【九州教育旅行現地視察会】参加者の声(抜粋・敬称略)

過去と現在を学ぶ/歴史への誇り
人との絆を深める/景色・食もポイント

総括

■教師の五感で教材の宝庫を確かめて

 公立中学校3年間の集大成である修学旅行の教育効果は大きい。これまで学習してきた知識や興味を深めつつ感性を磨く大きな機会ともなる。そうした点で九州は教材の宝庫で、魅力に満ちている。弥生時代からの歴史や人々の生活、文化や産業、戦争と平和、自然との共存など、惹きつけるテーマにあふれている。また、各自の五感を働かせての真の体験学習や地元の方々とのふれあいプログラムも充実している。今回参加させていただいた視察会の持つ意義は大きく、教師の五感で実際に確かめることが貴重だ。(神奈川大学講師、全国修学旅行研究協会理事・関範夫)


福岡県

■利便性良い福岡市内

 北九州4県に修学旅行を誘致しようという熱意、意気込みを官民一体で感じることができた2泊3日だった。福岡空港は構内も広く使い勝手が良いと感じる。地下鉄で博多駅まで2駅というのも大変利便性が良い。大刀洗平和記念館は、平和学習として生徒に伝えたい施設だ。隊員の手紙や遺品は十分生徒に伝わるだろう。私自身初めての九州ということもあり、感動の連続であった。

■発着点ではなく学習地

 福岡県は九州の発着点というイメージがあるが、いろんな体験学習もできアクセスも最適だ。大刀洗平和記念館は福岡、大分、佐賀、長崎などの分岐点にあり、立ち寄り見学に良い。ミニシアターは生徒にとって貴重なものになると思われる。太宰府天満宮には立ち寄ることが多いが天満宮しかなくコースに入れるのに悩んだが、九州国立博物館が隣接され、規模も大きくきれいで内容も豊富で良い場所だと思った。

■ひと味違った大刀洗の平和学習

 大刀洗は軍の施設が存在した長い歴史があり、大刀洗平和記念館は、原爆資料館やピース大阪とは違った印象を受けた。沖縄以外で一度に多くの児童が爆撃の被害を受けた唯一の例ということで、より強く悲しみを感じた。館の内容も十分で、生徒に見せる価値があると思う。周辺に歩いて見に行ける施設があれば、クラス単位で分散して見学できるのではないかと考える。

■平和教育の効果大

福岡県
博多弁とのやりとりが楽しい明太子道場

 日田から約40分で大刀洗平和記念館に到着した。教育効果の高い修学旅行のキーワードの一つ「平和学習」の場として興味深い施設だ。展示等については知覧特攻平和会館が勝るが、レイアウト等内容的には遜色なく事前学習を適切に行うことで、平和教育の効果は大きいと思う。また、明太子道場は理屈抜きでおもしろく、出来上がった明太子も美味。時間と予算に余裕があれば一興かと感じた。

■わくわくする明太子づくり

 感慨深かった施設は大刀洗平和記念館と原爆資料館だ。特に大刀洗には飛行訓練所があったことから、それを狙った空爆があり、小学生が逃げ戸惑い、怖い思いをしながら犠牲になったと聞き、胸が熱く苦しくなった。長崎の原爆資料館とあわせて、充実した平和学習を行うことができると感じた。また、明太子道場では、オリジナル明太子にチャレンジした。博多弁で楽しくレクチャーしていただき、後日自分が作った明太子をわくわくしながら賞味した。


大分県

■今日に対応した廣瀬淡窓の教育を学ぶ

 廣瀬淡窓先生の非常に先見的な教育実践にとても感銘を受けた。特に、身分による差別がなく入学できたこと、一人ひとりの習熟度に合わせた教育カリキュラム、やる気を起こさせる明確な評価システム等、今日の教育課題にも十分対応した教育がすでにここでは実践されていたことに驚いた。県のプレゼンテーションの中で、グローバルとローカルをうまく組み合わせた民泊の説明があったが、魅力的であり中学生にも十分受け入れられるだろう。
■郷土ゆかりの人を咸宜園で知る

 咸宜園では意外な地での頼山陽、菅茶山といった郷土ゆかりの文人、教育者の足跡に触れ、歴史学習等への広がりの可能性を感じた。また、日田の方々が過去はもちろん現在に至るまで「教育」を大切にしておられることが伺え、私自身も気持ちを新たにさせていただいた。豆田町で最も印象に残ったのは酒造所であった。日田市内に日本酒、焼酎、ビールの酒造業が集まっているという切り口から自然、環境学習を仕組める。

■好アクセスが魅力

 豆田町では、修学旅行生が班単位の活動ができ、なかでも咸宜園は教育の原点のようなところで、見学や小さな研究が数多くできると思う。なにより、福岡から2時間足らずで来られることにより、大阪発の場合半日ぐらいの活動ができるということなど、小京都のような豆田町での活動は魅力が持てる。

■歴史ある町の息づかいを感じる

 豆田町では、天領の豊かな商家の街並みをガイドの方の要領を得た案内と説明で有意義に見学して回ることができた。花月川に寄り添うように近世の商業都市が存在し、醤油や酒の蔵元が醸し出す香りから歴史を重ねる町の息づかいが感じられた。修学旅行の見学地としても、昔の暮らしを体感する場として丹波篠山、倉敷、奈良の今井町などのように、小グループで事前に計画を立てさせ、見学するのに適した町だと思う。

■目に見えない心のやりとりで豊かな旅

 豆田町を散策中、細い道に意外と多くの車が行きかい小さな渋滞が幾度となくできた。我々に行く手を遮られ歩きにくそうな児童が、自分からは決して邪魔をせぬよう道を空けながら帰路を急いでいた。その姿やドライバーを見、観光資源のための「目に見えない」地域の努力がそれらを守っているということを痛感した。おもてなしという言葉が実しやかに言われる昨今であるが、旅先での何気ない気持ちのやり取りができることが、その旅をより豊かなものとすることは確かで、中学生にそんな心の交流を味わわせたい。


佐賀県

■吉野ヶ里はDVDとセットで

佐賀県
佐賀の八賢人おもてなし隊から歴史を学ぶ

 吉野ヶ里歴史公園は、想像より遥かに広い敷地で、弥生時代の集落跡や展示館以外にも復元した弥生時代の水田や広い芝生広場もある。歴史公園ガイドと説明のDVDを頂戴したが、大変よくできており、中学生以上であれば事前にDVDを見ておくことが望ましい。宿泊先のホテル龍登園は繁華街から離れており、周りには何もないことが逆に生徒の管理がしやすということが、実際に泊めていただいてよく分かった。よく手入れが行き届いていて好感が持てた。

■百聞は一見に如かず

 日本最大級規模の弥生時代の環濠集落跡。園内に復元された大規模なV字形の環濠や大型の物見櫓、展示室にある武器による刺し傷の残る人骨などから、弥生時代でも集落が「ムラ」から「クニ」へと発展するにつれて、「争い」に備えてその防御の必要性が高まっていったのだということがよく理解できる。その他復元された竪穴住居や出土した貝殻やガラス製勾玉、甕棺などを目にし、2千年前の弥生人の生活が実感できた。百聞は一見に如かず、生徒にはぜひ吉野ヶ里歴史公園で弥生時代を体感させたい。

■古代史の学習に

 吉野ヶ里歴史公園は我が国最大の遺跡。弥生時代における「クニ」の中心的な集落の全貌や、弥生時代600年間の移り変わりを知ることができ、日本の古代の歴史を解き明かす上で極めて貴重な資料や情報が集まっていることから、古代史の勉強に大変好ましい。(亀岡市立別院中学校・本田勝美)

■おもてなし隊に感動

 ホテルの食事会場に島義勇、江藤新平らに扮した役者が乱入し、寸劇が行われた。初めはお笑いの劇と思って楽しく見ていたが、後半は佐賀の歴史と誇りを後世に伝えようと言う若者の熱い志が感じられる劇で感動した。演じる若者グループは「幕末・維新佐賀の八賢人おもてなし隊」という名称で、毎週日曜日に佐賀城本丸歴史館で上演しているという。生徒にもぜひ見せたいと考えている。


長崎県

■民泊受入れへの熱意

長崎県
南島原ひまわり観光協会から、民泊の説明を受け、意見交換

 南島原の農村・漁村の民泊体験は、修学旅行に対する観光協会・受入家庭などの強い熱意を感じた。病院との連携や緊急時体制なども充実し、農産物の収穫や一本釣りなどの漁業体験ができることも大きな魅力。一度に350名を受け入れることができ、生徒を狭いエリアに集中させることが可能で、原則1校の受け入れなどニーズによく応えている。現地の人々との交流を通して、人間関係の絆を深めコミュニケーション能力を高めることが主なねらいとなる。

■イルカと感動の出会い

 口之津港から30分程度でイルカがいる地点に着いた。遭遇率99%はどうしてだろうと思ったが、300頭近くが生息しており、魚群探知機や他の船との無線連絡で確実に居場所がわかるそうだ。イルカは水族館で見るイメージでしかなかったが、自然の中で生きるイルカと出会いその違いに驚かされ、群れになって現れた時の感動は言葉にしがたいものがあった。中学生であれば、もっと感動するに違いない。

■手に触れられる博物館

長崎県
「ミニ出島」で全体を

 一般に博物館は「展示物に手を触れないでください」という貼り紙ばかりを見るが、長崎歴史文化博物館は手に触れられるものがあり、楽しく学習できる場であると感じた。中学生の団体料金240円は魅力。大人でも楽しめる様々な工夫があり、唐人屋敷パズルや出島パズルでは、私を含め思わず遊んでしまった先生方もかなりいたのでは。出島は、狭いエリアであり比較的短時間の設定でも、スタンプラリーなどしながら自由に見学できる良い素材だと思われた。

■学校に応じた宿泊に

 長崎での夜景はさすがに素晴らしかった。一部屋に大人数で入れる山側のホテル、少人数単位で泊まれる街側のホテルをうまく組み合わせた宿泊が可能であることがわかった。食文化の高さも驚きであり、料理が出てきた時の子どもたちが喜ぶ姿が目に浮かぶようである。

■戦争の歴史を体感

 長崎市内には、戦争の歴史を体感できる素晴らしい建築物や博物館が多数存在する。今回の視察では防空壕の跡地(立山防空壕)に連れて行ってもらったが、この場所で実際に指揮がとられていたのかと物思いにふけってしまった。この視察で感じた九州の魅力は、人の温かさである。今の中学生にとって必要である、自分と他者との関わりを九州の教育旅行で感じ取ることができるだろう。

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【2014年2月17日号】

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