2007年に公開された「マリと子犬の物語」(以下・・マリ)を覚えているだろうか。新潟中越地震の実話をもとに映画化された作品。当時、父親役で出演した俳優・船越英一郎さんは、12月19日公開の「ウルルの森の物語」(以下・・ウルル)に獣医の「生野大慈」として出演するが、この作品はマリのスタッフが勢ぞろいした渾身の作。
マリは実話をもとにしていたが、今回はノンフィクション。「マリを越えることができるだろうか」と思ったが、脚本を読みマリとは異なる読後感があり「ファンタジー要素はありますが、魔法も魔法使いも出てこない。本作で夢のような奇跡を起こすのは家族の絆、諦めないで信じ続ける心です。これは誰にでも作り上げることができる世界であり、人間によって起こしていく奇跡を信じてみようと思いました」と作品の一番のファンとなった。
北海道を舞台に、「もしエゾオオカミが生きていたら?」という話を中心に、母の病気をきっかけに、離れ離れになっていた父子が共に暮らす物語。冒頭から雄大な北海道の自然に圧巻される。「日本にもまだ素晴らしい自然が残っていること、動物たちの美しい命の輝きがあるということ、その自然のために自分は何をしたらいいのかと、自ずと意識が芽生えるのではないでしょうか。そんなことを感じる♂f画です」。
ウルルの撮影は北海道で行われたが、最初の20日間のロケのなかで青空が見られたのは4日だけ。「雨天が続き子役の二人と同じ部屋に長時間閉じ込められていました。でもそのおかげで子どもたち、ウルルとの潤沢な時間が得られました。文明の利器を使わず、僕が子どもの頃遊んでいた遊びや、夜には怖い話をして子どもたちと絆を深め合い、おかげでメンタルな部分の検証と確認をする時間が持てました」と話す船越さんの笑顔は、まるで二人の本当の父親のよう。
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「この撮影に子育てのすべてを注ぎ込んだようなもの」と話す船越さんの家族は、妻の松居一代さんと20歳の息子さんの3人。しかし、息子さんとの間に血縁関係はない。映画での大慈役は「実体験と状況が似ていたので、この役には思い入れが強いです。もっともらしいことを言ったり、父の背中を見せようとして空転した姿は、僕の実体験です。子育ての中で子どもが親を越える瞬間に何度か行き当たり、悔しい思いもしますが、感動の方が遙かに大きい。その瞬間を何度も経験することで親も成長します。子育ては育て育てられるもの。その気負いが親から消えた時、息子とは太い絆が生まれた気がします」と自身の子育てを振り返る。
これから冬休み。映画は母親と行く機会が多いかもしれないが、船越さんは「これはお父さんの成長物語でもあります。今回はお父さんがぜひ連れて行ってあげてください。そして映画が終わった後は家族でご飯を食べに行き、お父さんが司会となり、ゆっくりお話してみてください。そこまでがワンパックの映画です」と語った。
船越英一郎(ふなこし えいいちろう)=1960年神奈川県出身。1982年TBS日曜劇場「父の恋人」でデビューし、以降2時間ドラマの出演本数は300本を数える。現在「その男、副署長シーズン3」(テレビ朝日)を始め7本の主演シリーズを持つほか、バラエティ番組の司会などにも挑戦し、活動の幅を広げている。12月19日から公開される映画「ウルルの森の物語」(東宝)に出演。
【2009年12月19日号】