文部科学省は平成24年度の予算に、学校図書館担当職員(いわゆる「学校司書」)の配置のために、約150億円の地方交付税措置を盛り込んでいる。学校司書の配置について地方交付税措置となったのは今回が初めて。その背景として、学校図書館担当職員を配置する学校が近年一貫して増加しており、平成22年度には小学校の44・8%、中学校の45・2%がすでに配置していることから、その必要性が強く認識されはじめている、という現状がある。学校司書の配置が進むことによって、学校図書館の可能性はどのように広がるのか。さらに司書教諭を含めた教職員とともに、学校図書館を活性化するために大切なことは何か。特集「新年度の学校図書館〈後編〉」では、東京都の荒川区教育委員会学校図書館支援室で幅広い支援を行っている、佐藤博志室長と主任学校図書館指導員を務める藤田利江氏に話を聞いた。
図書標準100%以上 学校図書館支援室も
藤田利江氏。区内の小・
中学校を 精力的に巡回 し、指導している |
荒川区では、平成16年度に学校図書館蔵書管理システムの整備を開始、18年度には「荒川区学校図書館活性化計画」を策定、同年度には全小・中学校にて学校図書館図書標準を100%達成し、その後さらに増えている。19・20年度には文部科学省の「学校図書館支援センター推進事業」に指定され、21年度には学校図書館支援室がスタートした。
学校図書館指導員(学校司書)の配置は、17年度から始まった。当初2つの小学校に配置。19年度には全小・中学校におおむね週2日間の勤務で配置、21年度からは全小・中学校に学校図書館指導員を常駐化(週5日間6時間勤務)させた。
学校図書館支援室で主任学校指導員を務める藤田利江氏は以前、神奈川県厚木市の小学校教諭として勤務。平成15年には6年生の担任をしながら司書教諭として年間137時間、学校図書館を活用した授業を各クラスで実施した。授業ではオリエンテーションや「資料リストをつくる」「本のおびを作ろう」など、学校図書館の使い方から教科書に対応したテーマまで幅広く扱った。各担任と共に指導することで、学校図書館を授業で活用することが学校全体に浸透し、司書教諭と担任との連携もできるようになったという。
この経験を生かし、19年度の後半、荒川区の学校図書館支援事業の立ち上げから関わることになった。
現在学校図書館支援室では、(1)全小・中学校を巡回し、学校図書館の整備状況や活動状況等を調査・考察 (2)学校長に対して学校図書館の運営方法・環境設備・蔵書・配架、読書活動についての提案・支援 (3)各学校の図書館担当者、学校司書やボランティアに情報提供や助言を行う、など学校図書館全般への支援・指導を行っている。
学校図書館を使った授業の指導案を藤田氏が作成し、担任と協働で「提案授業」を行うことで、学校図書館での授業を各学校でできるよう支援に取り組んでいる。
学校司書は資料のプロ 求められる学習材作り
学校図書館を活用した「提案授業」を展開 |
学校図書館を使っての授業のようす。 第三峡田小学校(写真上)、 第二峡田小学校(写真下二枚共) |
司書教諭は授業のプロ、学校司書は資料のプロ、とも言われ、司書教諭と学校司書ではその役割は大きく異なる(下表参照)。
藤田氏は学校司書に最も求められる仕事の一つとして、「資料の選別」を挙げる。「授業で活用できる資料として、本の内容まで踏み込んで資料を用意して欲しい」と話す。
例えば「酸性雨」について調べる場合。「酸性雨」というタイトルの本は少ないが、環境問題を扱っている本であれば内容に組み込まれていることも多い。このように、本の内容を把握して本を揃え、さらにインターネットや新聞なども活用して資料を用意する姿勢が重要だ。
「特に地域資料は、学校図書館ならではのものです。例えば区報は通常大人が読むものとして作られていますが、これを小学校3年生でも読みやすく作り直す、といった学習材作りが求められます」。加えて、子どもや教員の反応も見ながら、求められる資料は何か研究することも大切という。
他にも学校司書の配置は様々な成果が期待できる。同区の中学校では、学校司書の常駐化で学校図書館の開館日数が増え、生徒一人あたりの貸し出し数と入館回数が大幅に伸びた。今後は授業での活用を増やすため、教員との連携が課題だ。
司書教諭・担任との連携 サポート体制の重要性
学校司書は、図書館主任・司書教諭等と連携した読書指導の推進、教科担任と連携した学校図書館の活用推進も担当する。
「学校図書館での授業の指導すべてを学校司書に任せるのではなく、その時間に児童生徒たちがどのような活動をするか、その指導方法については担任や司書教諭が決めることが大切です。学校図書館運営計画や年間指導計画には、学校長など管理職も関わります」。
学校司書がそれらに沿って本の朗読や利用指導、調べ学習の資料を用意したりすることで、充実した学校図書館の活動につながる。
連携をスムーズにするためには、担任、司書教諭、学校司書などの学校図書館スタッフの役割分担表を作り、それぞれが仕事内容を把握しやすくするのも有効だ。
ただ、学級担任、教科担任を持ちながらの司書教諭の仕事は多忙を極め、十分な時間を割けない、という声も聞こえる。また年間計画の立案をする上でも「全学年の学習内容を把握している、教務主任クラスの教員が司書教諭を務めるのが理想」と話すが、実際はそうでない場合が多い。
学校司書は、司書教諭だけでなく各担任にも積極的に声をかけ、授業で使うために必要な図書資料は何か問いかけ、働きかける姿勢も大切だ。さらにスキルを磨くためには、自治体の教育委員会などによるサポート体制も求められる。
同区の学校図書館支援室の場合、研修会が学校司書へのサポートの柱となっている。23年度は12回の研修会に加え、新任学校司書に向けた研修会を6回、さらに地区別の研修会も各5回実施。新任学校司書の場合、年間23回の研修を受ける機会がある。このような十分なサポート体制によって、同区の学校司書は離職するケースが極めて少なく、経験豊かなベテラン学校司書の育成につながっている。
新学習指導要領が実施され、多様な情報を授業に取り入れ、さまざまなコミュニケーションを必要とする授業や学習へと変化している。そういった中、学校図書館は従来の読書センターとしてはもちろん、学習・情報センターとして果たす役割は大きい。学校司書が配置されることによって、その機能の充実が期待されている。
【2012年4月16日号】
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