●シティズンシップ教育とは何か?~「ごきげんよう」という傍らでタッパに給食を詰める世界で (2006年05月10日)
3月30日、経済産業省が「シティズンシップ教育と経済社会での人々の活躍についての研究会」とりまとめ内容において、「シティズンシップ教育」という教育理念を打ち出している。同省が平成16年、17年に推進してきた「起業家教育」とは、また一味違っている「シティズンシップ教育」。今回は「シティズンシップ教育」のねらいや背景を、簡単にまとめてみよう。
■シティズンシップ教育とは、
社会的スキルを学ぶもの
「シティズンシップ教育と経済社会での人々の活躍についての研究会」の報告書(以下、「2005年研究会報告書」)によれば、シティズンシップ教育とは
「他人を尊重することの大切さ、個人としての権利とそれに伴う責任、正しい行い、人種・文化の多様性の価値など、子どもたちが身に付けるべき社会的スキル(Social Skills)を学ぶ機会を提供するもの」
となっている。また、その目的は
「社会の一員として、地域や社会での課題を見つけ、その解決やサービス提供に関わることによって、急速に変革する社会の中でも、自分を守ると同時に他者との適切な関係を築き、職に就いて豊かな生活を送り、個性を発揮し、自己実現を行い、さらによりよい社会づくりに参加・貢献するために必要な能力を身に付ける」
となっている。合理的な意思決定をそのベースとして置く金融教育や経済教育、起業家教育などとくらべ、他と関わっていく社会的スキル(Social Skills)を重視する視点だといえるだろう。
■シティズンシップ教育に
注目する背景
日本でも今後、社会の階層化が進むことだろうと予測されている。さまざまな統計で、所得、職業、学力などに関して、格差が拡大・固定される傾向が見られるからである。また、経済のグローバル化が進むと、さまざまな出自であるメンバーがひとつの社会を構成する必要がでてくるとも考えられている。
出自や可処分所得レベルの大きく異なるメンバーからなる集団となっていく日本社会において、よりよい参加型民主主義社会を形成するためには、異質な他者が互いに交流し合える公共性を成立させる軸が必要となる。その軸として、ソーシャルスキルを基にするシティズンシップに注目するというわけである。
■シティズンシップ教育で求めるもの
意識、知識、スキル
2005年研究会報告書では、シティズンシップを発揮するために、(1)意識(2)知識(3)スキルが必要であるとして、これらを身に着ける教育が必要であるとしている。
それぞれの具体的な内容は、
(1)意識
○自分自身に関する意識
向上心、探究心、学習意欲、労働意欲など
○他者との関わりに関する意識
人権・尊厳の尊重、多様性・多文化の尊重、異質な他者への敬意と寛容、相互扶助意識、ボランティア精神など
○社会への参画に関する意識
法令・規範の遵守、政治への参画、社会に関与し貢献しようとする意識、環境との共生や持続的な発展を考える意識など
(2)知識
シティズンシップが不可欠な「公的・共同的な活動」「政治活動」「経済活動」の3分野で必要となる知識
(3)スキル
○自己・他者・社会の状態や関係性を客観的・批判的に認識・理解するためのスキル
自分のことを客観的に認識する力、他者のことを理解する力、ものごとを俯瞰的にとらえ全体を把握する力、ものごとを批判的に見る力など
○情報や知識を効果的に収集し、正しく理解・判断するためのスキル
大量の情報の中から必要なものを収集し、効果的な分析を行う力、ICT・メディアリテラシー、価値判断力、論理的思考力、課題を設定する力、計画・構想力など
○他者とともに社会の中で、自分の意見を表明し、他人の意見を聞き、意思決定し、実行するためのスキル
プレゼンテーション力、ヒアリング力、ディベート力、リーダーシップ、フォロワーシップ(多様な考え方や価値観の社会や組織の中で、批判的な目でチェック機能を果たしたり、リーダーの意を汲んで行動したり、適切な役割を果たす力)、異なる意見を最終的には集約する力、交渉力、マネジメント力、紛争を解決する力、リスクや危機に対応する力など
■シティズンシップ教育のかたち
体験型の学習を通じ、教科の中で浸透させる
また、上記報告書では、これらは体験を通じての理解深化につとめるべきだとされている。なぜなら、
「これらの知識の大部分は、公民をはじめとする既存の教科の中で既に取り上げられているものです。したがって、シティズンシップ教育の具体的なプログラムを展開する際には、こうした既存教科との連携・分担を図るとともに、体験等を通じて知識の理解を深める手法に重点を置くことが必要」(2005年研究会報告書)
だからである。
シティズンシップ教育は、イギリスで展開されてきたものだ。イギリスでは、シティズンシップ教育は、「総合的な学習の時間」のような個別教科としてではなく、全教科を縫う縦糸として、義務教育カリキュラムの中に取り入れられている。シティズンシップ教育の理念、手法、求めるものを、一般科目の中で達成していくようにカリキュラム構成をするという試みをしているのだ。それは、ある意味、日本でも地域的に行われている、協同教育の取り組みに形としては近いかもしれない。
■私見
~ 「ごきげんよう」という傍らでタッパに給食を詰める世界で
さいごに、私見を。
シティズンシップ教育の視点は、非常に大切なもののように思われます。
実際、全国の学校をめぐってみると、シティズンシップ教育が前提としている「経済格差」「出自差」は、おそらく大多数の人が思っているだろうレベルより、大きく存在していることがわかります。
お母さま方が「ごきげんよう」と去っていき、保護者の方の可処分所得平均が1千万円を超えている小学校もあれば、クラスの2割くらいが元外国籍のこどもで構成されている小学校もあります。また、先生が給食をタッパにつめて、生徒に持ち帰らせる中学校もありました。そうしないと家でご飯が食べられないから、だそうです。
これらは、すべて公立の学校です(榊原)
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投稿者 kksblog : 2006年05月10日 16:12
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