![]() |
■信頼を持ち続け社会の信頼を得る
社員に徹底して教える日本人の心
昨年開催されたサッカーワールドカップで、使用された試合球は、国際サッカー連盟とドイツのアディダス社との共同開発の下、日本のメーカーであるモルテンの生産技術が導入された革新的サッカーボール「+TEAMGEISTTM」。同社は、社会的信頼性の高い企業に贈られる「平成18年度デザイン・エクセレント・カンパニー賞」を受賞。
今でこそ学校でもお馴染みのモルテンボールだが、民秋社長の就任当時は、業界では3、4番手で本社は広島。しかも、ボールは色や重さ、価格等はどのメーカーも同じ。「普通の考え方ならば分相応に中国地方か、西日本で広げていくかですよね。しかし私は、100億円企業、全国ブランドにしたい、そういう選択をとりました」。民秋社長は夢を持ち続けた。
そこで「コストは高くても良い。その代わりに品質をbPにしよう」と利益度外視の策に出た。そして、社員が学校の部活動に参加し、大会の応援、ボール拾い、遠征の手伝いを買って出ることで、部活動を行う先生たちの力となった。「誰でもできることをやっただけです。これは、日本人の心です。その心を我が社は持っていました」。
同社では、社内の大小すべての会議の前に「日本人の心を取り戻そう」と掲げた1枚の紙を全員で読み上げる。「早寝早起」に始まり、「天網恢々疎にして漏らさず(老子)」など40項目がびっしりと書かれている。それは民秋社長が両親から受けた躾に基づくもの。さらに、社員全員で情報・現状認識を共有化することに努め、労働時間削減にも早いうちから取り組んだ。そうすることで、社員はプライドを持って働いた。
また、社員が参加するイベントを積極的に開催。「理屈では説明できないチームワークを生みだしました。1984年のロサンゼルスオリンピックに先駆け、81年に弊社はその公認をとりましたが、公認を得て私がアメリカから帰国した際には、社員が夜中に駅まで迎えに来てくれました。嬉しかったですね」と微笑む。
10年ほど前からは、親水産業と健康産業にも着手した。一見つながりがないように見えるが、材料・技術・設備すべてが共通している。それは民秋社長の「世の中の潮の流れを読むこと」を重要とする筋の通った信念に基づく。「現代の子どもたちには、やりたい、なりたい、欲しいという志、信念がなくなってきている」と危惧する民秋社長。「知識以外のところで勝負をかけられる人」と、社員には「健康で、前向き。明るくて打たれ強く、自分の意見を言えそれを構築しようと努力する強い気持ちのある人」を求めている。
「かみなり親父と優しい母親の手料理。これが基本です。私はそうやって育ちました」。家族のあり方が、これからの社会を作り上げるのだろう。
【2007年4月14日号】