●春らしく、学校らしい整理整とんを考える (2006年04月12日)
新学期も開始、学校は新しいメンバーを向かえての新年度となっている。今回の海外ホームページ探訪にも紹介されているように「生徒に勉強しやすい環境を整えてあげる」ことは、スタート時にとても大切だ。
今回は、物理的な整理整とんという方向から、「勉強しやすい環境」を考えてみよう。
■「勉強しやすい環境」の教室ってなんだろう? ~ 整理整とんの大切さ
■整理整とんと秩序維持との関係 ~ 神は細部にやどる
■きっつい秩序は、つかれる ~ ほどよい秩序をめざす
■無意識の力はありやなしや? サジェストペディアという考え方
■「勉強しやすい環境」の教室ってなんだろう?
~ 整理整とんの大切さ
では、勉強しやすい環境とはなんだろうか。
静かな環境?
音楽が静かにかかっているような環境?
本のあふれる環境?
緑豊かな環境?
適温ですごしやすい環境?
どれも大切な要素なのには違いない。しかし、ここでひとつ、新たな条件を考えなくてはならない。「教室は多人数で勉強する場所」だということだ。学校で勉強するということは、家で予習復習などの勉強をするということとは、ちょっと色合いが違う(単純に比較しても意味はない)。では、多人数が勉強しやすい環境とは、いったい何か。
その重要な要素のひとつが「物理的な整理整とんがなされている環境」だ。
これは多人数で成立している学級での組織立った秩序を保つという意味では、大きな役割をになう可能性を持っている。担保されているかいないかで、クラスの雰囲気が大きく変わってくるかもしれない。
この裏づけとなる知見が、ブロークン・ウインドウ理論だ。一定の視点からなされる整理整とんは、組織だった秩序を保つのに非常にポイントになる要素のひとつなのだ。
整理整とんと秩序維持との関連性とについてのべている「ブロークン・ウインドウ理論」。2003年のメルマガ本誌で紹介したことがあるので、その部分をそっくり引用。
「ブロークンウィンドウ理論という犯罪学理論があります。
様々な犯罪は、呼び水があることによって発生しやすくなるという考え方です。この理論にもとづけば、重犯罪が起こりにくい環境を作るためには、軽犯罪が起こりにくい環境を作れば良い。軽犯罪が起こりにくい環境を作るためには、落書を消す等、関心を持って地域を見守っているとアピールすれば良い。
この考えを導入し効果をあげたのが、1980年代以降のニューヨークでした」(vol.180から引用)
この理論を中学生相手に語った先生のお話。
○「『ブロークン・ウィンドウ理論』を学級で語る」
「秩序ある学級にするため、何が必要なのか?それは《乱れた状態を見逃さない》という学級担任の強い意志であると、私は思っている」
この染谷氏の例では
「ごみを教室に落とさない」
「くつ箱を正しくつかう」
「いたずら書きはすぐけす」
などを注意している様が書かれている。
では、「秩序ある学級」というのは、最終的には軍隊のような状態を目指すことになるのだろうか、というともちろん違う。上記のページの染谷氏もそんなことは望んでいない。
秩序は、行動の規範を指し示すという意味では、行動のよりどころになるため、団体行動の疲労度を減らす。しかし、秩序強制が強すぎれば、強度の精神的ストレスを学級のメンバーに与えることになる。それは、大人でもこどもでも変わらない。
○「J-ライフデザイン:うつ病は”心のカゼ”です」
「几帳面でマジメ、手を抜けない、強い責任感や道徳観を持つといった秩序を重んじる人や、他人と争えない、頼まれたらイヤと言えないといった温厚な人がうつ病になりやすい」
では《ほどよい秩序をこの教室で保っていくぞ》という意思をどのように表現するのか。これは難しい。締めるべきところは締め、緩めるところは緩めて、児童・生徒への親しみを持った学級経営を…と表現してしまえば「お偉いさんは簡単に言うけどさ」の典型的な例になる。
今回のお題は、物理的な学級の整理整とんから勉強しやすい環境を考えること。物理的な整理整とんを通じて、ブロークンウインドウを産まず、さらにほどよい秩序を導き出す方法はないだろうか?
それはとても難しいことだけれど、ひとつ参考になりそうな考え方を紹介しておこう。サジェストペディアという教授法だ。主に、言語教育のジャンルで応用されており、日本では、日本語教師の間で勉強会なども開かれている。
○サジェストペディアの解説
「人間の潜在能力を活性化させる暗示学に基づく学習理論を言語教育に応用したもの」
このサジェストペディアの方法論のひとつに、
「学習内容に関係のあるテキストを教室の中にちりばめておく」
というのがある。
学習する言語の新聞やカラフルな雑誌をおいておいたり、これから勉強する内容をまとめたものを前もって貼っておいたり、その言語文化で日常的に使われるものをオブジェとして置いておいたり、その言語の音楽をかすかに流しておいたり。教室に、学習内容に関連する様々なものをちりばめるという方法だ。それらを理解できる必要はまったくない。ただ、ちりばめておく。
興味のある人は、ちりばめられたものに注意をむける。ひょっとしたら、調べたり、考えたり人もでてくるかもしれない。興味のない人でも、視界の中には強制的に入ってくる。「人間の潜在能力」はそれを無意識のうちに吸収しており、実際に学習を行なう際にも学習内容が入りやすくなるのだという。
暗示や無意識の是非の議論はともかく、これはひとつ参考になる考え方だといえる。人間は、前もって枠組みを与えられたものは理解しやすくなる(参考:水戸黄門をお手本にする=先の読める構成を考える「解りやすい文章を書く」から)
また、教室のレイアウトにも融合させやすい。多くの教室では「児童・生徒がやったこと」の成果物を貼っているはずだ。この中に「児童・生徒がやっていくこと」を、先生の成果物として紛れ込ませていくのは、さほど難しくないだろう。
ブロークン・ウインドウ理論の知見に基づいた上で、サジェストペディアの考え方を応用すれば、努力と工夫次第ではあるものの、楽しく、秩序だち、しかも学習に深い意味を及ぼす空間を作ることができる可能性は高くなるだろう(榊原)
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投稿者 kksblog : 2006年04月12日 14:07
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