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世界100か国から1200人が参集
人種・地域越え討議
グローバルに解決策を共有

カタール財団主催 第2回国際教育改革サミット(WISE)

教育サミット
5つの全体会で討議

 12月7日から9日の3日間、カタール財団主催の第2回国際教育改革サミット(WISE=The World Innovation Summit for Education)がカタールのドーハで開催された。

 約100か国(米国、英国、ドイツ、フランス、フィンランド、デンマーク、韓国、中国、日本、サウジアラビア、南アフリカ、ガーナなど)の大学教授、教育機関・団体、教育関連企業などの専門家1200人以上が参集。5つの全体会議と20の分科会、及びワークショップで「未来の教育を構築する」をメインテーマに「教育システムの改善」と「革新的手法の研究」をサブテーマに討議を重ねた。「未来の世界は教育を基盤に作られる」「教師こそが将来の建築者」といった考えに基づき、貧しく学校にすら行けない子どもたちへの教育の保障方法から指導やカリキュラムの新しいモデル、認知科学、芸術教育、ゲームやモバイル端末、PCなどのICT活用まで、幅広く最新の事例や研究を持ち寄り、解決策や意見の共有を行った。

  世界最大の教育サミットの一つと思われる同サミット、来年は11月1日から3日にドーハで開催される予定だ。
詳細 http://www.wise-qatar.org/

サーニWISE会長
サーニWISE会長

 WISE会長のアブドュラ・アル・サーニ博士は開会宣言において、カタールが2022年FIFAサッカーW杯の開催地に決定したことに言及、また同サミットの目的について、「現代の最も重要な課題である教育に焦点をあて私たちが世界中の専門家を結集することは自然なことと思われる。多様な利害関係者を呼び集め、理論を実践と結びつける、そうした協力こそが複雑な問題の解決に立ち向かうために重要だからである。当サミットは(議論だけでなく)解決策につなげる行動を伴う方向を目指す」と力強く語った。

新教育環境・システムを提案

  サミットで注目を集めたのは、21世紀の教師像を含め学校という教育環境・教育システムがどうあるべきかを提案しあった分科会「将来に向けた教師作り」の中で、斬新な教室空間を提案したイギリスのボーンマス大学のステファン・ヘッペル教授の試みだ。

  同教授が提唱するのは「3つのルール」と呼ばれる空間システム。第1に3方向以上の壁がない、第2に生徒の視点が3つ以上ある、第3にいつでも3人以上の教員と3つ以上のクラスにアクセスできる、というもの。四角い箱型の教室を廃止し、できる限り壁をなくすことで生徒・児童が向かう視点を黒板から解放し、共同作業をする場、マンツーマンで生徒と教員が向かい合う場、さらにPCで調べものをする場を確保するなど、生徒に多方向な視線を持たせることが可能になる。

  さらに1人の担任が1人の生徒の担当をするのではなく、生徒の自由意志により、自分に合った教員にいつでもアクセスでき、自分の得意科目を伸ばしたい、不得意科目を克服したいなど生徒の意思に合わせて授業を受けられる環境を整えることを提案する。

  その結果未来の教育システムは、一律の時間割制から個人の興味・能力に応じたフレキシブルなものへ、閉鎖的なものから連携・連続したものへ、科目別授業から総合学習を基盤としたものへ、ローカルからグローバルへ、トップダウンからボトムアップへ、座学中心から経験中心へなど新たな理想的環境を整備していくべきだとする。
ヘッペル教授は自ら新教育システムの開発をネット上で公開しており、広く多くの学校現場で検証してほしいと呼びかけた。(http://www.heppell.net/参照)。

IPhone,プログの教育活用方法

  日本でも火急の問題となっている教育におけるICT活用に関する分科会「ICTの教育における影響の検証」も活発な議論が行なわれた。先進国においてすでに4、5歳の幼児がiPhoneやiPadをおもちゃ代わりにしている現状を踏まえ、イギリスの教育専門家のティム・リランズ氏は授業で分からなかった点を生徒が書き込めば、すぐに教員からのフィードバックができるようなブログや、授業中使用するパワーポイント資料、教材、板書内容、生徒の発言、共同作業の様子などをデジタルカメラで撮影し、その場でブログにアップデートしていくライブ感を活かしたブログの使い方を紹介。ソーシャルネットワーキングサービス・フェースブックで教師と生徒が交流する方法や、生徒が持つ携帯端末からツィッターに授業に関する感想を書き込みあうことで生徒の積極性が高まる事例を紹介した。

 

WISE
20の分科会

ICTより授業設計

  一方でカリフォルニア大学バークレー校の外山健太郎教授は、「まずは基礎を、ICTは二の次」と題した講演でICT全能時代のあり方に疑問を呈した。

  同教授は2003年、2006年度の経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)で科学的応用力部門1位を取り、今年も2位、読解力では3位と依然上位国であり続けているフィンランドの教育環境に言及。同国の教室では実物投影機で教科書やワークシートを拡大投影する使い方が主流で、それを生徒の模写・創作活動、生徒同士の対話など生徒の活動へとつなぐ手段として活用している。技術は生徒の知的活動を引き出す手段であり、まず学力の基盤となる学校運営のあり方や教師の資質、指導法の工夫、生徒の理解の到達度に合わせたカリキュラムの編成など基礎こそが大事であり、ICTが必ずしも基礎の代わりにはならないことを強調した。

  外山教授はハーバード大学を卒業後、マイクロソフト社の研究機関でアメリカやインドを拠点に13年間ハード・ソフト開発の先端研究に従事し、その後、ICTテクノロジーを使った国際開発や教育に焦点を搾り、大学とフィールドワークの現場に身を転じた経緯をもつ。その過程の中で、ICTが教育現場ではコストがかかり、トレーニング、メンテナンス、インフラ整備など常にアップデートしていかない限り有効性が落ちやすく、レベルの低い学校ではむしろ生徒のICTへの依存性や中毒、集中力の欠如を引き起こす原因となる危険性があることを指摘する。

  現代社会ではコンピュータを使いこなす能力は不可欠であるため情報教育は必須としつつも、教育現場で必要なことは情報の授業でコンピュータリテラシーを学び、プログラミング、必要なアプリケーションを可能にすることで十分であり、携帯端末を教室内に持ち込む必要はないとする。

  分科会参加者の意見は賛否両論真っ二つに分かれたが、外山教授は、テクノロジーは元来人間の労働を助け、目的に至る近道としての意義があるが、教育に近道はないと持論を展開した。

WISEアワード 世界の教育プロジェクトを表彰
来年は受賞者に4300万円を贈呈

  WISEアワード賞の表彰式がサミットの一環として8日夜行われ、「教育の変革:投資、革新、包括」をテーマに89か国から応募された4万件を超える教育プロジェクトから6件の受賞者が選定された。6件は1000校の学校を建設する、国・地域の経済的科学的発展に寄与する、といったプロジェクトで、パキスタン、トルコ、ナイジェリア、米国、英国、南アフリカから選ばれ、それぞれ2万ドルの賞金が贈呈された。

  サミットの閉会式でアブドュラ・アル・サーニWISE会長はWISEをさらに発展させていくと次のように言及した。来年WISEアワード賞をさらに拡充し受賞者に50万ドルが贈呈する。また、国際的な教育改革の業績とイニシアティブをまとめた本を出版し、WISEのウェブサイトをさらに強化し、さらに深い情報と議論のための会議室を提供していく。

カタール財団小中高教育顧問ブタニア・アル・ヌアーミ氏インタビュー

教育の改革手法や先進事例を国際的に共有 
グローバルに連携するプラットフォームを提供

  カタール財団は1995年にカタール首長ハマド・ビン・カリファ・アル・ターニ殿下により設立され、王妃シェイカ・モザ妃殿下を議長として活動する私設NGOです。研究拠点への人的資源、科学研究、技術革新、最先端私設への投資、地域開発などをミッションとして、質の高い人材育成に重点を置く教育立国を目指すための活動を行っています。

  このビジョンに基づき、教育改革を国家の最重要プロジェクトとして位置づけ、2009年度よりモザ妃殿下の強いリーダーシップの下、国際教育改革サミットを開催しています。このサミットの目的は、世界の教育手法の観察、教育に対する識者や専門家の中長期的な展望と教育における改革や先進的な取り組みや考え方をグローバルに連携し共有するプラットフォームを提供することにあります。

  第2回目を迎えた今年は、世界各国政府、国際機関、自治体、NGO、グローバル企業、各国のメディアなどの協力を得て、未来にむけた教育ビジョンを語り合う場所として第1回目より大規模になっており、着実な成果を生み出しています。一例を挙げれば、昨年のサミットで提案されたパキスタンにおける学校建設プロジェクトは計画通り進み、同財団とパキスタン政府との協力が実りました。途上国でのこうした取り組みは数多く行なわれており、これからも推進していきます。今後、グローバルに展開する企業の協賛は増える見込みであり、WISEは世界の教育界の進行役としての役割が強まっていくでしょう。

【2011年1月22日号】

教育家庭新聞