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首都圏教職員東北研修旅行

自然がフィールドの本物体験
宮城・岩手「“森は海の恋人”と平泉の文化遺産」

 東北観光推進機構は、8月16日から18日の3日間「首都圏教職員東北研修旅行」を昨年に引き続き実施。「森は海の恋人≠ニ平泉の文化遺産」をテーマに、中学の教員及び教育関係者が参加し、修学旅行を始めとした教育旅行の新たな可能性を探った。参加者からは、修学旅行だけでなく、中2での自然学習などへの期待の声もあがった。

とれたての魚介類で本物の味を体験

1日目 
一ノ関駅→気仙沼大島(亀山リフトで展望台へ、体験プログラム視察等)

 1日目は各自一ノ関駅に集合し、バスで1時間30分ほどの気仙沼の港へ向かった。港からは約30分かけ船で「大島」に渡ることとなる。船にはウミネコの群れがついてきて、えさを与える楽しみも味わえる。

 大島は気仙沼湾内に位置しており、船に乗っているだけでは陸地に囲まれているように感じることから、まずは島全体を眺めるため、全長約1qの亀山リフトで展望台を目指した。

 リフトを降り展望台まで少し歩くと、海と山に囲まれた美しさに歓声があがる。「箱物の施設はありませんが、自然をフィールドにした体験ができるのが魅力です。小前見島(こまえみじま)での無人島体験(バーベキューランチ)も人気があります」と、気仙沼大島観光協会の白幡昇一会長は説明する。

 周囲22q程の小さな島だが、環境省選定の快水浴場百選にも選ばれた「小田の浜海水浴場」などに代表されるように、遠浅で穏やかな湾内で、生徒たちは民宿に分泊し地引網体験や魚介類を使ったバーベキュー体験など、大人の目の届く範囲で多くの体験ができる。

 偶然港に居合わせた観光協会副会長の岩崎さんが、海の中から「ホヤ」の入った網を取り出し、参加者に振舞うと「こんなに甘いとは思わなかった」「これこそ本物ですね」とこの日2度目の感動を味わった。

海での体験学習は山や川との関連も学ぶ

2日目
「森は海の恋人」講演会→猊鼻渓(げいびけい)→えさし藤原の郷

 2日目朝は、「森は海の恋人」で有名な漁師の傍ら京都大学で教鞭を執る、牡蛎の森を慕う会代表の畠山重篤さんの講話を聞いた。人間はその昔、川の流域で生活し上流と下流の人は互いを思いやる生活をしていたが、今この関係性が壊れていると畠山さんは指摘する。

 そこで畠山さんは、気仙沼湾に流れる大川の上流・室根山の小学生を海に呼び、体験活動を通じて海側から山を見る貴重な経験を始めた。皆、魚が自分たちの口に入るまでどのような生態系があるのかを理解し、生活にも変化があったそう。

 畠山さん自身も室根山の植樹活動に長年参加し「私は子どもたちの心に木を植えていると思っています」と語る姿に、気仙沼の自然を守る気概が伝わってきた。

 その後岩手県に移動し、日本百景「猊鼻渓(げいびけい)」で遊覧船(60〜70人乗り)に乗り、日本に残る自然の大切さを実感した。続いて、平安時代と東北の歴史がわかる「えさし藤原の郷」を訪問。広大な敷地だが、小中学生でも理解しやすいように「ガイドでポン」というスタンプラリー式の冊子がある。今年1月から学校行事で約3000人の児童生徒が訪れている(8月17日現在)。

奥州藤原氏が目指した平和を平泉で知る

3日目
達谷窟(たっこくのいわや)→毛越寺→平泉文化遺産センター→中尊寺→一ノ関駅

 3日目は、宿泊先からすぐの厳美渓(げんびけい)の景色を確認してから、坂上田村麻呂が創建した「達谷窟(たっこくのいわや)毘沙門堂」を訪問。京都の清水の舞台造りを真似たと言われる毘沙門堂が、岩に食い込むその様は圧巻だ。

 その後、藤原基衡(2代)が建立し、秀衡(3代)の時代に完成した「毛越寺」を、「古都ひらいずみガイドの会」の藤木さんから案内され見学。現存物としては、南大門の礎石12個のみだが「よくこんなにしっかりと残っていたな」と、感嘆の声があがった。毛越寺近くに今年リニューアルした「平泉文化遺産センター」では、平泉全体の歴史や藤原氏が目指した極楽浄土の世界が映像で理解できる。

 最後の目的地「中尊寺」は、藤原清衡(初代)が平和な国を願い建立した場所。金色堂には、藤原三代の遺体と泰衡(4代)の首級(頭部)が安置されている。その泰衡の首桶から発見されたハスの種子は、1998年に「中尊寺ハス」として時を越え蘇り咲き誇っている。

 建立にあたり書かれた「中尊寺建立供養願文」は、ユネスコ憲章に合致すると注目され、平泉は平成23年の世界遺産登録を目指している。平泉中学校の生徒は、平泉の歴史学習を深め、修学旅行生と交流するなどの活動も行っており、今後の展開が期待される。

参加者の声から 温かな心と自然の大切さを学ぶ宝庫

●環境教育、食物連鎖等の関係を見事に分かりやすく話してくれた畠山重篤さんの講演。大島で海と自然を対象に島の方たちと生活を共にして、豊かな海を森や里との連環学といった立場から語ってもらえたら、自然から学ぶものが大変多いだろう。

●修学旅行なので訪問先の旧所・名跡を体験させたい思いもあり実例を聞くと、1日目にホテル・旅館を利用した旧所・名跡見学、2日目に民宿・民泊作業体験などが行われ好評と聞き、バラエティーにとんだ贅沢な体験ができると思った。

●大島で出会った方々の親切な心はごく自然ににじみ出てきて、心が豊かになったのは私ばかりではないだろう。今、失いつつある温かな心と自然の大切さをテーマに事前研修、地元民との交流・体験、事後研修を通して実践してこそ生きた「修学旅行」になることを確信した。

●大島の山頂に登り見た景色で、山・川・海があり、海は食の宝庫であることを実感。「何を学ばせたいのか」「生きる力とは何か」と修学旅行のテーマを「生きる・食・自然・ふれあい・エコ」などに結び付けるならば、東北はその全てのテーマ満足できる学習ができると思う。