屯田兵開発の歴史を追う 
立命館慶祥中・高等学校 伊藤智章先生



 「描いた任意の点、線、面を時間軸を自在に変えながら表示できる点が4次元GISの魅力。開拓当時の川をなぞって、そのラインを現在の地図の上に落として旧河道を再現したり、鉄道の廃線跡をなぞって、昔の鉄道の駅の位置を特定したりすることが簡単にできます」というのは、北海道江別市にある立命館慶祥中学校・高等学校の伊藤智章先生。
同校では、中学校1年生で11月に、高校3年生で12月にそれぞれ実証実験を実施した。
中学校1年生では、学校近くの札幌市中心部を対象に、屯田兵開発や市街地の各台をテーマに掲げ、時代の流れを読み取った。 
「毎日暮らしている地域がどのような過程を経て今日に至ったのかを確認し、アイデンティティーを確立してもらう意味で、開拓期の土地利用とその変化を題材にしました。原野が農地化の過程を地形図を使って確認できるのは、北海道ならではだと思います。本州では『墾田永年私財法』や江戸時代の新田開発など、古文書の世界に溯ってしまいますので」と伊藤先生。
一方、高校3年生ではGISとワープロソフトを組み合わせて地域変化のレポートを作成。学区にある流通センターの変化を昭和10年から現在まで検討・考察した結果や、地下鉄福住駅周辺の土地開発を着目してまとめたレポートなど、自らの研究課題を深化させた活用例があげられた。
操作においては、伊藤先生が作成したテキスト「やさしいGIS」を活用した。テキストでは、プリントスクリーン画像と解説で順を追って操作方法を表記。コマンドの指定も一目瞭然。 生徒はテキストを片手に、大正5年の地図から「後藤開墾」を探し出し、水田を塗りつぶすなどの作業を行った。現代の地図に大正時代の水田の位置を重ねあわせることで、かつて原野に位置した水田が、地下鉄が走る市街地に変化した様子を読み取ることができる。
紙とデジタルの融合について伊藤先生は「「デジタル地図を使うことで、紙媒体の地図もじっくり見るようになりました。デジタルとアナログのそれぞれの媒体が長所を生かしながら、地域情報の分析・処理をする力をつけるという目的に向かって補強し、共存していくのではないかと思います。紙地図を持って歩いて得た情報をデジタルマップに落としてそれを共有する。他の人の作ったデータと自分の調査結果を重ね合せる。共存していく関係があって初めて効果があるのだと思います」。
豊平区の都市化を昭和29年から追ったという生徒は、昭和50年には田畑が住宅地に姿を変えたことを指摘。また札幌ドーム建設により、福住駅のバリアフリー化、歩道の環境整備などの都市開発を読図している。
今後は「全国の学校とデータをやりとりしたい」と伊藤先生。「同じテーマで分布図を描いてもらって、地域毎にどんな違いがあるのかを比較してみたいと思っています」。例として、@同一のチェーンストアの展開状況、A交通機関のバリアフリー度、B環境に関するデータ(空気、水質、動植物の生態など)、C同一河川の流域調査などにおいてより精巧な地形図を使って、分布図を交換しあうことなど、広域的な活用への期待を示す。 
さらに伊藤先生は、立命館大学地理学科と共同し、ソフトの授業への活用法および大学でのGIS教育にどのようにつなげていくかをテーマに、プロジェクトを立ち上げた。単発の実践ではなく、ソフト・ツールを使って生徒の地図の読図眼、地域理解のスキルを高めるにはどうすればいいのか、準備したテーマに対して生徒はどのような反応を見せ、結果が得られたのかを、1年かけて研究していく予定という。
http://www.spc.ritsumei.ac.jp/ 


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