TOP>健康号>子どもの心とからだの健康 |
|
絵本出版社「グランまま社」編集長 |
本の読み聞かせというと、家庭、幼稚園や学校で体験した思い出を持つ人が多いだろう。明治から昭和期の児童文学者・巌谷小波の口演童話がよく知られているが、日本には古来「語り部」という表現形態があり、特に小さな子どもに向けて語り諭す、あるいは楽しませるという行為はごく自然なことだったと思われる。一方近年では、親子間のコミュニケーションを育てると言われ読み聞かせが奨励され、多くのボランティアが読み聞かせ集団を作り、教育機関を訪問するなど、一種のブームとも言える。そんな中でも異彩を放つ「パパ,S絵本プロジェクト」が絵本ライブに求めるものは何なのか、メンバーの田中尚人氏に話を伺った。(レポート/中 由里)
絵本のおもしろさに気づく入口として
‐「パパ,S絵本プロジェクト」の概要を教えてください
現役育児中のお父さん3人(田中氏、安藤哲也氏、金柿秀幸氏)が自分の子どもと絵本を読んだ楽しい体験を、よその子どもたちとも分かち合いたいという思いから生まれたプロジェクトです。3人の育児体験やお奨め絵本の紹介をするサイトを作ったのがきっかけで2003年5月に発足しました。1回1時間ほど、40人から50人くらいの子どもたちを集めて絵本ライブとお話をします。場所は図書館や自治体の集会所が多いですね。お父さんやお母さんの参加も大歓迎です。
‐読み聞かせといわず「ライブ」と呼ぶのはなぜですか
僕たちは読み方のプロではないし、特別な訓練もしていません。絵本から感じることを感じるままに伝えるだけで、絵本の内容や作家の意図を正確に伝える読み聞かせとは違うものなので、ライブと呼んでいます。この活動は絵本の面白さに気づく入り口だと思っていますので、まずはお腹の底から「面白かった!」と思って欲しい。だからスタイルにはこだわりません。じっと座って聞きなさいとも言いませんし、反応がよければ読み方もプログラムも変えてしまいます。子どもたちが大きく反応し、どんどん乗ってくるのを見るのが楽しいんです。「コール&レスポンス」、これが僕たちのライブの要です。
育児は夫婦の共同で 本棚は父の目線で
‐現在は音楽も取り入れていますね
2004年から、プロミュージシャンであり音楽療法士の西村直人氏がメンバーに加わりました。ちょうどその頃、参加する子どもたちに0歳児が増えてきたことで、言葉と絵だけで世界を共有することに難しさを感じ始めていました。リズムとメロディが加わると、どんなに小さな子でもぱっと笑顔になります。絵本に入っていく入り口としては、言葉でも音楽でもいいじゃないか、と気がつきました。
‐絵本の選び方に基準はありますか
1回のライブで持参するのは10冊以上、その中から場の雰囲気に合ったもの6、7冊をその場で選びます。
僕の選び方の基準は、まずびっくりする内容であること。例えば「牛乳には大事な栄養があるけど、いつも飲むのは飽きるよね!」などと、常識や刷り込みを一回ひっくり返し、そこから自分なりの考え方を再構築できるものです。
あとは、お母さんが選ばないようなものです。お母さんの多くは教育的、しつけ的側面のある本、またほのぼのと心温まるような本を好む傾向があります。もちろん悪いことではないのですが、せっかくお父さんが選ぶのだから、違う目線で、ダイナミックでインパクトのある話を選びたいですね。よく選ぶのは尾篭な話。「オナラ」や「ウンチ」の話が子どもは好きです。
極端な昔話もいいですね。多くの民話は「やっつける」「強奪する」などの残酷な一面も持っています。一読すると極端でよくないことのようですが、子どもの心の中にそこで小さなとげが残るのが大事だと思います。飲み下しは悪いけれども、文学的フックになり得ると思います。
あとは「おバカパワー」のある話ですね。教訓も何もない筋道いらずのお笑いパワーを楽しむ力はやはり強くたくましいものです。
僕は、本棚の母子家庭化はよくないと思っています。育児は夫婦の共同作業だから、日常的にバランスが取れていないといけない。一方が子どもを守ってしつけをし、理屈の通った身体や心を育てたら、もう一方はそれをあえて壊して、理屈が通らない不条理なことが世の中にあることに免疫をつけてあげたいのです。
|
子どもの読書の前に 親が読書を楽しんで
‐絵本を字・英語の学習や大人の読書への入り口としてとらえることはどう思いますか
絵本好きの子は読書好きになるのではないかと妄信する親は多く、また、勉強ができるようになると期待することもあるようです。しかしこれらは決して同じレール上にあるものではないと思います。今の子どもは、小学校中学年くらいまでは、家庭でも幼稚園、保育園、学校、自治体などでも、読み聞かせてくれる場にかなり恵まれていて、絵本を読むことは定着したといっていいと思います。
しかし、そこで絵本は卒業して大人の読書に移行するというのは違います。絵本を読んでもらうことと、自分で読むということ、子どもと大人がいっしょに楽しむということは、まったく違う次元のことです。自分で読めるようになったからといっていきなり突き放さないでください。子どもが「読んで」と言ってきたら大人の本でも読んでやればいいし、絵本を自分で読んでいたら見守ってやればいいのです。
僕の次男は小学2年生ですが、今では僕たち夫婦に自分の好きな本を読んでくれます。そうするとまた別の楽しみも生まれます。さまざまな楽しみ方ができるのが本であり、垣根も決まった道筋もないと思います。
また、子どもが読書好きになることを望む前に考えてほしいのですが、お父さん、お母さんは日常的に読書を楽しんでいるでしょうか。親が他のことを忘れるくらい本に夢中になっていれば、子どももどれだけ面白いものなんだろうと興味を持つに違いないと思います。
‐今後の活動について抱負はありますか
まだ手探りですが、少しずつ機会を得ることができたので、児童養護施設や特別支援教育が必要な子どもたちなど、自力では僕たちのライブに来られないような子たちのところへも活動の幅を広げたいと思っています。
活動は8年目となり、公演は200回を超えましたが、僕個人としては今までもこれからも大事にしたいことがあります。永遠のアマチュアイズムを持ち続けることです。プロ化してはいけないし、子どもをなめてはいけない、絵本に頼ってもいけないと思います。
何年経っても、相変わらず誰でもできるような読み方をしている、と思ってもらっていいのです。これなら俺にもできるな、と多くのお父さんたちに思ってほしいですね。