食の指導への期待高く
佐賀市に約1200名参加
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第41回全国学校栄養職員研究大会(文部省、佐賀県教育委員会ほか主催)が、7月26日、27日に佐賀県佐賀市内で開催され、全国から学校栄養職員ら学校給食関係者1192人が参加した。1日目は佐賀市文化会館で全体会が行われ、2日目は9分科会に分かれ、各会場で研究協議が行われた。
1日目の開会式では大島理森文相があいさつ。総合的な学習の時間や各教科の中で食の指導を積極的に行っていくために、食の専門家として学校栄養職員への期待は高いと述べた。続いて、佐賀県教育委員会教育長の川久保善明氏や衆議院議員保利耕輔氏、佐賀県知事の井本勇氏、佐賀市長の木下敏之氏らによるあいさつや祝辞が続いた。
木下敏之佐賀市長は祝辞の中で、佐賀市内の子どもたちの食事調査結果を踏まえ、1日の摂取エネルギー不足や朝食欠食率の高さ、カルシウム不足などについて全国と変わらず重大な問題になっていることと述べた。およそ7割の子どもたちが満足に栄養をとっていない状況の中、子どもの健康を考えた上で食の指導は重要であり、もっと全国的にその意識を高めることが必要であるとした。さらに学校栄養職員として、子どもたちの食の乱れについて保護者に伝え、子どもだけでなく保護者にも具体的に指導をしていってほしいと学校教育、学校栄養職員への期待を述べた。
午後に行われた佐賀県の実践発表では、多久市の実践が発表された。電子メールを使っての意見交換や、子どもたちや保護者のセンター訪問、郷土料理教室など調理場と学校の交流などの様子が報告され、今後も給食調理場が食の情報発信基地となっていきたいとのこと。
これまでの食の指導は単発的で、あまり充実していなかったとのことだが、これからは、特別活動や総合的な学習の時間などを利用して、年間指導計画のもと単独指導も行っていきたいとまとめた。また農家や商店など校外へ出向いた体験活動を通した食の指導も充実させていきたいとのこと。
我が国の学校給食が学校における重要な教育活動として定着し、着実な発展を遂げているのは、学校栄養職員を中心とした関係者のご尽力の賜物であり、深く感謝の意を表します。昨今の子どもたちの食生活を取り巻く状況を見ていると、朝食をとらなかったり、栄養の摂り方が片寄っているなど、食生活をめぐる問題が多方面から指摘され、将来に向け、生活習慣病が心配される状況となっております。このような状況の中、食生活の正しい理解と望ましい習慣を身につけることは、これからの社会に生きる子どもたちにとって極めて重要なことであります。文部省といたしましても、健康教育の一環としての食に関する指導の充実に努めていくところであります。今回の学習指導要領の改訂により新設された総合的な学習の時間においても、とりあげる課題のひとつとして健康を明示し、食に関する指導を取り上げられるようにしています。給食指導のみならず、各教科や総合的な学習の時間において、食に関する指導を推進していくためには、食に関する専門家である学校栄養職員が積極的に参画、協力していただくことが必要であり、皆様のご活躍を期待しています。文部省においても、これからの学校栄養職員の在り方について今年度中に調査研究協力者会議を設け、栄養教諭の問題を視野に入れて検討していきたいと考えております。皆様方におかれましては、この大会において、生きる力を育む健康教育の推進と学校給食の充実というテーマにふさわしい、研究協議をなされ、その成果をこれからの学校給食に生かされますと共に、子どもたちにとって安全で楽しい学校給食が実施されるようご尽力をお願い申し上げます」。
《要旨》
(食に関する指導)文部省では、食に関する指導の実践事例をまとめた参考資料を作成しました。各学校に配布する予定ですが、これを基本として、それぞれの学校や地域に応じた指導に取り組んで欲しいと思います。また食に関する指導のシンポジウムを8月に開催いたします。
学校栄養職員には、給食の献立作成、衛生管理などの業務にプラスして、食の専門家として子どもに直接食の指導を行ったり、家庭へアドバイスをするなど、新しい役割が求められています。
児童生徒に直接教えるとなると、単に専門知識を教えるだけでなく、教育者であることを頭に入れながら指導にあたらなければなりません。学校栄養職員のこれからの在り方として、栄養教諭の問題を視野に入れながら検討させていただいております。学校栄養職員の皆様には、各学校の中で実績を作っていただき、子どもたちに「食べ物に関する先生」と呼ばれ定着していくことを期待しています。
(パソコン活用)給食調理場にパソコンを導入し整備を進めていく予定であり、食に関する指導を行うための参考資料の収集や作成をしていただきたいと思います。
(食生活指針)今年の3月に閣議決定した食生活指針については、その中で教育分野における推進が述べられておりますので、学校栄養職員を中心に学校教育の中でも子どもたちに理解させていただきたいと思います。
(定数改善)現在1万2000人の学校栄養職員が配置されていますが、国の財政再建の中で、定数改善計画が若干行われております。
第7次配置改善計画が始まるところですが、その基本的な方向をまとめる調査研究協力者会議の中でも、これからの学校栄養職員の職務について議論されており、食に関する指導の重要性に伴ないその専門家である栄養士が直接指導する必要性があるのではないかということで、定数改善を検討しております。
◎食に関する指導共同調理場部会
食に関する指導共同調理場部会では、共同調理場に勤務する学校栄養職員らが集まり、共同調理場における食の指導の難しさやセンター長などの理解の問題など、多くの参加者から自分達が抱えている問題についての意見が上がり、活発な議論が行われた。
発表では平成9年度から3年間の文部省指定栄養教育推進モデル校の鹿児島県横川町立横川小学校と、新潟県内で最も大規模調理場である六日町学校給食センターの実践が報告された。
横川小学校では、献立に基づいた指導計画を作成し、その日に使われた食品や献立に関連して栄養素だけでなく食文化などの情報を発信し、学級担任に活用してもらうことで栄養士が毎日出向くことのできない状況でも、指導が行われるようになったという。また子どもたちだけでなく親の意識を高めるために「一家庭一改善」を呼びかけ、各クラス2、3名の家庭に「食生活モニター」になってもらい、報告用紙で改善内容を報告してもらい全家庭に還元するなどの取り組みを行った。
六日町学校給食センターでは、まず指導体制を整備するために学校長会で説明し理解を得てから、各校に年4回訪問を行った。指導はすべてティームティーチングで実施。センターでの訪問授業や参観日の授業、特殊学級での授業も行った。1年間の実践が終わると、全学校にアンケートを配り、来年度の計画について意見を聞くことも行った。授業を行うにあたっては、必ず打ち合わせの時間を設けるようにしたという。
発表した井口正子さんは、「食の指導は栄養士がいないからできないものではなく、資料提供など栄養士ができるところは協力しながら、学校が主となってやれるよう体制を整えていきたい」と述べた。
質疑応答では、所属校とそうでない学校の対応についてや、食に関する指導の充実のために増員された加配について、また所属校のない栄養士がなかなか学校の組織に入り込んで指導することができない現状などが挙がった。
加配については、会場の参加者の中から江別市と長崎県、大分県の栄養士が実態を述べた。江別市では、2名定員のところに1名の加配の栄養士が追加され、長崎市では1名定員のところに1名の加配の栄養士が追加で入り、アイデアを出し合ったり、資料の作成なども協力体制で行うことができ、食の指導に役立っているという。大分県では、従来の栄養士が食の指導を行い、加配の栄養士が事務処理を行うという体制をとっているとのこと。
指導助言では、金田雅代文部省学校給食調査官から4つの点が述べられた。食の指導に関しては、模索の時期ではあるが、まずやってみることが大切であるとのこと。食に関する指導参考資料を活用するなどして効果的な指導が行えることを学校や教育委員会に理解してもらい、年間指導計画に定着させていく。校長会で話し合いの場を設けたり、給食主任へ働き掛けをするなど、いかに教師の食への意識改革を行うかが実践へつながってくると述べた。
また給食センター長の理解に関しては、学校などどんな所にも所長と一緒に出向き、子どものために行っているんだという理解をもってもらい、調理員にも協力を呼びかける。家庭・地域の理解に関しては、地場産物を取り入れるなど食を通じて給食センターと家庭のパイプ作りをし、食へのより強い関心を持ってもらうよう働き掛ける。
「もっと栄養士が必要だ」と思われるような指導を行い、どこで専門性をより発揮できるのか各学校、センターで検討していってほしいと述べた。
◎第8分科会
衛生管理共同調理場部会では、小田原市学校給食センターが実践を発表。昭和48年に建設された古いウエット式の調理場でいかにドライを保つかを中心に報告が行われた。新しい機器を購入することなく、自分達で考案した運搬車などについて発表。さらにあらゆる条件下において細菌汚染実態調査を行い、食材から汚染が広がる様子を実感したことを発表。作業区分ごとの消毒の必要性を理解することができたことを報告した。
質疑応答では、搬送車の運送管理についてやほこりの清掃、物資の取扱い、ホースの使い方等、具体的な質問が多く挙がった。また和え物について動物性たんぱく質はどのように混ぜているかといった議論も行われた。
各都道府県によって対応は様々であるとのことだが、ハムはボイルして冷却機に入れてから和えるといった意見や、ツナ缶は油を捨てて熱を加えてから和えるといった意見が出された。また配送後、受配校にも冷蔵庫を完備して届けてからすぐに冷蔵庫に冷やすという所もあった。
さらに温度や温度の記録がスムーズにできるようなコンピュータを使い、衛生管理について事務的な処理をもっと簡潔にできるようにしていきたいといった意見も挙がっていた。
指導助言を行った佐賀県白石町立六角小学校校長の江島正敏氏は、「この大会には、校長や教頭、教育長などの参加がもっとあったら良かったのではないか」と述べ、管理職の人に参加してもらえば栄養士の思いがもっと伝わるのではないかとコメント。また給食調理場の衛生管理について、保護者だけでなく地域全体に広めるような広報活動をもっと積極的に行って欲しいとした。
同じく助言を行った北海道教育庁スポーツ保健体育課の田中延子氏は、受配校の意識の低さを指摘。また予算や面積的に改築が難しい場合がほとんどだが、スライサーを移動式にしたり、調理台を汚染区と非汚染区の境にカウンター代わりに置くなど、ポイントをとらえた工夫を凝らして改善して欲しいと述べた。
(教育家庭新聞2000年8月12日号)
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