新しい学校の特色づくり・助成金の行方
学校も「顧客満足度」考える時代
ネット上の「生徒指導」必要
私立中・高経営の新しい特色作りを提案すべく、本社主催「第1回 私学経営セミナー」(後援 日本私立中学校高等学校連合会、社団法人日本教育工学振興会)が、平成17年2月24日、東京・市ケ谷の自動車会館で開催された。これからの私学経営の参考となるような講演が行われ、多くの学校関係者が会場に集まった。
今回のセミナーの参加者は、私立学校経営の校長・教頭・事務長らが対象。全国より約70校80名の私学関係者が参加した。うち7割は東京近郊であったが、北海道、兵庫、京都など遠方からの参加者が3割あった。 ◇ ◇ ◇ ■情報モラルとセキュリティ 学校法人岩崎学園 今野友行氏 | |
情報セキュリティ大学院大学などを設置する学校法人岩崎学園の今野友行氏は、「安全な教育環境の実現−情報モラル、セキュリティの確保」をテーマに講演を行った。今野氏はNPO情報セキュリティフォーラムの啓発普及プロジェクトリーダーでもある。
今野氏は長崎県教育委員会が昨年10月に行ったインターネット利用状況調査の結果を紹介。それによると家庭でのインターネットの利用状況は、小学校4年生32・3%、小学校6年生37・3%、中学校2年生42・9%、高校2年生44・3%と、かなりの高い数値を示す。また、携帯電話の普及から電子メール利用状況も小学6年生でも26・0%と高く、トラブルの元となりやすいチャットや掲示板を利用している小学生も多い。
生徒が陥りやすいトラブルとしてあげられたのは、電子メールでのケンカ、チェーンメール、作成したWebサイトが荒らされるなど。電子メールは誤解を生みやすいコミュニケーションなのでトラブルが起きやすく、携帯電話のメールの場合、いつでも連絡が取れることから、ケンカやイジメが家にまで継続する怖れがある。
また、教師のトラブルとしては、パスワードが知られて試験問題が漏えいしてしまうケースや、学校から持ち帰ったノートパソコンを紛失して生徒の情報が漏えいするケースがある。これを防ぐためには、仕事の仕方や教職員の適性人数から考え直す必要がある。
このように危険な要素が伴うインターネットだが、情報セキュリティ・情報モラル向上のために、まず安全教育を実施すべきだと今野氏は呼びかける。専門の教員がいない小中学校こそ早い対策が必要となる。そのための情報安全教育のテキストは、インターネット上で探せば、すぐに見つかるという。
一人の教員でできることには限界があり、専門の教員にだけ、任せてばかりはいられない。初心者の教員だからこそ陥るトラブルもあるので、そうした事例を集めて活用することで、全員のスキルを総合的に高められる。弱い部分からセキュリティが漏れるので、その穴を埋めることがセキュリティの向上につながるという。
学校の安全確保のためには、まず情報資産を全て洗い出すのが先決。情報を持ち出されても気付かない状態を無くすことを勧めている。
◇ ■三位一体改革と私学助成 文部科学省私学助成課 永山賀久氏 | |
永山賀久課長はまず、私学助成の現状について説明を行った。私学への経常費は、各都道府県から法人へ補助がなされ、その一部が国からの補助となっている。平成17年度の予算案では国庫補助金は約1000億、地方交付税が約5000億で、合計6000億が国としての財政措置。現状では、それを上回る補助金が都道府県から出されているが、この都道府県の上乗せ分は、地方財政の悪化などから、近年急速に縮まっているという。
三位一体の改革では、私学への公的助成の必要性が議論されたが、これは、教育は受ける本人だけでなく、社会にも効果が及ぶものなので、本人だけが負担するのは不公平、といういわゆる「教育の外部効果」から当然のこと、という。その上で、結果として私学への助成は残されることとなったが、依然として国からの財政措置の殆どは地方交付税交付金による一般財源であり、厳しい地方財政の状況を考えれば、今後も私学助成の重要性を訴え続ける必要があるとしている。
一方、17年度予算編成では、財務省から、学生数が減っているので大学への私学助成も減らすべき、との意見が出てきており、こうした点は高校以下の場合も含めて18年度以降も議論されることになるとしている。
今後の私学助成は、仕組みそのものは当面大きな変動はないと思われるが、首長がリーダーシップを取って教育改革を行う県が出てくるなど、地方が大きく変わるのではと展望する。
そして重要なキーワードとなるのがアカウンタビリティ。私学や自治体が自ら進んで情報公開・発信をしていくことが私学助成の維持につながるが、さらに、事後の検証や評価も必要、と語った。 ◇ ■学校の特色化と生徒募集 財団法人 日本私学教育研究所 山路進氏 | |
財団法人日本私学教育研究所主任研究員の山路進氏は、「学校の特色化・生徒募集−成功事例を検証する〜ITなど新旧手法の導入〜」をテーマに講演を行った。
少子高齢化が進み、いまや子どもの誕生数は最盛期の3分の2程度となった。子どもの数が減れば、それに合わせて学校数の淘汰が始まる。しかし、その減少は「質の充実」と見ることができるのでは、と山路氏は語る。
私立校は公教育を行うための教育機間だ。それは教育基本法や学校基本法にも定められ、私立学校法の第1条にも「私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることによって私立学校の健全な発達をはかることを目的とする」と記されている。その教育内容を決定づけることになるのが、ほぼ10年ごとに改訂される学習指導要領。これは昭和22年にアメリカのコース・オブ・スタディを手本に制定されたものだが、山路氏は当時の内容を抜粋して、どういう意図から学習指導要領が作られたのかを紹介した。「これまでは、とかく上の方から決めて与えられたことをどこまでもその通りに実行する、といった画一的な傾向があったのが、今度はむしろ下の方からみんなの力でいろいろと、作りあげて行くようになって来た」と記されており、その出発点は、現在にも通じる内容となっていることが分かる。
山路氏は我が国の教育制度の仕組みについて、図に書いて説明した。それによると、学問分野の専門家らにより教育内容が検討され、それを参考にして学習指導要領が作成される。その学習指導要領を基準にして検定教科書が作られ、教師は指導教材として使い、児童・生徒は学習材として活用する。各学校では、学習指導要領の範囲内でカリキュラムが組み立てられていくが、さらに実施可能なカリキュラムと実験的なカリキュラムに分けられる。しかし、「社会の多様化にともない小中高校で学ぶ内容の全てを文科省で決めるのに無理がでてきたのではないか」と指摘し、「これからは学校ごとのカリキュラムをさらに自由度を増して充実させるべきではないか」と述べる。
2002年度から実施された新学習指導要領では、学校5日制と「生きる力」を育むことが主軸だ。しかも、従来は学習指導要領の「記されていること以上は教えてはいけない」という「最上限」を示すものだったのが、「記されていることは確実に教え、さらなる発展的な学習を望む」という、最低限のラインになった。「これからは、個々の生徒に対応した学習内容や、21世紀の社会に対応し学習内容を子どもたちに提供していくことが重要視され、特に私学では建学の精神に基づく人間教育が求められている。今、私立の学校が考えなければいけないのは、学校は何を提供するかという教育サービスの内容を創造し実践する事だ」。
また、高校資格認定も将来的には視野に入れて考えるべきであり、その例としてフランスの大学入試制度・通称「バカロレア」を取り上げ、例えば「私は誰でしょう」という哲学的な問題が出されるため、これまでの知識注入型の学習では通用しない。また、ヨーロッパ諸国では既存の教育に取って代わると言う意味のオールタナティブスクールが多数認められていて成果を上げおり、それらの学校に共通しているのは「知識達成目標を設定するのではなく、子どもの持って生まれた気質や能力を高めていくこと」、日本の学校も参考にすべき点は多いと指摘した。
「各学校の教育課程はこれまでは単なる数字が並ぶ教育課程表だけで示されてきたが、これからは具体的な教育課程を作成し記述したシラバスの作成が重要となる。大学では当然となった教員の資質・能力向上のための活動を意味するFD(ファカルティ・ディベロップメント)を、中学や高校でも進めていく必要がある。また、各学校の自由度が大きくなったことから説明責任が問われ、教育内容が正しく行われているか自己評価や第三者評価をする必要が生じてきた。企業のように学校も顧客満足(CS)を考えなければならない時代がやってきた」と、各学校の特色づくりをさらに進めるように呼びかけた。 【2005年3月5日号】
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