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お金はタブーか? 金融教育 (2006年04月19日)

なにかと金融まわりでゆれる近頃の日本ではありますね。

金融に対する知識を教育すべきだと考える「金融教育」。結構学校でも展開されてきています。少し前までは学校でお金を教えるのは、タブーだったことを考えると、隔世の感があるというべきか。

今回は、2つの資料を引きながら、金融教育ってなんなのさ?というところをまとめてみようと思います。


主に参考にする資料は、

金融広報中央委員会サイト「マネー情報 知るぽると」内の
「金融教育のすすめ(Webセミナー)」横浜国立大学教授 西村隆男氏
【資料A】と勝手に命名)

農林中金総合研究所サイト内の
「金融教育の現状と課題」農林中金総合研究所 副主任研究員 木村俊文氏
【資料B】と勝手に命名)
です。

金融教育って、そもそもどんなもので、どんな目標を持ってるの?
金融教育って、やらなきゃいけないの?
『金融』教育なのに、なぜキャリア教育も入っているの?
金融教育に対する、教育現場の感覚ってどんなもの?

金融教育って、そもそもどんなもので、
 どんな目標を持ってるの?

【資料B】
によれば、金融教育とは

『「国民一人ひとりの金融やその背景となる経済についての基礎知識を高め、日々の生活の中でこうした基礎知識に立脚し、自立した個人として合理的に意思決定する能力を身につけてもらうために行われる教育や訓練のこと」』

なのだそうです(原典は金融庁・内閣府資料)。ちょっと難しい。

ということで、
【資料A】
にあたってみる。ここには、目標が書いてあります。

【資料A】
『金融教育(「金融に関する消費者教育」と言ってもよいでしょう)は、消費者の、消費者行動、負債行動、貯蓄行動、投資行動をより洗練されたものにすることを目標にしているもの』

とのこと。すこし、はっきりしてきた感じがします。【資料B】には、こういう記述もあります。金融教育はさまざまな教育プログラムを内包しているものであるとして、代表的なプログラムを挙げているのです。

【資料B】
『1.金銭教育:物やお金を大切にすることを通じて、正しい金銭感覚を養うこと
2.経済教育:経済・金融の仕組みや機能を理解すること
3.経済学教育:経済学的な考え方を基本に合理的な意思決定や社会問題を考える視点を養うこと
4.生活設計:家計の収入や支出内容を把握し、健全な家計管理と将来の生活設計力を身につけること
5.投資教育:各種金融商品の内容やリスクについて学び、自己責任にもとづく合理的な資産運用の力を身につけること
6.消費者教育:消費者としての基本的な権利と責任を学び、各種の金融トラブルの未然防止や事後対応力を養うこと
7.キャリア教育:労働体験を通じて勤労の意味を理解するとともに将来の職業選択等について考えさせること』

だとしています。「消費者行動、負債行動、貯蓄行動、投資行動」というと、お金が先にたっちゃいますが、「使える時間の投資感覚」や「「選択」をより合理的に、より主体的に判断する能力」あたりも視野に入ってるという感じですか。このあたり、バランスをとりながら伝えていくのが金融教育だといえそうです。


金融教育って、
 
やらなきゃいけないの?

じゃあ、何故そういうことをやらなきゃならないのかと。AB、2つの資料は金融教育推進派の資料なので、当然のことながら金融教育はやるべきだと主張しています。

では、どんな根拠でやるべきだとしているのか。

【資料A】
『「日本版金融ビッグバン」と呼ばれる金融環境の劇的とも言える変化は、金融商品の販売者側に対して消費者への重要事項の説明義務や、不十分な説明によって消費者が損害を被った場合の消費者の損害賠償請求の権利を認める法制度(金融商品販売法)を生み出すと同時に、消費者の金融に関する基礎知識の普及や学習機会の保障を必要とすることになりました。』

『金融庁は2002年11月に文部科学省に対して、学校教育での金融教育の推進を求める異例の要請文を出しましたが、こうした背景があったからと言えます。』

なんか漢字が多くて難しいですね。そこで、【資料B】の同様ことを記述しているであろう部分を当たってみましょう。

【資料B】
『「官から民へ」「国から地方へ」「貯蓄から投資へ」と、経済社会システムを改革しようとしている』

その結果、

【資料B】
『・確定拠出型年金(日本版401k)は急速に普及している
・ペイオフが解禁され、決済性預金を除き、元本1000万までとその利息しか保護されなくなり、預金者が一定のリスクを負うこととなった』

などのバックグラウンドの変化があり、

【資料B】
『個人一人ひとりが自己決定を迫られる機会が拡大しており、自己責任が全うできうるために必要とされる「生きる力」を養成することが重要となっている。そこで、その生きる力の一つとして、国民のファイナンシャル・リテラシーを高める金融教育への関心が高まっている』

んだそうです。これは、先行して「ビッグバン」が行われた海外の状況を踏まえたものでもあります。【資料A】に英国の例が記されています。

【資料A】
『1986年に金融サービス法を制定するなど、すでに金融ビッグバンを経験した英国では、金融自由化に伴う消費者保護策をとっていました。しかし、個人年金の販売競争で、予期せぬ損害が多くの消費者にもたらされたため、消費者保護策の再考が行われ、消費者保護を目的として、新たに1997年に設立された金融サービス機構(FSA)は、次のように金融教育の意味を述べています。』

『金融教育の目的は、「消費者が十分な情報にもとづいて、選択することができるようにすること、また自らの金融に関する問題をよりよく取り扱うことができるようにすることにある。また、それは消費者からの圧力が高まり、金融市場での競争を促進し、革新が引き起こされる。そしてそれは通貨の価値と質を高めることも意味する」と。』


ここの最後にある「通貨の価値と質を高めることも意味する」とはどういうことか。これは、(少なくとも)イギリスの金融教育の根底には、市場経済主義の考え方があるのだということを指しています。

【資料A】
『市場経済の一方の担い手としての消費者を育てることが、健全な市場を生み出し、その結果として自社の利益を含めて、経済全体を豊かにする』

こういう思想が根っこにある。市場経済を健全に豊かに育てていくために(少なくとも市場経済の中で破滅的な状況になることはないように)、消費者の金融に対する知識を育てるべきだと。そういうことですね。


『金融』教育なのに、
 なぜキャリア教育も入っているの?

先ほど『「時間の投資感覚」や「「選択」をより合理的に、より主体的に判断する能力」も視野に入ってるという感じですか』と書きました。

そういった「キャリア教育」などで行なわれそうなことが、どうして「『金融』教育」に関連し、取り扱うべき事柄となっているのか。それには色々な理由はあるみたいですが、先ほど書いた「市場経済主義」とも大きく関連している部分ではあります。

経済学の基礎的な概念のひとつに「合理的な意思決定に基づく希少財の分配」というものがあります。

僕資料(某省の報告書を作るときに僕が書いたものを改変しました)
『人間が意思決定をする(ことがらを選択する)という事には、希少な資源「金銭」「時間」「エネルギー」などを、さまざまな制約条件の下で効率的に分配するという側面がある。ひとびとが人生の節目で意思決定をする際には、経済学などに基づく合理的な判断に関する知識が役に立つだろうと考えられる』

市場経済主義には、こうした合理的な意思決定の総体が効率的な市場を作り上げるという信念のようなものがあります。ここから

【資料A】
『市場経済の一方の担い手としての消費者を育てることが、健全な市場を生み出し、その結果として自社の利益を含めて、経済全体を豊かにする』

というところへとつながっていくわけです。だから、金融教育の中には、

【資料B】
『3.経済学教育:経済学的な考え方を基本に合理的な意思決定や社会問題を考える視点を養うこと』
『7.キャリア教育:労働体験を通じて勤労の意味を理解するとともに将来の職業選択等について考えさせること』

などが入ってくることになるわけです。


金融教育に対する、
 教育現場の感覚ってどんなもの?

で、こういう教育の取り組み、学校教育の現場では欲しがってるんですかねえ、というのが疑問に上ってきます。こういうことを調べたアンケートがあるらしく、
【資料B】
にその結果が載っています。2004年6月のアンケートです。

【資料B】
『「初等中等教育段階における金融経済教育に関するアンケート」では、金融教育が「重要でありかつ必要である」とする回答が小学校で56.9%、中学校で74.6%、高校では81.3%に上った。』

なかなかの好成績。ただし、こういう認識を得られつつも、実際にはあまりまとまった時間をとって教育が行われていない理由として、

【資料B】
『「学習指導要領での扱いが異なるため」との回答は、小学校で49.8%、中学校で30.5%、高校で23.0%だった』

要するに、「教科」があると。そこに、時間調整をしてまで金融教育をいれるのは大変だよと。とのこと。外部から学校教育にカリキュラムを入れていく際、時間の調整は欠かせないものになりますし、それは「教科」の時間を圧迫する可能性が高くなりますからね。このあたりから、

【資料B】
『「他に教える事項が多い中で、優先順位は低い」という回答が小学校で44.7%と高く』

なってくる理由なのかもしれません。(榊原)



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投稿者 kksblog : 2006年04月19日 12:12


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