●共に学んでいくには「責任」が大切 日本協同教育学会セミナーレポート1 (2006年08月09日)
8月5日、6日、愛知県の南山大学で日本協同教育学会第3回大会が開催された。その際に行われた「協同教育基礎講座I」に出席してきたので、そのレポートを。
『先んじての注意』
筆者は協同学習の専門家ではありません。また、日本協同教育学会員でもありません。書く内容は「協同教育基礎講座I」に沿って、正確を期すように心がけますが、内容が協同学習の正統的なものになっている事は保障しません(というよりできません)。協同学習に興味のある方は、学会にアクセスしたうえで勉強されるのが一番良いと思われます。
<目次>
■セミナーレポートの前に:協同学習とはなにか?
■日本では協同教育の実践者むけカリキュラムがなかった
■協同学習における『個人思考』と『集団思考』という考え方
■共に学んでいくには「互恵的」な「責任」が大切である 協同学習の定義
■来週のレポート2のまえに、セミナー全体の流れ
■セミナーレポートの前に:協同学習とはなにか?
協同学習とは、グループ学習の一種。ただし、グループ学習=協同学習ではない(協同学習の定義は後述)。学習観の点から言えば、協同学習では、学習過程を個人のものとして考えず、社会的な営みだとして捉えている。
■日本では協同教育の実践者むけカリキュラムがなかった
今回の講師は、久留米大学の長濱文与氏と、創価大学の関田一彦氏。ワークショップ系セミナーで一般的な、「これからの時間の意味」を説明するところからセミナーはスタートしていく。
まず、協同教育基礎講座Iの位置づけについて、関田氏から。
日本においては、協同学習の実践のための標準的なカリキュラムがなく、個々の先生方が工夫を積み上げてきた。それはそれですばらしいけれども、中には協同学習の要件を満たさない実践が行われて『協同学習? やったけど意味ないよ』と言われてしまうことがある、と。
ちょっとまずいね、ということで『協同教育基礎講座』の登場と相成ったとのこと。米国では1週間でじっくり勉強するようなカリキュラムもあるが、日本では現場の先生の状況に合わせ、1日プログラム×3(I、II、III)で一通りの基礎的なことが勉強できるようにした。「この3日のプログラムを勉強することで、米国で1週間分のカリキュラムをやってきたくらいのことができるようになる」関田氏、なかなか強気です。「・・・ことを目指してます」関田氏、なかなか謙虚です。
とにかく、協同教育基礎講座Iとは、その全3日のプログラムの内、1日目にあたる。そのねらいは『協同学習とはなにか』を学ぶこと。このあたりから、講師は長濱氏にバトンタッチをする。
今回のセミナーは、実際に協同学習の手法を体験しながら『協同学習とはなにか』を勉強しましょうというスタンス。協同学習の簡単な説明を受けた上で、今回の学習を一緒に進めていくためのグループ作りに入る。グループ作りは、メンバーがお互いに学び合えるように、知識レベルを含め、多様性を重んじるのが大切とのこと。今回は、性別と生年月日とからグループを作成した(グループメンバーは4人)。
グループメンバーが決まったところで、自己紹介の時間。グループの中で、ペアになる相手を決めてから、自己紹介を行った。
【自己紹介】
○内容
・名前(姓、名、漢字、名前の由来)
・所属
・出身地
・印象に残る最近の出来事
○流れ
1:個人で話すことを、「内容」に沿って考える
2:話す人と、聞く人と。役割を交換しながら、同じ時間だけ自己紹介を行う
「内容、細かいでしょう? でも、グループに慣れていない子どもたちは、これくらいに細かくしてあげないと、自己紹介ができないんです。どちらからはじめる、どれくらい話す?といった細かい手順も、決めてあげないと戸惑います」決められていたにもかかわらず、大人たち、戸惑いました。
この後、他のグループメンバーに、ペアになった相手を紹介するという時間が持たれた。グループメンバーの名前が言えて、書けるようになったところで、
「ここまでで40分かかってます。結構時間かかりますよね。でも、グループ形成時期には、敢えてじっくり時間を取ってやることが大切です」確かに大切。これは、後の定義で出てくる「互恵的」な「責任」を持った関係のグループを作るために、不可欠な時間といえる。
■協同学習における『個人思考』と『集団思考』という考え方
『個人思考』
流れの中の『1』のように、個人で考える時間・過程を、協同教育では『個人思考』と呼ぶ。自分の思考や知識をグループ内で明確に述べるには、その前にしっかり整理整頓と準備をしておかなくてはならないという考えからだ。
『集団思考』
自己紹介の後、個々のメンバーの受講理由や、このセミナーに期待することについて、個人思考の時間があり、さらに個人思考の内容をグループ共有する時間が持たれた。そのとき、似たような内容を取りまとめるという作業を行った。
例えば、筆者の属したグループには、協同教育を学んでいる学生さんが2人居て、
「協同教育を理論的にしっかり把握し、学園祭で発表したい」
「協同教育を学びなおし、次回のゼミ発表の糧にしたい」
という内容が重なったため、『協同教育を、自分の言葉で、正確に語れるようにしたい』と取りまとめることになった。
このように、個々人の答えやアイデアをグループで共有し、メンバー全員が共通の理解に達したり、考えをブラッシュアップしたり、回答を導き出したりする時間・過程を協同教育では『集団思考』と呼ぶ。
協同学習では、『個人思考』と『集団思考』、それぞれにさまざまな技法が用意されている。それらを目的(得たい学習効果など)に応じて使い分けていくというのが、手法的な側面から見た協同教育の姿だと言える。
■共に学んでいくには「互恵的」な「責任」が大切である 協同学習の定義
ただし、手法だけを追求していくと、関田氏が冒頭で述べた『協同学習の要件を満たさない実践』となる。それでは、協同学習が成り立つ要件とはなにか。その大きなヒントとなるであろう、協同学習の定義を挙げておく。
【日本協同教育学会の定義】
・互恵的相互依存関係が成立している
・学習目標の達成とグループの成功に対する学習者自身の責任が明確になっている
・促進的相互交流の機会が保障され、実際に相互交流が活発に行われている
・「協同」の体験的理解が促進されている
【ジョンソンらによる協同学習の定義】
・互恵的な協力関係(肯定的相互関係)がある
・グループの目標と個人の責任が明確である
・対面しての活発な(課題に関する)相互交流がある
・小集団技能活用の奨励および技能訓練がある
・活動に関する振り返り(改善手続き)の時間がある
【ケーガンの協同学習の定義】
・肯定的相互依存が成立している
・個人の責任が明確である
・参加の平等性が確保されている
・活動の同時性が配慮されている
定義だけ見ても、分かるような、分からないようなという感じですよね。この辺、短く説明するのは難しい。実際、午後からのセミナー時間の多くは、この定義の説明と、定義に対しての個人思考・集団思考に費やされたのでした。
これらの定義をしっかり解釈・理解したうえで、教育過程/学習過程に適宜反映できるかどうかが、単なるグループ学習と協同学習とを分ける分水嶺だと思われます。ので、ちょっと勉強での小手先解説はやめておきますね。個人的に特に重要かなと思うのは、タイトルで取り上げた二つ。
■来週のレポート2のまえに、全体の流れの説明
このレポート、来週にも続くのですが、来週はセミナーそのものの内容とはちょっと違ったところに話が飛んでいくことになっております。したがって、話が拡散しないうちに、今回のセミナーの全体の流れを最後に記しておきます。
【セミナーの、大きな流れ】
・「はじめに」
○グループ分け
○自己紹介
○受講理由の共有
・このセミナーの趣旨と目的説明
○勉強嫌いを作り出す授業とは
<お昼>
○午前中の内容について話し合う
○質疑応答(関田氏回答)
・技法「お話タイム」の説明
○「お話タイム」使うとしたらどこで使う?
・協同学習の定義の説明
○協同学習を考える(技法「学びの出会い」を使用)
○セミナーを締めるアクティビティ2つ(内省式とフィードバック式)
(○が、『個人思考』と『集団思考』とを使って進められていた部分。・は、主に講義式で進められた)
(榊原)
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投稿者 kksblog : 2006年08月09日 06:38
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