●守るためのゼロ・トレランス/向上するためのゼロ・トレランス (2005年12月21日)
11月、文部科学省がゼロ・トレランス方式の研究を始めるということを明言した。ゼロトレランスとは、学校における指導方針のひとつのありかた。「規則と、その規則を破ったときの罰則を定め、例外なく遵守する」というものだ。
今回のPick it upでは、このゼロトレランス方式について、色々なサイトの記述を見つつ、まとめてみたい。
■ゼロ・トレランス方式とはなにか?
再度、ゼロ・トレランス方式とはなにか記しておくと
「規則と、その規則を破ったときの罰則を定め、例外なく遵守する」
というもの。学校や州によって、その罰則の厳しさなどは異なる。3回破ったら退学というところもあれば、指導措置が数段階に分かれており、規則違反にきめ細かく対応しているところもある。
もう少し詳しいことを知りたければ、
などを見るとよいだろう。これらから少し引用しておくと、このゼロトレランスという考え方が普及した背景としては、
アメリカでは1970年代から学級崩壊が深刻化し、学校構内での銃の持込みや発砲事件、薬物汚染、飲酒、暴力、いじめ、性行為、学力低下や教師への反抗などの諸問題を生じた。その建て直しのための生徒指導上の様々な施策が行われてきたが、その中で最も実効の上がった方法がゼロトレランス方式だった(Wikipediaからの引用)
という成果に基づく考え方があり、そのバックグラウンドには
「ゼロトレランス」とは、もともと、「不良品を許容しない」という産業界の考えだったが、「子供を不良品にしてはいけない」という意味で、その考えが応用された(はてなダイアリーからの引用)
というアメリカらしいといえばアメリカらしい思考法がある。生徒には、「生徒自身の持つ責任を自覚させ」た上で、「「駄目なものは駄目」と教える」ことができると期待されている。
■ゼロ・トレランス方式の問題点と考えられるのはなにか?
成果が上がっているゼロ・トレランスではあるが、いくつかの問題点もあることが指摘されている。その事に関しては、杉田荘治氏のサイトに詳しい。
氏は、ゼロ・トレランス方式に対して、
と、そのもののタイトルをつけ、論じている。氏によれば、ゼロ・トレランス方式には
誰が見ても生徒が“うっかりしていた”と思われるような行為や親の不注意によって、偶々そのような持ち物を車の座席に置き忘れたというようなケースは、長期の停学や退学処分にするよりは親に対して厳重に注意すれば良いもようなものについても、弾力的な措置をとることを恐れるあまり、厳重な罰を一律に科す
という問題点があるという。そのため、
「本当に先生に暴行したり、銃を持ちこむような重大な犯罪は2%にすぎない」(略)「学校は何でもかんでも裁判所へ持ちこむので、これに振り回され危機にひんしている。居残りや停学のケースも持ちこまれ、裁判所は毒消しのように使われている」(氏によるNew York Timesからの引用)
New Jersey州Sayreville で4名の幼稚園児が“泥棒ごっこ”をして自分たちの指をガンになぞらえて遊んでいたために3日間の停学になった(氏によるCopley News Serviceからの引用)
という事態が起こっていると指摘する。ゼロ・トレランス方式では「規則と、その規則を破ったときの罰則を定め、例外なく遵守する」ため、行動の理由を問わないからだ。
氏はこういった事例から、アメリカにおいて
『ゼロ・トレランス』が発するメッセージは良いが、学校がそれに安易に頼り事を処理しようとする風潮が懸念され、その結果、異常に停学、退学、逮捕が増えている。
としている。
では、日本の場合はどうなるのか。氏は
わが国の場合は逆に違反行為を“見逃す”風潮が懸念されよう。
という。この「風潮」の具体的な例を氏は書いていない。決められた罰則を「きびしい」と教員が考えた場合、「無かったこと」にしようと考える可能性がある、ということだろう。
こういう例外的なあつかいを教員が行えば『「生徒自身の持つ責任を自覚させ」た上で、「「駄目なものは駄目」と教える」こと』は、ほとんど期待できない。しかし、例外なきゼロ・トレランス方式の運用をすれば、氏が述べたような問題点は、どうしても発生してくる。
■ゼロ・トレランス方式を成功させるためにはどうするか?
このように、問題点となる種が多く潜んでいるゼロ・トレランス。アメリカでも失敗例は数多い。では、その逆、アメリカで成功した例では、どのように運用を行っているのだろうか。成功例については、
に詳しい。この文章では、エリザベス・ハドソン・スクールが、成功例として引き合いに出されている。このエリザベス・ハドソン・スクールという学校は、
キンダーガーテンから8年生まで1200人の生徒を有するマンモス校で、同校がある地域は、典型的な高収入高学歴ではなくワーキングクラスが多い
学校。ゼロ・トレランス方式を導入してから、
「Broad Foundation」による学力の向上度、問題を起こした生徒の数などの総合評価で全米の大都市にある学校中トップ5に入り、カリフォルニア州政府によってDistinguished School(名門校)にも認定
されるという、目覚しい成果をあげている。この学校で行われているゼロ・トレランスは、他のものと少し違う。普通のゼロ・トレランスは、
銃刀および武器になり得るものまたはその模倣品
暴力
薬物・タバコ・アルコール
(はてなダイアリーより引用)
についての規則が中心となるのだが、この学校では、さらに
態度、学力、ドレスコードに関してゼロトレランス・ポリシーを適用
しているのだ。態度のゼロ・トレランスとは、
態度に関しては、4年前からキャラクター・エデュケーションというプログラムを実践している。毎週、リーダーシップやアンガーマネージメント、協力などのトピックを決め、誰が最も実践したかを全校生徒で投票する。選ぶ相手は生徒だけに限らず、教師やスタッフも含まれる。
また、学力のゼロ・トレランスとは、
カリフォルニアでは、1年生、5年生、8年生の段階で成績表にFが2つ以上あると落第となり、次の学年に進級できない。そのため、勉強で遅れをとっている生徒には、教師が昼休みや放課後を利用して補習クラスを実施している。同校では、落第制度が施行されて以来、落第になった生徒は1人もいない。
さらに、ドレスコードのゼロ・トレランスとは、
また同校では、公立学校には珍しく制服もある。「制服を導入することで、生徒たちが引け目に感じたり見せびらかしたりということに悩む必要がなくなり、その結果出席率まで上がりました」と語るのは、ポーラ・ミルズ教頭。経済的な理由で制服を購入できない生徒には、制服に限らず、バックパックなど必要なものを学校が用意するという。
ゼロ・トレランスというより、ごくごく普通の形という気がしないでもない。いずれにせよ、この3つのゼロ・トレランスを実施するには、親の協力が欠かせないため、
当校では、事情があって幼い子供をプレスクールに通わすことができない家庭にスタッフが出向いて育児の指導をしたり、また学校に来てもらって指導するなどしていますので、子供が小さい時から親にとっても学校が身近なんです。学校が門戸を広げて、親が関わりやすい状況を作ると、どの親も皆積極的に参加してくれます
という状況を学校が積極的に作り上げているという努力を、学校は行っている。また、上述した杉田氏の懸念
長期の停学や退学処分にするよりは親に対して厳重に注意すれば良いもようなものについても、弾力的な措置をとることを恐れるあまり、厳重な罰を一律に科す
に対しては、
違反があった場合、判断の材料の1つになるのが成績だとか。「FやDばかりの生徒は、やはりそれだけで何か問題があるわけです」。普段から問題もなく一生懸命がんばってAをとっている生徒は、突発的に規則に触れるようなことがあっても、悪質なケースは例外として、それなりの考慮が加味される
という対応を行っているようだ。つまり、エリザベス・ハドソン・スクールの例では、ゼロ・トレランスという言葉から連想される、杓子定規なポリシー運用を行っていない。学校を盛り上げて行くために、ゼロ・トレランスという考え方を使っているのだ。そして、その運用は、家族を含めたこども自身との関係作りの努力に裏打ちされている。
■まとめ 守るためのゼロ・トレランスから、向上するためのゼロ・トレランスへ
基本的なところでのゼロ・トレランスをそのまま適用すれば、「マイナス部分は切り捨てろ」という考え方になってしまう。
しかし、これはあくまでもus-lighthouseの記述によるものではあるものの、エリザベス・ハドソン・スクールにおけるゼロ・トレランスとは、ベースにノーマルのゼロ・トレランスを置きつつも、その運用の考え方は明らかに異なっている。「マイナス部分があるなら、みんなで埋めつつ盛り上げちゃえ」という考え方だ。
守るためではなく、向上するためのゼロ・トレランスへのスイッチ。このあたりが、ゼロ・トレランスの導入時の可否を分けるのかも知れない(榊原)
■その他、参考になるサイト
アメリカの学校再生を見る
少年犯罪の増加と”ゼロトレランス”の取り組み
ゼロ・トレランス?そんな、いきなり・・
ゼロトレランスゼロトレランス・非寛容:生徒指導に寛容ダメ 文科省 米で成果、導入検討へ
校内暴力とゼロ・トレランス
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投稿者 kksblog : 2005年12月21日 17:40
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