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日本学校歯科医会常務理事 |
子どもの口腔の健康向上に学校歯科保健活動、とりわけ健康診断が寄与したものは大きい。平成7年からはむし歯の発見・予防のみならず、歯列咬合、顎関節も診査されるようになり、学校歯科保健の果たす役割は広がっているが、一方診査の方法や事後措置についての判断が統一しにくいという問題もあるという。学校歯科保健の現在と今後の展望を日本学校歯科医会常務理事の赤坂守人さんに伺った。
(レポート/中 由里)
むし歯の減少で歯列への関心増加
‐平成7年に学校歯科健康診断に歯列咬合・顎関節の診査が導入されたいきさつを教えてください
やはりむし歯が減ったことが大きいですね。以前は、学校歯科はむし歯対策が中心で、子どもたちのむし歯を減らすことに努力してきた甲斐があって、目覚しい効果が現れました。そうした時期に歯列咬合・顎関節などの治療に関心を持つ人が多くなり始め、また都市部を中心として歯並びを重視する社会的ニーズが高まりました。それで新しい診査項目を導入することになったのです。
‐日本のむし歯予防対策はそれほど目覚しい効果を生んだのですか
子どもたちのむし歯に対して、教育的手段でこれほど事態が改善された国は他に類を見ません。例えば欧米では水道水にフッ素化合物を添加してむし歯予防を図る国がありますが、これは、効率は大変良いのですが、日本ではそういう手段はとられませんでした。
やはり学校保健教育などの啓発が効果を生んで、各企業もフッ素化合物入りの歯磨剤を開発しましたし、そのシェアも伸びたのではないでしょうか。現在日本の子どもの12歳以下のむし歯保有本数は、都市部を中心とした平均で1・4本となっています。その中には処置済1本を含んでいますから、完全なむし歯(治療されていないむし歯)は1本に満たないのです。私は日本の子どもたちのむし歯問題は、近いうちに収束する方向に向かっていると思います。
歯周疾患が増加 発病の低年齢化へ
‐では現在子どもたちの歯科の健康においての問題は何ですか
歯列咬合・顎関節が、学校歯科健康診断の診査項目に入ったことに象徴されるように、口腔機能の問題がクローズアップされてきました。しかしむし歯が減ったことによって口腔疾患が注目されなくなったかというと、そうではありません。残念ながら歯周疾患は増えており、さらに発病時期の低年齢化という大きな問題を抱えています。
歯周疾患が増えてきた背景には、全体に軟食が増えたということがあります。柔らかい食べ物ばかり食べていると歯肉が洗われず、マッサージ効果も低いのです。子どもに関しては、指しゃぶり、口呼吸、緊張時のクレンチングなども歯周疾患、機能異常に関わりますが、これはストレスによることも多く、メンタル面でのケアが重要になります。
‐学校歯科健康診断に求められるものは何でしょうか
学校での健康診断はスクリーニング診査です。以前、学校歯科医は、むし歯を早期発見して早期治療をするという役目が非常に重要視されていたので、徹底して診断したいと思う方が多いかもしれませんが、学校では診査時間にも診査環境にも限界があります。学校歯科医の目的は、子どもたちの口腔の状態をきちんと把握し、必要があればかかりつけ歯科医、専門の矯正医に精密な診査を受けるように勧めることです。歯列、噛み合わせの状態によっては、さらに悪化することもありますが、発育経過によって改善していくこともあるので、経過観察をきちんとしていくことが大切です。
また噛み合わせに問題があれば、ケガによる歯の外傷も予測されますし、顔貌によるコンプレックスが生じたり、言葉のひずみやゆがみによって周囲とのコミュニケーションが取りづらくなるなどの問題が起こりやすくなることも考えられます。学校歯科医ならば口腔内の問題からもう一歩進んで、子どもの生活そのものを考えて取り組んでほしいと思います。病気と生活習慣の問題に歯科は深く関われる分野なのですから。
健康診断の結果を 健康教育につなぐ
‐今後、学校、保護者、地域に求められることは
学校歯科医が行った健康診断の結果を健康教育につなげるようにしていただきたいと思います。疾病予防のみならず、一人ひとりの子どもの人生に関わる機能、メンタルの問題をも解決していこうという考えに至ったことは、学校歯科保健にとって、あるいは健康教育にとっても大きな転換期です。我々もそのことを大切に捉えていきますので、学校も保護者の方も、足並みを揃えて取り組んでください。サポートし合うシステムが整っていれば、どこかに不備があっても補い合うことができます。例えば学校保健委員会は、学校、家庭、地域、そして子どもたちとも深く関われるいい機会ですので、充実した学びの場にできるといいですね。あるいは教科の中で歯科医をゲストティーチャーに迎えるなどの工夫ができるといいと思います。
日本は戦後、豊かさと便利さにおいては飛躍的に成長した国です。しかし残念なことは、次世代の子どもに充分に投資してこなかったという問題点があります。今こそ、学校、家庭、地域、医療が連携し、真剣に子どものことを考えていくときだと思います。