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INTERVIEW
作家生活50年を迎えた
作 家
瀬戸内寂聴さん

源氏物語の中の愛を現代に伝える 
          子どもの痛ましい死には共に涙し

瀬戸内寂聴さん  昨年11月に文化勲章を受章した瀬戸内寂聴さんだが、昨年2月には国際的に活躍する文化人に贈られるイタリアの国際ノニーノ賞を受賞し、そして今年1月には徳島の県民栄誉賞を受賞するなど、この1年間でおめでたい話題が続いた。

  「人生には『まさか』という坂があって、その坂を何度も上ってきましたが、今回の受賞では、この年になって『まさか』と驚かされました」と語る寂聴さん。その受賞も周りの人が喜ぶ姿を見て、ようやく実感がわいてきたとのこと。

  2月8日には、受賞を記念してお祝いの会が開かれたが、その場には伊吹文明文部科学大臣も祝福に駆けつけた。寂聴さんと伊吹氏は京都の寂聴庵で四方山話に花を咲かせるほどの親しい間柄。寂聴さんといえば、源氏物語の現代語訳でも知られるが、「寂聴さんの現代語訳は単なる訳に終わらず、独特の感性にあふれた新しい源氏物語になっている」と伊吹氏は評する。

  「1000年前の源氏物語から現在に至るまで、男女の愛は変わっていません。そして戦争をはじめ、世の中の全ての問題は愛があれば解決すると思っています」というのが寂聴さんの持論。愛していればこそ相手を許すことができるし、そこから人を思いやる心も生まれるからだ。

  仏教には二つの愛があると語る寂聴さん。「一つは相手から愛した分だけ見返りを求めようとする渇愛。そして、もう一つが相手から見返りを求めない慈悲になります。こうした慈悲のような人にあげっぱなしの愛でないと本当の愛とは言えませんね。でも、なかなか出来るものではないですけどね」と微笑む。

  そんな寂聴さんのもとには、日頃から様々な相談事が寄せられるが、その中でも聞いていて一番つらいのが、愛する人と死に別れた人の悩みだと語る。特に相次いだ子どもの自殺には心を痛めており、「親は子どもが亡くなったのを自分の力が足りなかったからだと悔やみますが、決して自らを責めたりしないでください」と諭す。子どもを亡くされた人の悲しみはあまりにも深く、かけてあげる言葉もなく、ただ一緒に手をとって泣くことしかできないのだという。

  作家生活50周年を迎えて、なお執筆活動に意欲的な寂聴さんだが、小説だけでなく、能、狂言、歌舞伎、さらにはオペラなど多彩な方面で、その才能を発揮している。今年10月27日から11月4日まで徳島県で開催される国民文化祭「おどる国文祭」では、オープニングのテーマ曲を作詞したほか、人形浄瑠璃を2本も書き下ろしている。

  「人とは様々な別れを経験しましたが、小説だけは別れることはできませんでした。きっと、あの世でも書き続けますよ」と笑顔を見せるが、作家生活60周年、70周年に向けて歩み続けていくことだろう。

 瀬戸内寂聴(せとうち じゃくちょう)=1922年徳島県出身。東京女子大学国語専攻部卒業。在学中に結婚し、50年に離婚。文筆活動を始める。古典に造詣が深く、特に「源氏物語」に関する著書は多数。73年に中尊寺で得度し仏の道へ。宗教活動、社会活動を展開しながら、盛んな執筆活動を続ける。06年イタリア・国際ノニーノ賞受賞、同年文化勲章受賞、07年徳島県民栄誉賞受賞。


【2007年2月17日号】