新聞・健康号

子どもの心とからだの健康

食中毒を避けるために

つけない・増やさない・殺菌するが原則

 今夏は国を挙げての節電奨励がされているが、健康被害が起こることは避けたいものだ。経済産業省は事業所にも一般家庭にも、冷蔵・冷凍庫の温度設定を見直すことを奨励しているが、これも食品保存に影響のない範囲内に留めたい。ただでさえ食中毒の増える季節、正しい食品保存、取り扱いの仕方を知り、実践することが大切である。食品衛生のエキスパートに食中毒の基礎知識を伺った。(レポート/中 由里)

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日本食品衛生協会
食品衛生研究所・事業部長
常務理事
谷 幸さん

細菌ウイルスの増殖は目に見えない

‐食中毒の定義はどういうもので、どんな種類がありますか

 食中毒とは、有害な物質に汚染された食品を食べることで起こる健康被害のことを指します。その分類は大きく4つに分けられます。

  1つ目は細菌性食中毒で、感染型(サルモネラ菌など細菌によるもの)と毒素型(ブドウ球菌など細菌が産生した毒素によるもの)があります。次にウイルス性食中毒。これはノロウイルスなどウイルスによる食中毒です。3つ目は化学性食中毒で、フグ毒などの動物性自然毒、毒キノコなどの植物性自然毒、ヒスタミン、農薬などの化学物質があります。最後に寄生虫や原虫などのその他の食中毒です。

  食中毒というと下痢、腹痛、嘔吐症状が思い浮かび、その他に、発熱、頭痛、倦怠感、脳神経の麻痺、運動神経の麻痺、呼吸困難などが挙げられます。下痢も出血を伴うものもあります。下痢・嘔吐がある場合は脱水症状が懸念されます。

  細菌やウイルスは肉眼で見ることはできません。また食品の色や匂いを変えずに増殖します。ものが腐るということと細菌やウイルスの増殖は別の現象なので、外見からは安全と判断することはできません。

‐具体的な原因菌と特性、予防法などを教えてください

   図表を参照してください。食中毒予防の3原則は、つけない・増やさない・殺菌するです。

  「つけない」とはいっても、栽培中に土壌などで汚染されることは避けられないので、食材には病原性のあるなしに関わらず菌がついていることを前提として考えるべきです。ですから、「洗う」ことは食中毒の基本的な予防法です。生で食べる場合は加熱による殺菌ができないので、念入りに洗ってください。カット野菜、煮野菜は細菌の増殖が盛んになることもあります。また調理前、中、後に手を洗う習慣をつけることも大事です。調理器具、機械は使用前後に洗浄してください。調理に使うタオルや布巾もこまめに洗浄、消毒したいものです。

  「増やさない」工夫としては、食材の管理が重要です。食材はすぐに冷蔵庫(10℃以下)や冷凍庫(マイナス18℃以下)に入れましょう。ただし詰め過ぎには注意してください。冷気が循環しなくなり、均一に冷やせなくなります。容量の7割程度が目安です。また肉汁や魚の水分がほかの食品を汚染しないよう注意してください。冷凍した食品は使う分だけ解凍します。解凍した食品を再冷凍すると解凍時に増殖した菌をそのまま冷凍することになります。また解凍する際は室温で行うことは避けましょう。また肉類に味付けをすると、味が浸透するとともに肉表面の菌が内部に浸透していきます。味付けされ時間がたった肉はよく加熱してください。

  「殺菌消毒」の方法は、科学的には、次亜塩素酸Na(強アルカリ性、細菌・ウイルス不活化可能、手の消毒には強すぎるので不向き)、逆性石けん(有機物存在下で失活、手の消毒に向く。ウイルスの不活化は不可能)、アルコール(水分が少ない手や調理器具の消毒に向く)、次亜塩素酸水(細菌・ウイルス不活化可能、手の消毒に向く)などがあり、物理的には加熱(75℃1分以上の加熱が有効。ウイルスは85℃以上)、紫外線があります。

  意外と見落としがちなのが、まな板や包丁などの調理器具で、例えば生の肉や魚を切ったまな板や包丁には菌が付着している可能性がありますので、そのまま加熱せずに食べる野菜や漬物を切ってしまうと、二次汚染する危険があるのです。

生肉は危険が前提 子どもには避けて

‐生肉による食中毒がありましたが、予防法はありますか

  普通、菌は肉の表面に付着しているので、中の部分を使えば大丈夫だと思ってしまうのでしょう。しかし、その加工工程で菌が絶対に食べる部分につかないとは限りません。たとえ少量でも、新鮮な肉であっても、菌が体内に入れば何らかの健康被害を引き起こします。特に子どもや老人は重症化しやすく、危険です。食中毒というのは患者数が多く、亡くなる方が出ると大きな話題になりますが、実は報道で見聞きするよりずっと多発しているのです。肉には菌がいる、生食には危険が伴うという前提でお付き合いいただきたいと思います。

表

 

 

【2011年7月18日号】


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