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“書く”は頭の中を自由に出す手段
楽しく取り入れ学習の基盤に活用

書育推進協議会 専務理事・事務局長 鈴木慶子さん

「書育」教材集の作成に尽力

鈴木慶子さん

 4月に設立発表会が行われた書育推進協議会。手書きの価値や意義、楽しさなどを広く社会に伝え、「手で書く」意義を再考してもらおうと活動を開始。協議会の専務理事・事務局長を務める鈴木慶子さんは、長崎大学教育学部の教授でもあり、書写教育について教鞭を執る。「日本は伝統的に手書き文字を大切にしてきた国。他国にも母語を扱う教科は当然ありますが、母語の文字を手書きすることをこれほど大切に扱っているのは、日本だけです。つまり、日本の文化です」。

 「書育」を意識したのは、新学習指導要領が発表された平成20年3月の直前。手書きが当然であった昭和から、平成へと時代が変わりICT機器が急速に学校現場へ入っていった。さらに、ICT機器が普及することによって、かえって「手書き」が見直されるようになった。「学習指導要領にもとづいた書写が実践レベルで正しく認識されていない部分がありました」。

 そんな時「新しい動きが生まれるように何かできないか」模索していた鈴木さんは、筆記具メーカーの団体・日本筆記具工業会のホームページ内に「書育」の文字を見つけ、事務局を訪問。事務局側も「書育」の中身を考えている最中だった。「対象が幅広く硬くない。教科のように系統的ではないが、楽しさや取り組みやすさがある。私たちに足りないものがあるかもしれないと思いました」。鈴木さんの道は拓けた。
 奇しくも、鈴木さんが「平成13年度科学研究費補助金」で行った、言葉の力と手書き能力の関係性調査の際、調査対象の小学生が使う大量の鉛筆を寄付してくれたのが同工業会。「こういった活動をしていれば、どこかで出会っていたのでしょうね」。さらに、会長に就任したのは、鈴木さんが千葉大学で修士課程に在籍していた時の恩師・久米公さん。役者が揃った。

 まず取り組んだのは、書育の教材集作成。現場で働く先生から意見を募り、手書きする活動を通して、学習力・コミュニケーション力・創造力を育成することを目指した教材集が完成した。「楽しく豊かに、幅広い対象に使えるようにしました。最初は、朝の会や少し時間が空いた時などに取り入れ、いずれ、学習の基盤として活用していただければ嬉しいですね」。

 今年の夏休みには、教材集にもあるノートの効果的な書き方について、長崎大の学生を中心にイベントを実施しようと思案中。「字がきれい、紙面がきれいなノートが良いのではなく、学習した内容が記録され整理されていることが重要です。子どもたちには、普段書いているノートを持ってきてもらい、苦手な教科と得意な教科のノートの違いについて気づいてもらい、交流ができればいいですね」。

 「“書く”ことは、人間の知的なものの象徴。頭のなかにぼんやりしていることが、“書く”ことで見えるようになるというのが手書きの良さ。もっと頭のなかを自由に取り出していくために手で書いていくことを始めてみませんか」。


鈴木慶子(すずき けいこ)=1961年千葉県出身。千葉大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了。千葉県立高等学校教諭(国語科)、千葉大学講師(非常勤)を経て、94年長崎大学講師(専任)に着任。98年「第1回全国大学書写書道教育学会賞(学術研究)」受賞。03年国立国語研究所で文部科学省内地研究を行い、現在は科研費で「記述力の変容を促す書字行動及び書字習慣の追跡と分析」(研究代表)等を推進中。

【2010年6月19日号】