10月27日・28日の2日間、「第61回 全国学校保健研究大会」が静岡県静岡市で開催された(主催/文部科学省、静岡県教育委員会、静岡市教育委員会、(財)日本学校保健会、静岡県学校保健会)。「生涯を通じて心豊かにたくましく生きる力を育む健康教育の推進‐自ら健やかな心と体を育む子どもの育成‐」を主題に、全国から養護教諭をはじめ、教職員、学校医、学校歯科医、学校薬剤師らが参加した。(記念講演はこちらに)
代表して賞状を受け取る袋井市立 浅羽北小の日吉浩校長 |
平成23年度学校保健及び学校安全表彰では、学校医54名、学校歯科医33名、学校薬剤師23名、校長7名、保健主事1名、養護教諭10名、学校保健行政等1名、学校保健(学校)23校、学校保健(団体)1団体、学校安全(個人)2名、学校安全(学校)19校が学校保健や学校安全に貢献した功労者として表彰された。また、平成23年度学校安全ボランティア活動奨励賞は子どもの安全を見守ってきた50団体が受賞した。
受賞者を代表して静岡県牧之原市立相良小学校の仁藤利男校長は、「より良く生きよう、周りに認められる生き方をしようと頑張っている子どもたちの思いを受け止め、安心して教育を受けることができるような環境づくりを進めることが学校に求められています。このような時代にこそ学校は家庭や地域と協力し、知恵を出し合い、未来を生きる子どもたちを心豊かでたくましく健全に育成するよう日々の実践に努めることが重要であると深く認識しています」と述べた。
学校保健及び学校安全表彰の受賞者は次の通り。(学校保健、学校安全部門の校長、保健主事、養護教諭、行政等、学校を抜粋。敬称略)
【学校保健・校長】栃木県・栃木県立鹿沼東高等学校・奥澤康夫、埼玉県・さいたま市立大宮東小学校・佐藤博志、岐阜県・岐阜県立岐阜北高等学校・林俊彦、大阪府・大阪府立三国丘高等学校・中尾俊治、兵庫県・元 兵庫県立東播磨高等学校・魚住俊市、和歌山県・元 みなべ町立高城小学校・直川豊、岡山県・元 岡山県立倉敷天城高等学校・坂江誠
|
【学校保健・保健主事】奈良県・葛城市立新庄中学校・小城勝文
【学校保健・養護教諭】北海道・北海道札幌清田高等学校・清水悦子、新潟県・新潟県立高田南城高等学校・保坂裕子、石川県・石川県立加賀聖城高等学校・坂野下みよ子、山梨県・甲府市立富竹中学校・土橋紀久子、滋賀県・近江八幡市立安土中学校・間壁惠子、京都府・京都市教育委員会事務局体育健康教育室・服部眞弓、高知県・高知市立一宮東小学校・吉本みち子、大分県・元 大分市立大在西小学校・中山妙子、沖縄県・宜野湾市立長田小学校・久保田尚子、国立大学法人佐賀大学文化教育学部附属特別支援学校・大家さとみ
【学校保健・行政等】熊本県・財団法人熊本県学校保健会
【学校保健・学校】青森県・田子町立田子中学校、岩手県・二戸市立石切所小学校、山形県・鶴岡市立朝暘第一小学校、福島県・喜多方市立姥堂小学校、茨城県・茨城県立波崎高等学校、群馬県・群馬県立二葉高等養護学校、埼玉県・羽生市立新郷第一小学校、東京都・東京都立羽村特別支援学校、福井県・越前市武生第一中学校、長野県・小海町立北牧小学校、静岡県・浜松市立東部中学校、同・牧之原市立相良小学校、愛知県・阿久比町立英比小学校、同・名古屋市立沢上中学校、三重県・鈴鹿市立愛宕小学校、岡山県・津山市立西小学校、広島県・広島市立可部小学校、山口県・柳井市立伊陸小学校、愛媛県・西条市立大町小学校、福岡県・築上町立下城井小学校、長崎県・壱岐市立三島小学校、宮崎県・宮崎県立赤江まつばら支援学校、鹿児島県・鹿児島県立大島養護学校
【学校安全・個人】茨城県・茨城県立鹿島高等学校 校長・仲澤進、埼玉県・さいたま市立上大久保中学校 前校長・澤野明夫
【学校安全・学校】青森県・弘前市立致遠小学校、岩手県・北上市立成田小学校、千葉県・君津市立小櫃小学校、神奈川県・神奈川県立高津養護学校、富山県・南砺市立福光東部小学校、岐阜県・海津市立石津小学校、静岡県・袋井市立浅羽北小学校、愛知県・名古屋市立森孝中学校、京都府・福知山市立中六人部小学校、大阪府・岬町立多奈川小学校、奈良県・桜井市立桜井西小学校、島根県・出雲市立高松小学校、山口県・防府市立小野小学校、香川県・高松市立牟礼北小学校、愛媛県・松山市立道後小学校、福岡県・福岡県立柏陵高等学校、長崎県・長崎市立西泊中学校、熊本県・菊池市立旭志中学校、鹿児島県・姶良市立錦江小学校
浜松医科大学 杉山登志郎特任教授 |
10月27日・28日に静岡市で開催された「第61回 全国学校保健研究大会」の1日目に開催された全体会では、浜松医科大学児童青年期精神医学講座 特任教授の杉山登志郎氏が「学校現場における発達障害を持つ子どもたちへの対応」を演題に記念講演を行った。
発達障害とエピジェネティックス
近年になって発達障害は、遺伝的要因だけではなく「エピジェネティックス」な変化で発生するケースもあることが分かってきた。エピジェネティックスとは、何らかの原因で遺伝情報のスイッチが切り替わることで、胃潰瘍を繰り返すうちにガン細胞となるのも、エピジェネティックス的な変化だ。
「エピジェネティックスな変化の例として、肥満児の増加があります。やせ症の母親が子どもを産んだ場合、低出生体重児の割合が増えますが、低出生体重児は学童期に肥満になりやすいという結果が出ています。やせ症の母親の胎内は飢餓環境にあるので、エピジェネティックな変化が起こり、子どもは栄養を溜め込みやすい体になるようです」
増える境界知能は学習障害を併発
開会式には多くの学校保健関係者が参集 |
また、知的障害が減少している一方で「境界知能」が増えている。境界知能はIQ70〜84のグループに多く見られ、学習障害を併発することが多いと杉山氏は述べる。
「境界知能の児童は虐待を受けていることが多く、学習習慣が身につかないため、さらに学力に遅れが生じます。境界知能の児童は教育による影響を大きく受けるので、教師の指導によって成績は上がっていきます。子どもを切り捨てることなく、きちんとした教育を受けさせることが大切だと理解してください」
ADHDは低学年での対応が課題
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、小学校中学年から軽減していくので、低学年でのハンディキャップをいかに減らすかが課題となる。
また、ADHDの児童も虐待により状態が悪化する傾向にある。治療は薬物治療が有効で、周囲の刺激を減らしたり、教室では中央の最前列に座らせるなど環境調整と薬物治療の組み合わせで改善される。
「虐待が子どもの育ちを阻害して、発達障害と言わざるを得ない臨床像を呈することもあります。発達障害の子どもに必要なのは学校現場での治療的教育です。学校に楽しく通えるようならば次第に状況は改善されます。愛着を持っている人から肯定と安心を与えられること、自身への自尊感情を育むことが発達障害の子どもに最も必要なものです」
【2011年11月21日号】