■作ることそのものが家族への愛情
季節ごとに変わる食材を楽しんで
テレビ・雑誌でお馴染みの穏やかな笑顔と口調で「コンテストのお料理は、時代による変化が感じられますよね」と話すのは、土井善晴さん。コンテストとは、2000年から審査委員長を務める象印マホービン且蜊テ「わが家の自慢料理コンテスト」(関連記事2面)のことだ。
7回目を迎えた同コンテストは、今回から趣旨を「親が子供に伝えたい料理」とした。親が作るといえば「おふくろの味」が思い出される。「おふくろの味」とは、善晴さんの父・勝さんが作った言葉。
ライフスタイルの変化により、特に単身者や核家族などの食生活には変化が見られる昨今、「現代の日本人は、あまり母親の料理を習っていません」と懸念する。「家族を思うと料理には丁寧な気持ちが生まれ、だし一つをとっても、インスタントで済ますわけにはいかない。作ることそのものが愛情につながります」と、私たちに自国の料理を再評価して欲しいと願う。
10人兄弟の末っ子に生まれた父・勝さんは、もの心がつく前に父を亡くし、女手一つで「子どもたちには絶対にひもじい思いをさせるまい」と育てられた。父・勝さんにとって「おふくろの味」とは、「母親への感謝と尊敬を象徴する言葉だったのです」と父について振り返る。
やんちゃだが内弁慶、そんな善晴さんは、両親から料理の作り方を教わることこそなかったが、父・勝さんの母つまり祖母から、季節ごとの食材に対する思いを聞いて育った。「お年寄りは同じことを何度も繰り返しますが、それがとても大事なことなんですよね」と祖母とのやりとりに、笑顔で思いを馳せる。
高校1年生である自身のお子さんとも、新しい季節が訪れるたびに、野菜や米、味噌などその時期の食材の話をするそうだ。「前の年これを食べた季節はどうだったかと、食べ物を通してその時の家族の出来事を思い出します」と食卓ではさまざまな会話が繰り広げられている。
学校栄養職員等への講習も行っており、「個別の対応などが迫られ苦労をしている様子が感じられますが、現場の皆さんは本当によく働いておられます」と、その仕事ぶりには目を見張るものがあるという。
「食べ物は命を作るものということを忘れないで下さい。みんなが好きだからといって作るのではなく、この野菜は水臭いが、今年は雨が多くて水分が多く水臭いんだよ、などコメントを添えて下さい。食材はそれ自身が命を持っていることに気づかせてください。自分たちの仕事に誇りを持って欲しいですね」と期待を寄せる。
【プロフィール】
土井善晴(どい・よしはる)=1957年大阪府出身。料理研究家・フードプロデューサー。
家庭料理の第一人者として定評のある故・土井勝氏の次男。
テレビ朝日系「おかずのクッキング」にレギュラー講師として出演するなど、TV・雑誌で家庭料理を分かりやすく指導する一方、日本の伝統食材を求めて掘り起こし、調理指導に尽力。92年には、おいしいもの研究所を設立。
【2006年9月16日号】