情報科の授業を、どのように展開していけば良いか、生徒や保護者の個人情報を守るために気をつけることは何か。そうした問題に悩む先生方の参考にしてもらおうと、本社主催による「私学IT活用セミナー」を、平成17年6月18日(土)、東京・四谷の弘済会館で、「ITを活用して授業改善&私学における個人情報保護対策」をテーマに開催。会場に集まったコンピュータ担当の先生など約70名に向けて3氏が講演を行った。 ◇ ◇ ◇ ■“被害者”にも“加害者”にも “ならない” 慶応義塾湘南藤沢中高 田邉則彦氏 | |
今年で開校13年目を迎える慶應義塾湘南藤沢中・高等部は語学教育とコンピュータに力を注いできた。長年に渡り情報教育を受け持ってきた田邊則彦教諭が、その経験を活かして「情報モラル指導のポイント」について語った。
同校では中等部でコンピュータリテラシーとネットワークリテラシーを中心に教え、高等部ではデータリテラシーとメディアリテラシーを中心としたカリキュラムが組まれている。
最近では高等部の授業でブログを利用しているほか、コンピュータソフトウェア著作権協会やNTTレゾナンドから講師を招き、著作権や検索エンジンについて教える出張授業などが行われているという。
同校では全ての専任教員にノートPCが貸与されるようになったが、そこで問題となってくるのが、ノートPCの紛失などから起きる個人情報の流出。生徒の成績や名簿をノートPCに保存している先生もいると思われるので、細心の取り扱いが要求される。
「学校でコンピュータを扱う際に、最も注意すべきことは、教師と生徒にパスワードによる管理を徹底させることです」。それこそが個人情報が漏れるのを防ぐ最大の手段となる。
情報モラルを教える必要が出てきたのは、急速にパソコンが広まったことによる。平成16年度版情報通信白書によると、すでに国民の2人に1人、8割以上の世帯が、インターネットを使っていることになる。
そうした中で、安心してインターネットが使える状況が構築されているかと言うと、決してそうではない。そこで教員が声を大にして、インターネット社会の中で、自分の身を守る方法を教えていかなければならない。
「情報モラルにおける最大のポイントは、被害者にも加害者にもならないようにすること」。そのためには、学校と家庭と社会の連携が必要だが、中でも家庭において保護者の情報モラルの関心が低く、生徒とともに教えていく必要がある。
「生徒に情報モラルを指導するきっかけは、実際に新聞に載った事件や、生徒のインターネットの掲示板への書き込みなど、探せば身の回りにいっぱいある」としているが、携帯電話の安全教育だけは、何かトラブルが起こらないうちに、正しいコミュニケーションの取り方など、急いで指導する必要があると警告する。
そんな田邊先生が、おすすめするサイトが、6月15日に開設した警察庁の「インターネット安全・安心相談」(http://www.cybersafety.go.jp/)。事例検索で、インターネットにまつわる様々なトラブルを見つけ出せる上に、相談コーナーでは、実際にサイトに寄せられたネットトラブルの相談例を見ることができる。また、相談窓口に質問を寄せれば、専門家が適切な回答を返してくれる。
「学校における情報セキュリティポリシーを確立していく必要がありますが、ただ作っただけでは駄目です。実際に作成したものを導入してから評価して、何度でも見直していくことが大事です」と語る田邊先生。子ども達をネット社会で加害者にも被害者にもしないための環境の提供が、学校に望まれる。 ◇ ■「情報科」のカリキュラム を提案 明治大学付属明治高 小岩孝一氏 | |
明治大学付属明治高等学校の小岩孝一教諭は同校での情報科の授業が、どのように実施され、どのように生徒の評価が行われているかを説明。
何かと準備に手間が取られる情報科の授業だが、同校では3人いる事務専用TAのうち1人が情報科の専属となっており、生徒の提出物のチェックや、教材として使うサイトへのリンクを行ってくれることが、先生の負担を軽減させている。
「主要教科は講義形式中心で知識を得るものだが、情報は得た知識を活用する教科」。同校の情報科は体験型学習プログラムを重視、かつ情報処理の技術を得るために情報を教えるのではなく、目的達成に向けて知識を活用するために情報を教えている。
具体的なカリキュラムだが、中1から高1までは、週1時間の特別講座の中に情報の授業を設置。今年度からは、技術・家庭と連携し、授業の中に情報が取り入れられるようになった。本棚を作る際にCADを使って製図を進めたり、HTMLのタグについて教え、HPを作成している。
高1の情報Aでは、WordとExcelの基礎的な扱い方を学ばせた後に、コンピュータや携帯電話の利用状況に関するアンケート調査を実施。その集計作業としてExcelを使わせた。
文部科学省から「学校教育の質的改善」が求められる中、情報科が他教科を変えるのではと捉える向きもあるが、小岩先生が考えているのは他教科との融合を図ること。明確な目的がある限り、情報科で教えたことの活用は、広がっていく。
情報科では、実習とテストで生徒の到達度が評価されるが、実習は教員が設定した絶対評価と、相対的な他者評価によって判断される。また、生徒の側からも、教員の対応がどうだったかなど、授業評価が毎学期ごとに行われているという。 【2005年7月9日号】
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