学校図書館賞・村松金治賞受賞の羽合小 北田明美教諭 |
(社)全国学校図書館協議会(以下:JSLA)と日本学校図書館振興会は、6月12日、国立オリンピック記念青少年総合センターで、「創立60周年・国民読書年記念 全国SLA創立60周年記念講演会」を開催。「第40回学校図書館賞」・「第12回学校図書館出版賞」・功労者の表彰式と、国際学校図書館協会会長のジェームズ・アンリ氏の講演が行われた。
JSLA 鈴木勲会長 |
JSLAの鈴木勲会長は「創立60周年であると共に、本年は国民読書年で、多彩な催しが企画・実行されます。学校図書館の発展を大いに期待しています」と主催者を代表してあいさつ。
続いて、学校図書館の振興に著しい業績を示した個人・団体を顕彰する「第40回学校図書館賞」は、〈実践の部〉として、鳥取県湯梨浜町立羽合小学校の北田明美氏(村松金治賞も受賞)、東京都荒川区立第三中学校、同奨励賞に香川県小豆島町立安田小学校の岡亨氏が受賞。学校図書館賞〈論文の部〉は、九州国際大学の安藤友張氏に奨励賞が贈られた。
受賞者発表のなかで、北田氏は「教材準備の支援など全校の教育活動を支える、働きかける司書教諭でありたい」と意欲を語った。
また、学校図書館向き図書の優良な出版企画に対して出版社を顕彰し、その振興を図る「第12回学校図書館出版賞」は、(株)小峰書店の「未来へ伝えたい日本の伝統料理」(全6巻)に贈られた。写真の美しさや、日本の文化を伝えようという出版社の意欲が受賞のポイントとなった。
ISLAアンリ会長 |
図書館の中に学校があるシステム作りを
― 国際学校図書館協会 ジェームズ・アンリ会長 ―
アンリ氏は多くのアジア諸国で教鞭をとってきた経験の中で「理想的な学校とは何か」を常に問い続けたが、「理想的な図書館を持っている学校」という結論に達したという。
現在、学校や校内図書館は共通の問題を抱えている。病院を例にあげると、患者は一人ひとりかけがえのない人生を持つ独立した人格を持つが、看護師は患者と親密に向き合う関係を築くことができない。なぜなら「患者の処置を効率的にこなすために、ただ病院内を走り回るだけだから。看護師を教員、患者を児童・生徒に見立てれば、学校もそういう状況に陥っていると考えられます」とアンリ氏は世界の現状を危惧する。
20世紀初頭、学校は狭い廊下と密閉された箱のような教室が並ぶ閉鎖的な空間で、教員も子どもたちも自分の箱以外のことは知る由もなかった。だが、時代が進むにつれて、徐々に学校から壁を減らし、教員同士、子どもたち同士のコミュニケーションが取れるような環境整備が進められ、今では教室同士を隔てる壁すらない学校もある。
では、「これからの学校はどうあるべきなのか」。アンリ氏は、「学校は、校外の生活とも密接に結びついた安全な場所であるべき」と考える。
校長は図書館の持つ力に理解を示そう
「教室という“箱”はどんどん不要になるでしょう」。そこで必要となるのが、「教員が常に新しくなる情報環境を学習し、使いこなせること」、そして「充実した図書館があり、そこに専門の司書教諭がいること」が21世紀あるべき姿の学校の条件だという。
「彼らはコピー&ペースト全盛の風潮に抗して、本当に物事を理解するために、何を(対象)、何で(手段)、どう(方法)学ぶかという点を明確に示唆できる力を持つ人々です。国や地方自治体の行政は、そうした人材を確保し、学校に送り込む必要がある。そして、学校経営者としての校長が図書館の持つ力に積極的に理解を示すことも必要です」と語る。
図書館は場所でなく1つの機能と考えて
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最後に「図書館は校舎の一角を占める『場所』ではなく、1つの『機能』と考えるべきです。効率よく勉強ができ、ゆったり休憩がとれ、外部とつながるためのツールとしての機能を果たす。図書館が学校の中にあるのではなく、図書館の中に学校があるという状態を作り出すことを、未来の教育環境の指針とすべきではないでしょうか。学校図書館に携わる皆様のさらなる努力を期待しております」と締めくくった。
【2010年6月19日号】