株式会社ジャストシステム
営業推進課課長
松木俊之氏
ジャストシステムは、1999年の発売以来、全国の小学校の約7割で利用されている学習支援ソフト「ジャストスマイル」をはじめ、中学・高校向け学習支援ソフト「ジャストジャンプ」、教員向けラベル作成ソフト「ラベルマイティ」、さし絵作成ソフト「アレンジOK!素材集」など、学校現場の様々な要望に沿う製品提供に取り組んでいる。7月17日には効率的に教材や校務文書を作成でき、セキュリティ対策も行える統合ソフト「ジャストスクール」シリーズを発売する。幅広いラインナップを誇る同社製品に通じる教育への想いとは。同社営業推進課課長・松木俊之氏に話を聞いた。
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小学生を対象にした学習支援ソフト「ジャストスマイル」は、文書作成や表計算機能はもちろん、発表/作文/お絵かき/インターネット/地図など小学校の幅広い学習に対応。また中学・高校生を対象とした「ジャストジャンプ」では、「ジャストスマイル」の主だった基本機能を拡張し、プログラミングを体験できる「プログラム実習」など中学・高校向けに新たな機能も追加されている。どちらの製品も操作スキルの習得だけでなく、子ども達が自ら調べ、考え、表現する力を身に付けることが可能だ。
もともと多くの機能をもち様々なユーザーに利用されている「一太郎」をベースに開発された「ジャストスマイル」と「ジャストジャンプ」。一般的な市場で広く認められている「一太郎」から生まれたことを受けて、教育現場で圧倒的な支持を得るのも当然のことのように思うかもしれないが、実際には多くの機能を誇る「一太郎」を教育仕様に使いやすく変更することは簡単ではない。松木氏は「機能を追加していくのに比べ、様々な機能を教育に即した形で削除していくためには、現場のニーズに合った選別が必要になります」とその難しさを説明する。
そこで同社では学校にとってより使い勝手の良い製品を提供するため、情報教育を推進する教員へ日常的にヒアリングを実施。また年に数回、20名近くの教員が参加して開かれる製品検討会議を通して現場の声を反映させる工夫を行っているという。
現場の「声」を取り入れた製品開発
予算の関係上、潤沢に備品や消耗品を購入できない学校現場では、カラーのトナーがなくなると、せっかく見栄えの良いカラーイラストであってもモノクロで出力して対処せざるを得ない。しかしそうした場合、カラーにある細かな色の濃淡を表現できず、どの色も同じ濃度で印刷されがちだ。そこで4300点が収録されている「ジャストスマイル」のイラストには、「カラー用イラスト」だけでなく、モノクロプリントに対応するために「白黒用イラスト」の2パターンを用意している。
「学校現場ではカラーのトナーがない場合も考えられます。はじめからモノクロのデザインで用意することで、カラーのイラストがつぶれて印刷されることも防ぐことができます」
また「ジャストスマイル」「ジャストジャンプ」の両方に実装されている『発表』機能では、直感的なインターフェイスを採用。操作のたびにメニューバーを利用する必要はなく、よく使う「新しい紙」「開く」「かざり」「線を引く」「絵や写真」などのメニューはあらかじめ大きなアイコンで表示させている。その並びも作成手順に合わせて左から右に位置づけるこだわりようだ。
「それぞれPCによって異なる設定になってしまうと、子ども達はその度に戸惑います。また、そのぶん先生方は毎回設定を確認して修正する必要がでてきてしまいます。学校での利用を考えた結果、指導以外に余計な時間をとられないよう、『ワープロ』『発表』『地図』など普段からよく利用し、一定の手順に沿って作成することの多い機能では、ツールバーやアイコンを固定しました」
情報モラル教育は‘体験’がカギ
また2003年6月から提供している「つたわるねっと@フレンド」にはグループウェア機能を搭載し、先生専用メニューには情報モラル教材を用意。実際に送ることができるチェーンメールのサンプルをはじめ、掲示板機能やチャット機能、メールの送信内容をコンピュータや教員がチェックして指導に当たるなど、子ども達に「体験」させることを重視している。
よく実践される事例の1つにチャット機能を活用した授業がある。生徒がチャットを始めたら、コンピュータが自動的に中傷コメントを書き込み‘荒らし’に入る。カラクリを知らない生徒たちは、友達のうちの誰かが書き込んだと思い込み、応じる形で自然と書き込みの内容がエスカレートしていく。そのタイミングで先生が間に入り、事情を説明し、言葉だけでコミュニケーションをとる際の注意点等を指導するというものだ。
コンピュータが担った役を先生が行えば、実際に先生から中傷コメントを書かれた生徒は、指導のためと頭では理解していても決して良い気持ちにはならない。できたらコンピュータがその役を担当して欲しいとの現場の声を受けて取り入れたという。
「メールを送受信したり掲示板やチャットの書き込みで荒れた経験をすると、指導内容が身近なものとして子ども達の心に残ります。できるだけ子ども達には安全な校内で体験してから社会に出て欲しいというのが私達のスタンスです」
教育用に開発したグループウェア機能だからこそ実現できる授業を通して、先生が資料を読みながら説明するものを聴くという受身の授業にはない、子ども達が実際に体験して考える学びが可能になった。
製品だけでなく学校情報の提供も充実
同社ではPCソフトの提供だけでなく、教育情報誌「JUST.School」にも力を入れている。
「発刊当初はジャストシステム製品の事例紹介が中心でしたが、最近は私達の製品にこだわらず、先生方にとって必要な内容を幅広く紹介するため他社の製品を活用した事例も掲載しています」
ページをめくると、ICTを活用した事例記事はもとより、教育関係者へのインタビューやキャリア教育の参考として企業で働く人のインタビュー記事などがカラーで紹介されている。この教育誌は季刊で、全国の小・中・高校と教育委員会に無料で配布されている。
また教育情報誌「JUST.School」のWebサイト版と言える教員向けサイト「JUST.School」もまた教員関係者の期待は高いという。同サイトに用意された同社直営のECサイト「Just My Shop」の教職員会員数は3万8092名(2008/06/17時点)にも上り、無料で利用できるWebコンテンツの中では「Coneta! Web」が好評だ。
「先生方には校務や授業で使えるコンテンツが人気のようです。文書、イラスト教材、ダウンロードなどができます」
先生向けソフトで教材制作を手軽に
教員に一人1台のPCが整備されるようになると、テストや教材をPCで作成するようになる。そうした時代に教材を簡単に作成できるソフトが7月に発売される「ジャストスクール」だ。
「これまで『ジャストスマイル』『ジャストジャンプ』を提供してきて児童・生徒に向けてはある程度の土台はできたと言えます。一方で先生向けに開発したのが『ジャストスクール』です。私の父も昔、中学校の教員だったのですが、父の時代には数直線や図形を紙に描いてコピーして貼り付けたりするなど、アナログの世界で様々な工夫をして教材を作成していました。今もまだ多くの先生が手作業で教材を制作していると思いますが、これからは忙しい先生方がPCを使って、より手早く簡単に教材を作成できるよう『ジャストスクール』を通して支援していきたいですね」
(聞き手 吉木孝光)
【2008年7月5日号】