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子どもの心とからだの健康
都市農業における地産地消給食


練馬区教育委員会事務局
学校教育部施設給食課長
金崎耕ニさん

生産者が見える作物の意義

 学校給食での地場産物の利用は、食育推進基本計画に盛り込まれている。計画では、都道府県単位での地場産物を使用する割合の増加を目標とし、平成16年度に全国平均で21%だった割合を22年度までに30%以上とすることを目指している。生産者にも学校にも、国の農業にとってもメリットのある取り組みだが、生産者との連携、流通ルートの確保など、クリアしなければならない問題も多い。特に都市部では、近辺に農水産地が少なく、生産者の確保が難しい。都市農家が多いものの、地域によって生産環境が異なる練馬区の事情を伺った。(レポート/中 由里)

【食を大切にする心を育む施策】

‐国の食育推進基本計画を受けて、練馬区ではどのような取り組みをしていますか

 食育を進める施策のために「練馬区食育推進計画」を策定しました。計画期間は平成20年1月から23年3月までです。食育の基本理念を「食を通じて生きる力を育む」と定め、さらに計画では4つの基本方針を定めています。その4つとは、(1)健全な食習慣の習得と、心身の健康増進を図ります (2)食を大切にする心を育みます (3)健康的で安全・安心な食べ物を選択する力を育てます (4)多くの区民の連携による食育の広がりを目指しますで、学校給食の地場産物利用は、2つ目の「食を大切にする心を育む」ための具体的な施策です。

‐練馬区の生産環境の特徴を教えてください

  練馬区は23区の中でも都市農業を広く展開している区で、まったく農地のない都心の区に比べれば、区内産のものを学校給食に積極的に取り入れることは比較的容易だと思います。ただ区の中に、都心と同じような状況の地域と、昔ながらの畑が広がっているような地域とが混在している状況です。つまり地産地消学校給食に取り組みやすいところと取り組みにくいところがあるということです。区内に小中学校が99校ありますが、全てが同じ条件ではないということです。

【練馬大根など28品の地場産物】

‐現在、地産地消の実績はどのくらいですか

 平成20年度で、全食材数に対する区内産物の割合は2・7%、品目数でいうと28品を地場産物で賄っています。キャベツ、練馬大根、小松菜、ブロッコリー、長ネギ、白菜などです。目標として10%を挙げていたのですが、なかなか達成できていません。それにやはり環境によって実績もまちまちになっています。

‐どんなことが問題になっているのですか
 地場産物を給食に取り入れるには、生産者の方々と学校側相互の協力と理解が不可欠です。生産者の側の問題としては、まず一定の量の農産物を決められた日の朝必ず納入しなければいけないということがあります。学校給食は規模にもよりますが、1日に数百食を必要とします。献立は1か月前には決まっていて、栄養的にバランスが取れているものなので、生産者は例えば明日の朝キャベツを何十個必要というときに、確実にそれだけの出荷数、またそれを運ぶ人手を確保しないといけません。ある程度畑が大きくて余裕を持って納品できる、人手にも余裕がある、という条件を満たさなければならず、生産者にとっての負担は少なくありません。天候次第ではどうしても必要な野菜を出荷できないということもあり、そうなると学校側も献立を組み直さなければいけません。一度決めた献立を組み直すのは非常な手間ですが、生産は天候に左右されるので、学校はそうした体制を保つことになります。そもそも都市農家は農地が狭い場合が多いので、一つの品目を大量に生産するよりは、多品目生産が多いのです。ですから学校給食のように、一つの品目を大量に消費する場への提供は難しい。

  また野菜には市場価格があり、価格の上下変動があります。一方学校給食は1食300円を切るような給食費(小学校低学年227円〜中学校309円)の中で運営していますので、経済的に折り合いをつけるのも難しい場合があります。精神的な苦労と実質的な苦労の両方があります。

【意識づけとして年2回の収穫参加を】

‐一番進んでいる学校はどこですか

 八坂中学校の取り組みです。ここは給食問題だけではなく、子どもたちが農業体験や家畜の飼育体験などもしているので、総合的に食育が理想的に行われている学校だと思います。しかしここは、食育推進のモデル校であり、状況が地産地消給食の取り組みを阻む学校もあるのです。八坂中学校は都内に26人しかいない栄養教諭が配置されている学校です。周囲の環境にも恵まれている地域なので、それをすぐに区内全校に適用させることはできません。体制が整わないのに無理をしても、長く続かないと思うのです。今現在、通年で地産地消給食ができない学校でも、年に何回かの企画として取り組むことは可能ですし、そうしたところからゆっくり進めていけばいいのではないかと思います。今取り組んでいるものとして年2回行っているのは、練馬名産の大根とキャベツを区民や児童生徒たちが収穫に参加して、学校給食に取り入れるというものです。こうした企画ものだと比較的取り組みやすく、参加型のため地場産物に対する意識も高まると思います。

‐地産地消を学校給食に取り組む意義は

  学校給食は、食の安全・安心について最も信頼の置けるブランドだと思います。それを疑う人はまずいないでしょう。市販されているものは自分で選び、それを用いる責任も自分にあります。学校給食は学校側がすべて考えます。栄養的なことはもちろん、安全な食材を選び、味付けも子どもの味覚の成長に合わせ、工夫しています。私が子どもの頃は、外で気軽に軽食などは買えませんでした。しかし今の子どもたちは飽食であり、偏食になりやすい傾向があって、逆に学校給食が健康的なブランドになってきています。そういう意味でも、地場産の新鮮で生産者の顔が見える作物を使うことには大きな意義があると思います。



【2010年6月19日号】

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