平成25年度から3か年の教育ICT化推進事業に取り組んでいる長崎県。県立学校5校、小中学校12校のICTモデル校を指定し、児童生徒の学力及び情報活用能力の向上を目指している。県の事業により市や町のモデル校に電子黒板やタブレット端末等の機器やシステムを整備。ICT支援員を配置した。モデル校の長与町立長与中学校はその中で最大数となる100台のタブレット端末を導入した。
■強みを活かして居場所をつくる
長与中学校でICT支援員として活躍する福田沙織氏は、週4日(8時〜16時30分)常駐し、教員や生徒のICT活用を支援している。赴任したのは昨年の10月。ちょうどその時期に合唱コンクールがあり、音楽の教員免許を持つ強みを活かし学校に溶け込んだ。以降、教員からの相談が増えたという。ICT支援員にとって、校内に「自分の居場所」を確保することは大切だ。支援員にはICTスキルも当然だが、コミュニケーション能力が何より求められる。そこがスムーズにいくかどうかは初動のキーポイントだ。
■使いながら活用法を探る
長与中学校は、平成21年度の文部科学省の事業(※1)により各教室に電子黒板が整備され、その活用研究が進んでいた。ICTを活用した授業実践の下地が出来ていたところへタブレット端末が導入されたが、当初は教員もどう活用して良いかイメージがつかめなかったという。年度途中からの稼働のため、研修時間の確保もままならず「授業で使いながら活用法を探求する」ことが中心だったそうだ。例えば家庭科では、編み物の実習を行う際、教員の手本を動画で撮影し解説をつけるなど分かりやすく編集。授業中、生徒は目の前のタブレット端末で動画を再生しながら編み方を学んだ。教員は支援が必要な生徒を中心にフォローする。「タブレット端末がなければこういう授業はできなかった」と教員も支援員も実感したという。
■ICT活用の目的を共有する
タブレット端末の活用から考えると、授業のゴールが見えなくなる場合がある。福田氏は「ICTを活用しない場面も大切にし、目的がぶれない活用法の提案を心がけている」と話す。ともするとICT活用に視点が奪われがちな研究指定校の中で、ICT支援員という立場でこの点を指摘するのは、実は勇気がいる。日々の研鑽から学んだことを現場で活かそうとする姿勢と、授業の質を高めるために学校が前向きに取り組んでいることの表れだ。
この日の数学の授業ではグループのメンバー内で最も良いと思うノートをタブレット端末で写真に撮り、他のグループと比較考察していた。端末の操作時間は10分にも満たない。各グループのノート画像が比較表示された電子黒板画面をグループ毎に見に行き、その場で気づきを話し合う。無理がなく、授業進行を阻害しないシンプルで効果的な活用だ。
■ICTは「モノと人」両輪で推進
長崎県教育庁義務教育課指導主事の西川卓也氏は「この事業の立案にあたり、総務省のICT絆プロジェクト(※2)で先行していた五島市立三井楽小学校の素晴らしい取り組みを広げたいという想いがあった。そこにはICT支援員の活躍があり、人の配置は絶対に必要だと考えていた」と話す。
長与中学校情報教育担当の山道一平教諭は「電子黒板はまだしも、タブレット端末の活用にはICT支援員の存在は不可欠だ」という。教員もそうだが、生徒のスキルが向上しなければ授業中の活用は難しい。
今年度は「朝ICT」という時間を設け、授業で必要な操作を生徒に身に付けさせている。ICT支援員のサポートがあるからこそ実現できる取り組みだ。教育行政による「モノと人」の両輪で推進していく事業の立案、授業の質の向上に前向きに取り組む学校現場、日々研鑽を重ね貢献しようと熱心に活動するICT支援員。三位一体となり、時代に応じたより良い学びを生徒達に提供していって欲しい。
(※1)文部科学省「平成21年度電子黒板を活用した教育に関する調査研究」におけるモデル校(※2)五島市は総務省「地域雇用創造ICT絆プロジェクト(教育情報化事業)」に採択された
【長崎県長与町立長与中学校のICT環境】
▽電子黒板(液晶型・各教室に整備)▽タブレット端末(富士通ARROWS Tab Q582/G Windows8Pro 100台)、授業支援システム▽移動用無線LANアクセスポイント
【2014年11月3日】
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