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子どもの心とからだの健康
夏の自然体験 安全対策と子どもの成長

松本 秀夫さん

日本ボーイスカウト
東京連盟山手地区
渋谷第5団団委員長
松本 秀夫さん

自然と付き合う心構え

 例年に勝るこの夏の猛暑をものともせず海へ山へ出かける家族連れ、子どもたちは多い。しかし、楽しいアウトドアスポーツ、行楽の中で、痛ましい事故も起きている。毎年同じような事故が起き、警鐘は鳴らされているのに、繰り返されるのはなぜか。また昨今では、気象の急激な変化、地盤や地形の変化などにより、以前は予想しにくかった事故も起きている。ボーイスカウト歴約40年の松本氏は、様々な場所で子どもたちの引率を勤め、自身も危機を経験した。その経験の中から体得した大自然と付き合う心構えを伺った。(レポート/中 由里)

【川・海・山すべて天候は数日遡って】

‐夏の自然体験で事故が懸念される場所と注意点を教えて下さい

 大きく分けて、川・海・山があります。すべての場所に言えることですが、天候は必ず実行日の数日前に遡って周辺の状況も含め、考察してください。
 まず川の場合、天候チェックは特に大切です。上流で部分的豪雨があった場合、時間を置いて下流に影響することが多いのです。また上流の設備などの調査、川底の状況の確認を行ってください。上流にダムがある場合、放流の恐れがあります。川底は、岩、川藻、コケの有無、深さを確認します。岩場であれば怪我をしやすいし、川藻やコケが多ければ滑りやすくなります。また深さについては、急に深くなっているところを調べておくのはもちろんですが、浅いからといって安心しないように。水深が大人のくるぶし程度であっても、流れが速ければ足を取られます。
 さらに安全管理を行う大人の配置を徹底してください。まず全体の監視者を全てが見渡せる場所に置き、最低でも川上に1人、川下に2人を配置します。これは最低限の人数です。川上の監視者は状況が変わったときの最初の伝令役を務めます。川下の2人は、流された子どもの救助に当たります。お互い声が聞こえる程度の距離を置くといいでしょう。川の流れは思っているよりも速く、走っても泳いでもなかなか追いつけません。
 海では、まず現地が遠浅なのか、岩場なのかを把握します。岩場では特に足の怪我が多いので丈夫な履物を着用することを徹底します。さらに万が一沖に流されたときのことを考えて、周囲の海流の状況を調査し、救出方法も整えておきます。活動エリアは極力狭く抑えて、周囲を完全に大人が囲む形にしましょう。海は対応範囲が広すぎ、また水の事故は深刻化しやすいため、スカウトキャンプでは極力避けています。
 山については、パーティを組んでの登山を想定して説明します。山の場合は活動時間が長いことも多いので、備品、コース、行程、緊急対応の想定など、計画と準備をしっかり整えてください。そして活動に関する熟知者を必ず配備します。山における状況は、経験と情報でしか把握できません。
 情報収集ツールはラジオから多機能携帯電話に変わるなど進化していますが、電波の問題などがあり、役に立たないこともあります。また日程には予備日を必ず設けてください。天候・状況によっては大胆に予定を変え、エスケープルートを確保しておくなど、目標の日程、道程にこだわりすぎないことです。
 さらに子どもたちの体力・精神力には差があるので、万が一脱落者が出たときのことも考えてプログラムを組んでください。脱落者が1人出たら大人はマンツーマンで対応しなくてはならないので、残りの子どもを見る大人が減ることになり、負担が大きくなります。撤退する勇気も持ってください。

【悪天候で体温低下 低体温に注意を】

‐その他気をつけるべきことはありますか

 子どもたちが出かけるのは、川・海・山だけではありません。高原、里山、干潟など、比較的安全と思われる場所でも、害虫、害獣の危険はありますし、夏場は落雷にも気をつけたいものです。
 また今熱中症が話題になっていますが、見落としがちなのが低体温症です。急な天候の変化で雨風にさらされると、体温がどんどん奪われます。体温が35度以下になると脳の活動が麻痺するといわれます。
 昨年の北海道トムラウシ山の惨事は記憶に新しいと思いますが、あれがまさに悪天候とカロリー不足により引き起こされた低体温症による事故でした。

【人間は小さな存在 「何とかなる」は捨てて】

‐子どもたちの積極的な自然体験への取り組みと、危険回避とのバランスが難しいですね

 安全を守りつつも子どもたちの冒険心を満足させないと心の成長、教育につながりません。事故につながる状況のパターンをしっかり念頭において安全を確保したいものです。
 それは、子どもがはしゃいで周りが見えなくなってしまう、安全管理者の視界から抜け出し個人行動をとる、自然相手の活動はいつでも「死」に直結するということを忘れ、緊張感を失う、準備を怠り天候急変に対応できない、調査不足、安全管理者不足、健康状態の把握不足、などです。
 最も大切なのは「何とかなる」という過信を捨てること。自然の中で人間は小さな存在です。どんなにあがいても事が起きてしまったら「何ともならない」。このことを忘れないでください。


【2010年8月21日号】

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