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「リーダーは校風の中で育つ」

開成学園理事長 加藤丈夫氏
加藤理事の写真

加藤丈夫氏は、2001年に開成学園理事長に就任。富士電機ホールディングス株式会社の相談役でもある。1957年に開成高等学校を卒業。
開成学園は1871年に創立。現在の定員は開成学園中学校900人、高等学校1200人に及ぶ。



健全経営

Q 私学経営を取り巻く状況として、少子化、価値観の多様化、経済の長期停滞、国の教育改革といった課題を指摘されていましたが。

  「その大きな流れは変わっていません。ただ、開成学園はここ2年黒字決算をし、今年度も黒字の予定です。黒字決算できた理由は3つあり、第1は、PTAの皆さんの運動もあって、東京都の補助金の削減が当初予想より小規模ですんだことです。

  第2は、年々受験者が増え、入学試験の検定料が増加していること。第3はOBからかなり多額の寄付を頂くようになったことが財政好転の理由です。

  幸いに黒字が続き、無借金なので、将来の校舎改築のため約30億円の資金を積み立てることができています」

ペン剣基金

Q なぜ、OBからの寄付がここにきて増えてきたのでしょうか。

  「理事長就任後、ずっと呼びかけてきたからでしょうか。やはり私学は教員と保護者、OBの3本の柱で支えていくものです。このOBの支えは物心両面がありますが、私は特に経済的な支援をお願いしたい、と呼びかけてきて、ようやくここに来て広まってきました。

  そして、これまでは開成会の奨学金制度への寄付が多かったが、最近は学校経営に役立てて欲しい、といった寄付が増えています。今年3月には開成学園のマークにちなんだ『ペン剣基金』ファンドを作りました。そのペン剣基金にOBの寄付を積み立て、その利子を教育充実の費用にあてるつもりです。

  また、黒字ではありますが、平成20年度から授業料を値上げします。毎年の経常収支を安定させ、計画外の出費にも備えられるように、財政基盤をしっかりするためです」

    他の私学でも基金を作りたいと思っている理事長、校長はいらっしゃると思います。それを実現するポイントは。

  「やはり理事長が熱心に呼びかけることだと思います。近年開成では地域や職場でのOBの集まりが盛んです。そこで会合がある時は私はできるだけ出かけて行って、学園の現状をお話しし、皆さん方の物心両面の応援を期待します、とお願いしています。

  OBが社会で活躍していることは、現役の生徒にとって一番の励みです。例えば、先日伊勢丹と三越の経営統合でも両社の社長とも開成学園出身、と新聞に報道されていましたが、そうした先輩が頑張っている姿は、生徒にとって力になります」

トップを独走

Q どうして、開成学園はトップを走り続け、応募者が増え続けているのでしょうか。

  「それは1つの循環の問題です。東大合格者数全国1、ということが評判になると優秀な生徒が集まってきます。それが続くとさらに優秀な生徒が集まってくるので、いい循環になっています。

  ただ、いまは、進学成績だけで学校評価が行われていますが、本当の評価は、進学成績だけではないと思っています。

  開成学園は10年ぐらい前まで、知育に偏った傾向がありましたが、現在の芳野俊彦校長が就任して、『知心体をバランスよく育てる』を理念に掲げ、特に体の面で、様々な学校行事が盛んになってきています。

  例えば、100年以上の伝統がある水泳部の合宿(水泳学校)は、この10年ほど活動が下火になっていました。しかし、昨年教員からやはり水泳学校を復活させよう、という声が起こり、中学1年生全員を千葉県館山市で合宿させた。その評判が非常に良かったので、宿舎を短期間に建て替え、今夏にすばらしい施設を完成させました。

  また、野球部も甲子園の地区予選で2回戦まで勝ち上がり、スポーツだけでなく俳句甲子園で全国優勝もしています」

新校舎建設

Q 2010年を目途とした長期ビジョンの策定を進めておられますが。

  「教員たちに、10年先、20年先の教育を考えよう、といっても毎日の仕事が非常に忙しい。むしろ、築後30年以上経つ高校の校舎を建て替えよう、その時の校舎を設備や生徒の定員などから具体的に考えてもらう。そのため、高校校舎建て替えのための検討委員会をずっと継続しています。

  実は、もっと早く結論が出ると思っていましたが、教員が検討するプロセスが大切である、と今は思っています。4、5年先には改築したいですね」

    校舎建て替えについてのポイントは何でしょうか。
  「一番のポイントは、長く使える新校舎にしようということです。芳野校長は100年ぐらい使える校舎を作りたいと言っています。100年とは大げさかもしれませんが、50年使うとすれば50年先の夢をみんなが持ちますから。学園に美術の教員が作った新校舎の模型があり、それを見ながら議論しています。

  昔、学園の正面に時計台があり、我々の頃はそれがシンボルでしたが、今の校舎ではそれを取ってしまった。学校を思い出したときに真っ先に思い浮かべるものを作りたい、そのため時計台は作りたいですね。きらびやかな校舎というより、精神的な面を重視しています」

教員評価

Q 教員評価についてどうお考えでしょうか。

  「開成では教員の評価は行っていません。教員に目標管理制度を取り入れるとか、評価を厳しくする学校もありますが、私は教員の成績査定よりむしろ、採用するときに人物を本当に見極めることが大事だと思っています。また、重要なのは教員同士がお互いに切磋琢磨できる環境です。おそらく、教科ごとになるでしょうが、先輩教師が後輩教師にきちっと指導するサイクルを作っていくことです。

  私は、教員にいわゆる勤務評定のようなものは入れたくない。世の中全体で起こっていることは、教員の質にかなりバラツキがあるからで、現在の開成学園は教員の質が揃っていますから、評価の必要はないと思っています。

  私はちょうど、今年開成高校を卒業して50年経ちます。この秋に卒業50年記念のパーティを仲間としますが、今でもみんなが集まって話すのは、『あの先生は変わっていたな』とか、へんな先生を覚えています。逆に教え方がかなり上手だった先生でも覚えていない先生もいます。教員が生徒に与える影響は、会社における物差しでは計れません。会社経営と学校経営を両方してみて、つくづく思います。
  やはり人間なのですね。会社であれば、売上げを上げ、利益を伸ばすことが目標ですが、学校はそうではない」

Q リーダーを育てる教育について

「生徒たちに『リーダーになれ』、というだけの教育ではリーダーは育ちません。やはり大切なのは、学校の中に自然に盛り上がっていく雰囲気です。いつも現状に満足しない向上心を持つ、いつも弱いものの味方に立つ、正義感を持つ、絶対悪いことをしない倫理観を持つ、といったことはリーダーの条件ですが、それは授業で教える、といったものではなく、学校全体の張り詰めた雰囲気の中で育っていくものです」

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