座  談  会

テーマ「調理場の衛生管理について」

【TOPページに戻る】


 −−平成8年度に起こったO157集団食中毒によって、学校給食では衛生管理を徹底し、年々食中毒の発生件数は減少してきました。各調理場では、衛生管理に関して様々な工夫をされていると思いますが、その実践について、また衛生管理に関して日頃感じることをお話し下さい。
 佐野 静岡市立南部学校給食センターは、昭和45年に建設され、静岡市内では一番古いウエットシステムのセンターです。10800食を調理しており、栄養士が3名、調理員がパートを含めて56名の大型調理場です。

 高坂 大潟村では、幼稚園、小学校、中学校が各1校ずつあり、それぞれの学校が廊下でつながっており、合わせて420人分の給食を作っています。調理場は設立31年目で旧来のウエットシステムですが、その他の設備は充実しており、調理員の人数は6名と多く、食器も陶磁器やコレールを使うなど、秋田県一と言われるくらい恵まれた環境にあります。できるかぎり手作りを心がけ、教室には毎日足を運んで、できるだけ早く給食準備をしてもらうようお願いしています。

 小野寺 東京の大田区立東調布第三小学校では、教職員を含めて440名分の給食を、単独校方式で調理員4名で作っております。大田区では、セミドライの改築が進んでいますが、第三小学校はまだウエット方式の調理場です。下処理室や洗浄室などはまったくないので、線を引いて汚染区域と非汚染区域で区切っているのが現状です。
 白井 東久留米市内でも一番西にある第十小学校は、回りは林に囲まれた環境のよい地域です。東久留米市では、親子給食調理方式を導入して10年くらいになりますが、私の調理場では隣の学校も含めて約590人の給食をパートを含めて6名の調理員で調理し、子学校へ配送しています。12年前に親子給食調理法式が開始される際に調理場を改修していますが、O157食中毒事件以前の改修なので、旧来のウエット施設に床に線を引いているような状況で、衛生管理について調理員の意識に頼る部分が大きいところです。

 −−調理場の衛生管理を考えた時に、調理員の意識改革が重要だと言われますが、どのような実践をされていますか。
 高坂 調理員の意識はO157をきっかけに大きく変わりました。食中毒を起こすと大変だという思いが一人ひとりに強くなり、以前とは全然変わりました。前は床を少しでも汚すと、すぐに水を撒いていましたが、なるべく水は使わないという意識がでてきました。衛生管理に関する講習会を頻繁に行って意識を高めたこともありますが、やはり学校給食で子どもが亡くなったということで、大きなショックを受け、ダメージとなりました。

 佐野 静岡市の場合は大型のセンターが4つ、他に小規模のセンターが4つあり、調理員の数も多いことから、衛生責任者制度を設けました。各センターから栄養士1名と調理員5名が各センターの衛生責任者となり、責任者が先頭にたって、他の調理員に指示を出したりして改善を図っています。以前は栄養士が細かい指示をしていたのですが、自分達の代表が責任者として出ることで、協力体制も強まりいろいろなことをやってみようという意気込みができました。また定期的に各センターの衛生責任者が集まって実践を報告しあっています。このことで他のセンターとの情報交換が活発になり、良い取り組みを参考に改善していく動きが出てきました。またセンター同士で競争し合い、よりよい実践ができるよう意識も高まってきました。HACCPの考え方ひとつにしても、「HACCPとは一体どういうことなのか」という基本的なことから始まりHACCPの考え方を実際に自分達の調理の工程の中で考えていこうと、献立作成や危機管理について話し合い発表するという自主研修を行いました。トップだけでなく調理員全員が理解し、一人一人が責任者になることで、より意識向上が強くなったと思います。さらに意識改革のひとつとして水跳ね防止策についてのアンケートを全員に行い、それを集約して標語を作りました。初めはあまり意見も出ないのではと思っていたのですが、書かせてみると、様々な考えが出てきたので、毎朝の放送の中で標語として一人ずつの標語を順に流したり、アンケートの意見を衛生責任者会議で検討して改善し、予算がないからダメだではなく、どうしたらドライ化ができるかを常に全員で考え意識改革を図っています。

 小野寺 毎朝調理員さんと話し合いながら少しずつ意識づけすることで自分のこととしてとらえ、意識の改善を行いました。できるだけ水を使う回数を最小限にし、ゴムホースも午前中の作業ではつかわなくするため、はずして作業をする様にと、意識を変えてきました。また野菜を洗った後など水受けとして、ザルの下にタライと置いたり、ドライ様で使用しているザル置き台等を使ったりしています。食器の下洗いも以前は、下水まではホースが届いていなかったのですがそれを水が飛び散らない様に、下水まで届く様にするなど、できることを考えながら取り組んできました。温度管理においても、O157が起きるまでは余り意識もせず、業者から受け取るとすぐ別の容器に入れ冷蔵庫に入れていたのですが、今は各々納入された品物に関して温度をキチンと測定したり、焼き物、揚げ物、蒸し物についても温度をはかり、記録していくなかで調理員の人達が確認しあえる様になり、意識がかわってきました。

 白井 O157食中毒以来この3年間で180度考え方も変わってきました。文部省から83の衛生管理チェック項目が出されましたが、めくら版にしていいものではないということで、パートパートで見やすい用紙に変え、現在は項目を7つに分けて使っています。検収、洗浄の点検など表に分割して作り直したので、担当者が責任をもっていて調理の温度管理など必ず記録することができるようになりました。「記録しなければ意味がない」ということが、調理員の中に定着してきたと思います。さらに学校の先生方に調理場での衛生管理の実践について話をし理解していただき、給食当番児童の様子をきちんと記録していただいています。学校全体で「まず記録」ということを定着させていっています。昨年、東久留米市では、市全体で統一の「衛生管理マニュアル」を調理員さんとともに作成しました。各調理員が一部ずつ持つようにして、何かわからないことや迷うことがあったらこれで確認しようということにしています。そして、毎年見直しをしていくことになっています。

また調理台の洗浄は、洗った後に必ず熱湯をかけて消毒を行っていたのですが、それをどうしても止めたくて、どうするかいろいろ調べて、タオルの対応を導入しました。先生方の理解もいただき大量のタオルと専用の洗濯機と乾燥機を学校予算の中から購入していただきました。とにかく台は洗わずに、アルコールと塩素剤に浸けたタオルと乾いたタオルを用意して拭き上げていきました。生肉や魚を使用する際には、調理台全面にラップを敷き詰め、調理が終わった後に時点ではがして、塩素に浸けたタオルで拭いた後に乾いたタオルで拭き、アルコールを吹き付け全面に伸ばします。この方法で、使用していた調理台を細菌検査していただきましたが、全く問題はありませんでした。
 施設自体はとても他にお見せできるようなものではないですが、少しの工夫と調理員一人ひとりの意識が変わればある程度まで改善ができるのだと実感しています。やらなければならないという意識の改善ができたら、それをどう実践するかということを一人ひとりが考えること、そして話し合うことが大切になってくると思います。

出席者
 秋田県大潟村立大潟小学校
    学校栄養職員・高坂清江さん
 東京都大田区立第三調布小学校
    学校栄養職員・小野寺志津子さん
 東京都東久留米市立第十小学校
    学校栄養職員・白井秀子さん
 静岡県静岡市立南部学校給食センター
    学校栄養職員・佐野菊代さん


 学校給食における食中毒の発生件数は、平成8年度のO157集団食中毒を機に年々減少し、昨年度は全国で10件、有症者数は1698人であった。床の跳ね水による二次汚染が食中毒の主な原因とされ、調理場をいかにドライに保つかが大きな課題となっている。今回は、全国から4人の学校栄養職員に参加いただき、ドライに保つため日頃行っている様々な工夫や、加熱した野菜の冷却方法、食材の運搬方法など多岐に渡って話を聞いた。


−−衛生管理は調理場内だけでなく、子どもが給食を食べるまでを管理することが大切だといわれますね。
 
高坂 2時間以内に食べるということを徹底させるために、小学校では調理員が教室まで給食を届けています。
 白井 東京都では、異物混入の問題もかなりさわがれましたので、それまで給食時間までに配膳室に置いておき、子どもたちがそれぞれに勝手にとっていくという形式を止めて、子どもたちが給食を配膳室に取りにくるまで、調理員が各階の配膳室に待機していて直接受け渡すという形式にしました。このことは、調理員と子どもとの接点も生まれる良い機会にもなっています。また、行事の準備や授業の関係で給食時間が遅れる場合などは、その時間まで給食は調理室で管理しています。子どもの体制のできた時点で受け渡すということにしています。私たちはサービス業ではありませんが、お客様にお出ししているというような意識をもっともつ必要もあると思います。

 高坂 食中毒を起さないためには、調理場の衛生管理もさることながら子どもたちが自分で自分の健康を作る、丈夫な体を作るという気持ちを子どもたちにもってもらうことも大事だと思います。堺の食中毒事件でも、何ともない子が何割かいるわけですから、丈夫な体作り、食への意識を高めることが必要だと思います。食中毒の原因菌は強くなり、いろいろな菌が増えているのに比べて、子どもたちの体は以前より弱くなっていることも原因のひとつなのではないでしょうか。
 小野寺 抗菌ブームの中で、大人たちが子どもたちをできるだけ細菌からガードしようとしていますが、逆にガードしすぎてしまった部分もあるのではないでしょうか。
 佐野 子どもたちの体の中で抵抗力が養われていないんですよね。そこが問題なのかなとも思います。
 白井 O157発症率が納豆を週に3〜4回以上食べている子どもが最も低かったという岐阜県の事例をうかがってから、うちの学校では月に1度ですが納豆を出すようにしています。

−−食中毒を起さないためには、調理場の衛生管理だけでなく、さらに子どもたちが自分達の体の抵抗力を高めることが大切なんですね。
 小野寺 やはり抵抗力を高めることは、基本的な生活習慣を普段から心がけていくことだと思います。そのために子どもたちに食の指導が大切になってくるのだと思います。
 佐野 学校訪問時、給食を食べる時は栄養士が必ず偏食の子のそばに座るよう配慮されています。食の細い子は、やはり何をやるにも一歩おいているようで、何でも食べる子の方が、すごく伸び伸びしているし、食が細い子や偏食の子はすべてに活気がないような感じです。
 白井 自分が何を食べているかという意識が特に子どもに薄くなっているように感じます。それをどうにかして呼び起こしたい。家庭での意識も薄れているのが現状ですから、子ども自身、自分が意志をもって食べられるかどうかという部分に焦点をおき、食の指導を進めていきたいと思っています。東久留米市では年間一人あたり183回の給食回数ですから、残りの食事は家庭に頼るわけですから、給食を通して保護者や家庭にできるだけ食への感心をむけさせられたらと考えています。
 小野寺 親自身が、食べ物に対しての意識が薄れている気がします。親の意識改革も必要ですね。

 高坂  大潟村は農業の村ですから、いろいろな野菜を作っているので特産の大豆で作った豆腐や、かぼちゃなどを使った献立を作っています。給食を通して子どもたちは、地域の食材に興味をもち、農業に対して意識が高まったと思います。
 小野寺 東京ですと、実際に野菜がなっている姿を見ることがなかなかないわけですから、業者に頼んで、葉っぱのついた野菜をもってきてもらい、教室で子どもたちに見せるようにしています。まずは自分達の食べている食物に興味を持つことが食べることにつながるかなと思っています。


−−昨年度発生した学校給食食中毒原因10件のうち6件の原因となった小型球形ウイルス(SRSV)は一度加熱した食材を冷やす際の水の管理が問題だと言われていますが、加熱した食材はどのように冷やしていますか。
 小野寺 本校では、野菜はできるだけ蒸して使う様にして、水で冷やさず扇風機を使っていますが、茄でた時はやはり水で冷やし、すぐに級配分をして冷蔵庫に入れる事にしています。
 高坂 大型の冷蔵庫や冷凍庫があるので、茹でた後は一人ずつカップに盛りつけて少し冷ましてから、ラップをかけて冷蔵庫に入れ、子どもたちが取りにくる直前まで冷やしておきます。また調理場にクーラーを設置し、室内を18度に設定し、涼しい状態で調理をしています。
−−食数が少ないからできるやり方ですね。
 高坂 食数が少ないだけでなく、調理員一人当たりの食数も少ないので、カップに分けるという作業もできるんだと思います。
 佐野 静岡市内の全調理場には、真空冷却機が設置されています。ただ難点は、冷却機内に水を循環させて冷やすので、水温までしか温度が下がらないことです。水温が高い時は下げたい温度まで下がりません。ですから、真空冷却機に入れてある程度の温度まで下げてから、野菜専用の大型冷蔵庫に入れて、和える直前までその冷蔵庫で冷やしておきます。また青菜など真空冷却機に入れると色が変わってしまうもは水でさっと冷やしており、イカや海老のボイルは扇風機で冷ましてから冷蔵庫に入れています。
−最新の真空冷却機では、短時間でかなり低温まで冷やせるものも出てるそうですが。

 佐野 チラー方式といって、水温をぐっと下げられる最新の機器もあります。静岡市の他のセンターは導入していますが、うちのセンターでは、平成13年度に導入予定です。
−−SRSV対策として、真空冷却器があれば万全だといわれますが、設置している調理場は少ないそうですね。
 小野寺 予算の問題もありますが、単独校ではスペースが狭いので置く場所がないというのが現実です。真空冷却器は冷やす部分はそんなにとらないですが、その他の部分でかなりスペースをとりますからね。
 白井 東久留米市では基本的に水で冷やしています。衛生管理の基準では、一緒に食べさせる野菜は同じ釜で加熱して、同じ条件で温度管理するとなっていますから、和え物でもサラダでも、同じ釜に最終的に入れて温度を管理しています。茹で上がったらすぐに水を出している釜入れて冷ましています。またO157事件以前は、茹でる必要のある野菜等は調理の初めに茹でていましたが、今は調理過程の一番最後に茹でるようにしています。これは調理してから食べるまでの時間をなるべく短くするためです。さらに水の塩素管理は調理の初めと、冷やす前、調理が終了した時点の計3回計っており、徹底して管理していますので、冷やす際はすべて水を使い、扇風機はすべて撤去しています。
−−平成8年度のO157集団食中毒によって、衛生管理に対する考え方は、全ての学校給食調理場で大きく変わったと言えますね。

 小野寺 全国的に冷凍冷蔵庫が設置されたことが大きいですね。以前から、栄養士たちは、冷蔵庫を入れてほしいと依頼していたのですが、なかなか予算化されずにずっときていました。O157がきっかけで全校に設置されるようになり、逆のきっかけとしてよかったと思います。それまでは現場の意見をなかなか受け入れてもらえなかったというのが現実だったと思います。
 白井 20年間、学校給食に携わってきましたが、それまでやってきたことが180度かわりました。いろいろな意味で見直しができたことがよかったと思います。そのままやっていても、たぶん大きな問題はなかったのかもしれませんが、1から全てを見直し、考えて調理にあたらなければならないという意識がうまれました。O157食中毒事件はけっしてよいことではないですが、見直しをするよい機会を与えていただいたと思います。

 高坂 調理員が何時から何時までどういう仕事をしてどういう流れをしているかということを毎日記録するようになり、最後は個人の責任になるというシステムの徹底が調理員一人ひとりの危機管理を高めるようになったと思います。
 佐野 私の調理場でも何も問題なくいましたが「何もないからいいや」という考えがあったと思います。マンネリ化になっていたわけですが、このO157の事件は栄養士も調理員も明日は我が身という危機意識が湧いたと思います。調理員としていつでも加害者になってしまう部分と、調理員自身も子どもの親として被害者になる恐れもあるという両方の危機感がありました。実際、自分達が作るものに対しての個々の責任というものが、以前よりも問われたのではないでしょうか。意識改革と一言でいえば終わってしまいますが、まだまだこれから勉強しなければならないことがたくさんあります。今まで「これでいいんだ」と思っていたことがひっくり返り「それではいけなかったんだ」ということがわかったことが、栄養士も調理員もいい刺激になったといえます。これからもどうなるかわからない、何が起こるかわからないという危機感を常に感じ給食を作ってゆきたいと思います。
 −−どうもありがとうございました。
(教育家庭新聞2000年8月12日号)