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【PTA特集】健康・安全
「放射線」の正しい知識を身につける

放射線の「正しい」怖がり方とニュースの読み取り方を知る

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【プロフィール】
(なかがわ・けいいち)
1960年東京都生まれ。 東京大学医学部附属病院放射線科准教授。 緩和ケア診療部長を兼務。 「週刊新潮」に『がんの練習帳』を連載中。 近著に「放射線のひみつ」(朝日出版社)
ブログ= http://tnakagawa.exblog.jp/
ツイッター=http://twitter.com/team_nakagawa

  水、野菜、魚、肉牛……放射線による汚染の不安が広がっている。福島県は食品だけで約200品目の放射線量を調べなければならず、米は収穫前後2回の検査が課せられた。しかし放射線は福島原発の影響がたとえない場合でも一定量食品に含まれており、大気中にも存在する。これら検査結果については冷静に受け止め判断する必要がある。放射線を「正しく怖がる」ポイントについて東京大学医学部附属病院の中川氏に聞いた。

放射線とともに 生きる時代に

  福島原発事故後5か月を経た今も放射線パニックは深刻さを増しているようです。放射線と共に暮らしていかなければならない長い時代が始まったと言えます。それとともに、知っておくべきことが増えたと言えるでしょう。

  心配されるのは、放射線汚染を恐れるあまり、政府や自治体が出荷制限・摂取制限をしていない野菜・魚・水までをも警戒し、摂取しないことで、健康被害が生じかねないという点です。いくつか知っておくべき点についてお話します。正しい知識を持てばリスクも減らせますし、予防もできるのです。

放射線の基礎知識

  福島第一原発から放出された放射性物質は「放射性ヨウ素」と「放射性セシウム」(セシウム134とセシウム137)です。

  放射性ヨウ素は8日ごとに半分に減りますから、現在大気中にはすでにほとんど存在しません。しかし、セシウム137は、半分減るまでには30年かかり、60年を経ても4分の1が残存します。原発から風に流され、雨と一緒に地上に落ちたセシウムは土などに蓄積し、ガンマ線を出しています。これが今も福島県で「空間放射線量」が高い原因です。

  地表に存在するセシウムの量は、風や雨のほか、地形や地面の性質によっても左右されます。

  福島第一原発から60キロ離れた福島市の空間放射線量が、20キロ圏内の福島県南相馬市より高いのは、「風」の影響です。東京でも、葛飾区、足立区など北東地域で線量が高い傾向があります。ただし、東京都の線量は、ローマ、ロンドン、香港など、多くの都市を下回るレベルです。過度な心配は要りません。

  「ストロンチウム」は、カルシウム同様体内に取り込まれると骨に集まります。外部にガンマ線を出さないため、検出が難しいものですが、私たちの調査でも、原発からの放出はないようですので、安心してよいと思います。

私たちは日常的に 「被ばく」している

  太古の昔より私たちは、放射線と共に生きており、日常的に「被ばく」しています。被ばくによって細胞にキズがついても、多少であれば修復することができる仕組みを体内に持っているのです。ですから、いつも以上に被ばくして細胞が多く死んだとしても、あるレベルに達するまでは、影響が見られることはありません。

  例えば現在日本では、年間平均約1・5mSv(ミリシーベルト)の「自然被ばく」をしています。自然放射線の量は場所によって変わり、最も高い岐阜県は最も低い神奈川県より0・4mSvも高い値で、国内では主に西高東低です。これは大地からの放射線の強さが鉱物の種類などで違ってくるからです。

  また、食物からは年間で0・4mSvの「内部被ばく」を受けています。これは野菜や果物などに含まれる天然の放射性カリウムなどによります。生命の維持に不可欠なカリウムの約0・01%が放射性カリウムであり、体重60キロの男性の場合、体内に約120グラムのカリウムが存在します。つまり、私たちは、隣の人に対して、年間0・02mSvくらいの被ばくをさせているという計算です。

  放射線が「あるかないか」で怖がるのではなく、「どの程度の量がどこにどの期間あるのか」を知ることがニュースを正しく読み取るポイントといえます。

覚えておきたい数字と単位
m(ミリ)    千分の1
μ(マイクロ) 百万分の1

1mSv(ミリシーベルト) 緊急時ではない平時において一般が1年間に受ける放射線量の限度。平均して年間1mSvならば、一時的に5mSv毎年までは可。
2.4mSv(ミリシーベルト) 1年間に自然環境から人体が受ける放射線量の世界平均値。日本の平均値は1.5mSv。
100mSv(ミリシーベルト) 人体に影響が出始める(発がんリスクの上昇が認められる)放射線量。科学的根拠が確立されている最低線量。ただし胎児の被ばくに関しては10〜20mSvでも上昇の可能性はある。
4000mSv(ミリシーベルト) 治療をしなければ被ばくしたヒトの約50%が死に至る放射線量(積算)。
300Bq/キログラム(ベクレル) 緊急時における飲料水及び牛乳に関する放射線ヨウ素の基準値。ヨウ素は原子力事故の際大気中に放出されやすく、人体に摂取された場合は甲状線に集まるので、特別に基準値が設けられている。放射性セシウムの場合は成人で200ベクレル。
2000Bq/キログラム(ベクレル) 緊急時における野菜類に関する放射性ヨウ素の基準値。放射性セシウムの場合は成人で500ベクレル。
(書籍「放射線のひみつ」より抜粋)

リスク判断の「基準」を知る

  では、どのくらいの放射線を摂取すると身体に影響があるのでしょうか。

  ヒトの場合、250mSvを超えると白血球の数が減り始めます。100mSvの被ばくで、がん死亡のリスクは0・5%とわずかながら高まります。日本人のがんによる死亡率は現在30%ですから、それが30・5%となる、という計算になります。100mSvを超えると直線的にがん死亡リスクは上昇しますが、100mSv以下で、がんが増えるかどうかは過去のデータからはなんとも言えません。それでも、安全のため、100mSv以下でも、直線的にがんが増えると仮定しているのが今の考え方です。

  仮に、現在の福島市のように、毎時1μSvの場所にずっといたとしても、身体に影響が出始める100mSvに達するには11年以上の月日が必要です。また、同じ100mSvでも、長時間かけて蓄積する場合と1時間で浴びる場合では、後者のほうが人体への影響ははるかに大きくなります。これは、一気に熱湯を浴びると大やけどしますが、同じ熱湯でも1滴ずつでは人体には大きな影響を与えないということと似ています。

  100mSv摂取の身体への影響は、野菜不足のリスクに相当する数字ですし、運動不足や肥満のリスクは400mSvの摂取に相当します。

  現在の放射線レベルは通常よりも高いのは事実ですが、人体に大きな影響を及ぼすものではないということが分かります。冷静に行動していただきたいと思います。

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【2011年8月22日号】

教育家庭新聞