iPadに代表されるタブレット端末の活用は教育現場でも加速し、利用されるアプリも多岐にわたる。中でも幼児向け知育アプリは充実しており、幼稚園などの保育活動のなかに取り入れる例も出始めている。佐賀市にある学校法人高岸幼稚園は、この春より「ICTタイム」をスタート。その活動を支えているのはICT支援員の存在だ。保育の現場で担任教師と共に活動するICT支援員の関わりを取材した。
同園では、園児達が成長し社会に出た時に必要な能力の育成と更なる保育の充実に、ICT活用が効果的ではとの仮説を立てている。今年度を試験導入と位置付け、年長クラス(園児18名)で月に2〜3回のペースでICTタイムをスタート。「創造力・表現力の育成」と「グループ活動の中で協力と貢献を意識付け、お互いを認めあう関係を築く」を目標とし、独自の年間カリキュラムを開発。ICTタイムでは、毎回指導案を作成し、ねらいを明確にした上で実践する。新しい取り組みであるが故に、慎重に活動内容の検討を重ねているという。特に、豊富なアプリをどう活用するか悩まないためにも、活動の目的から必要なアプリを選択する視点を大切にしている。
ICTタイムを行う上で欠かせないのは支援員の存在だ。同園ではiPadなどの機材提供とICT支援員の配置を民間企業(※)に委託。配置されるのは、ICT支援員能力認定を取得し小学校の支援経験を持った人材だ。ICTタイムの日は機材を持参、セッティングや授業中の操作支援などを担当する。活動に応じたアプリの精選と提案も行う。活動のねらいを教師と支援員が共有し指導案を検討、園児の反応を確かめながら次の活動を練っていく。
ICT支援員の田中宣子氏は「子供達が夢中になりすぎないように、導入時は絵本の読み聞かせなどで静かな集中を促すような活動を心がけている。iPadの操作も1人当たり数分に留め、その先の協働的な活動が充実するような仕掛けを工夫している」と話す。担任の山崎奈々美教諭は「ICTを取り入れた保育は自分1人ではできない。ICT支援員のサポートのおかげで、園児の活動をしっかりと見つめることができている」と話す。
ICTタイムのお約束は「まつ、みる、おうえんする」の3つ。園児にはしっかり定着している。中でも「おうえんする」ことは、他の活動でも見られるようになり、お互いを認め合う意識が高まった。3人で1台のiPadを共有する活動も取り入れた結果、友達の様子を見て学んだり、教え合う場面が増えたそうだ。山崎教諭は「以前に比べ、グループで話し合ってから活動に移ることがスムーズになった。友達とのトラブルも減ってきた。ICTタイムの効果だと感じている」と話した。
北村健次理事長は「父母の会や授業参観などの機会に活動の目的を説明し、体験してもらったことで、保護者には誤解なく受け止めてもらっている。他の活動ではおとなしい園児が、ICTタイムでは積極的に活動する様子に驚いている」と話した。
私立幼稚園のICT環境整備は園の方針により様々だ。これまではアナログな保育活動が主体であったが、未来を見据えた新しい取り組みも求められる。ICTタイムでは、年長クラスで幼小連携も視野に研究を深めたいとする同園。ICT支援員の新たな活躍の場が創出される可能性がある。
【高岸幼稚園のICT環境】
■園内設備=事務用PC、CMS型ホームページ、メール配信システム、移動式プロジェクター、スクリーン
■委託環境=ICT支援員1名、iPad(最大6台)、スピーカー内蔵プロジェクター、AppleTV
※委託先企業:株式会社ネル・アンド・エム。教育ICT環境デザインと幼少期のICT活用をサポートしている。
【2014年9月1日】
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