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「既成概念」は人間の成長の大きな足かせ
国家を築く礎の「教育」で日本を変えよう

映画監督 紀里谷和明

「GOEMOM」の世界を映画に

紀里谷和明 さん

 天下の大泥棒としてその名を知られている、石川五右衛門。義賊、釜茹での刑、など諸説あるが、その生涯は謎のままだ。その五右衛門に光を当てた映画「GOEMON」が5月1日に公開される。その監督、脚本、原案を務めたのは、写真家、映像クリエイターとして幅広く活躍している紀里谷和明さん。

 「五右衛門は謎に包まれた人物で、歴史的に明確に残っているものもありません。だからこそ何でもできるという思いがありました」。もちろん映画だからこそ、史実を越えた描き方もあるが「既成概念は私の最大の敵。それが人の成長にとってとても大きな足かせになっていると思います」と、「新しい価値観」の創造を追求した。スタッフやキャストたちも「何かを変えよう」という気持ちが非常に強かったという。

 安土桃山時代を描きたいという思い、それは日本という国への警鐘でもある。「今の日本は世代間のギャップがものすごくあります。日本を含め、自由であることを当然のように言う世の中で、文句や権利ばかりが主張されていますが、私はそこに違和感があります」。江口洋介さん扮する石川五右衛門も、自由になりたいと思うものの何かが違う。何がしたいのかがはっきりしていない、そこが今の日本の状況に似ている。だが、映画のなかで五右衛門は、自分がこれをやらなければいけない、ということを見つける。「私たちも一人の人間として何ができるか考えなければなりません」。

 それは、紀里谷さんの人生にも現れている。日本で中学、高校と進学することに疑問を抱き、父親の友人を頼りに15歳で渡米。「いきなり外国人≠ニいう立場になり、自分とは何かを徹底的に考える必要がありました。肌の色が違うだけで危うい目にも遭いました。本当に辛かったのですが、今振り返るとそれがあったからこそ今があると思います」。そこには「何でもいいから好きなことをやって一番になりなさい。ただし自分の責任の上で」と見送ってくれた父親の大きな存在もあった。

 そんな経験を踏まえて声を大にして言いたいのは「教育でしか国家を築く礎はない」ということ。現在、自身の活動のなかでワークショップを行い、映画監督として、写真家として自分が知っている全てを参加者に教えている。参加者には、何でもいいから自分が知っていることを誰かに伝えて欲しいと宿題にする。「不満を人のせいにしている人が多いと感じます。でも本当は自分たちが悪いのではないのでしょうか。なんで税金を払うの?学校って何のためにあるの?そんな単純な疑問が理解できたらそれは変わる気がしますし、映画もそう思って作っています。ワークショップを通じて、違う業種の人たちをつなげていきたいのです。日本を変えたい、みんな思いは1つ、みんな同じだと気がつきますよ」。

 紀里谷和明(きりや かずあき)=1968年熊本県あさぎり町(旧・免田町)出身。83年に15歳で渡米し、マサチューセッツのケンブリッジ高校からパーソンズ大学環境デザイン学科に進学。94年からフォトグラファーとして活動を開始し、多くのアーティストのCDジャケット、ミュージック・ビデオを手がけ、04年「CASSHERN」で映画監督としてデビュー。5月1日、新作「GOEMON」が公開される。

【2009年4月18日号】