現在、私は文部科学省教職員海外派遣6か月研修でイギリスに来て滞在しています。今回教育家庭新聞社の配慮で、イギリスの教育の情報化について報告させていただく機会をいただき、感謝しています。
■日本に似た
イギリスの文化
以前アメリカに滞在した時は「自分の意見を言わないと存在しないと同じ」と言われ、無理に自己主張をしようとしましたが、ここイギリスでは控えめに振る舞うと「How modest you are!(なんて控えめなの)」と逆にほめられます。同じ英語圏で、ここまで文化が違うとは思いませんでした。人間関係もイギリスは、アメリカより日本に似ています(初めて会う相手には冷たいが、ねちっこく付き合うと親しくなる)。イギリス人は、魚が大好きでサバ・ホッケ・カレイ・エビ・イカ・カキなどを好んで食べることも、正直びっくりです。ジャガイモやサラダ、エビやカニ、魚といった素材のままの食べ物は、結構おいしいことが分かりました。
■e−learningコンテンツ
は豊富
さて私は、典型的なイギリスの中流家庭(児童相談所員と看護婦)にホームステイしていますが、家庭内の情報化は日本とさほど変わりがない。中1の娘までが携帯電話を持ち、インターネットはADSL3Mbps常時接続の環境が整っています。先日、スパイダーマン2の公開前に海賊版DVDがネットで出回ったため、著作権の扱いが社会的な問題としてとりあげられていました。教育の情報化に違いがあるとすれば、生涯学習も含めた教育コンテンツの圧倒的な豊富さがあり、イギリス教育省までがテレビCMで「e−learningで学びましょう!」と国民に呼びかけているという力の入れようです。これは「21世紀の読み書きそろばん」をネット経由でも国民に身につけさせようとするイギリス政府の戦略でもあります。
Webページ「Revisewise(かしこく復習!)」は、イギリス政府がBBCに300億円かけて開発することを許可し、現在もコンテンツ開発中のe−learningサイトです。相当な量と質の教育コンテンツが無料で公開されていて、イギリスの小・中・高校の授業で実際に採用されています。日本でも同様のe−learningコンテンツ開発が早急に望まれます。(ホストファミリーの高校3年生の息子は、授業で毎週Revisewiseを使って勉強した経験があり、大変役に立ったと力説していました)
http://www.bbc.co.uk/schools/revisewise/
http://www.bbc.co.uk/schools/
次は、義務教育における「教育の情報化」推進カリキュラムについて。
日本との大きな違いは、イギリスでは小学校低学年から教科「ICT」が週3時間もあることです。「ICT」の内容は、決してソフトの使い方だけを指導するものではなく、日本の総合的な学習に近い。(マイクロソフト・ワードの使い方を知ってから、ワードを使って両親に感謝の手紙を書くというような実践的な内容)。週3時間も「ICT」がカリキュラムに入ることで、担任は指導のために否応なしにITを学ぶ必要性が出てきます。日本の場合は、多くの学校が年数回ほど総合的な学習等でITを使う程度で、その時だけパソコンに長けた教員に来てもらえばいいという安堵感のようなものが担任にあり、だから「教育の情報化」が進まないわけです。
上表は、ロンドンから電車で1時間半の場所にある公立パークファーム小学校の3年生時間割表です。(音楽や図工と言った芸術教科が日本に比べると少ない。ICTデザインとは、ドロー系ソフトやブレーミングソフト等を利用した図工の授業)
■ナショナルカリキュラム
を参考に
英国では、ナショナルカリキュラムに指導内容が具体的に記述されており、それらを参考にして、各教員は学期ごとに全ての教科を含んだカリキュラム(指導内容)を校長に提出しなければなりません。といっても概ねの指導内容は、例年あまり変わりがないためカリキュラム文書ファイルを次学年の担当者に引き継ぎ、訂正を加え続けるわけです。重要なことは、教科「ICT」のカリキュラムも他教科と同様に、週単位で事細かに指導内容が記載されている点です。
【2004年8月7日号】