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■ゲームで培った能力を社会へ
「JリーグからJFL(アマチュアのトップリーグ)や地域リーグへの選手の移籍は、水が流れるように自然と次のチームを見つける。私たちが橋を架けてあげなければならないのは、サッカー界から離れる人々だ」そうプロサッカー選手のキャリア事情を語るのは、社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)のキャリアサポートセンターでキャリアカウンセラーを務める中村裕樹氏。
Jリーグには毎年約100名が新しい選手として加入するが、その裏側で同じく100名近い選手が新たな進路を探している現状がある。キャリアサポートセンターはそうした選手の「セカンドキャリア支援」と現役選手の「キャリアデザイン支援」を行う組織だ。
セカンドキャリア支援の取組みには「Off The Pitch」(就職・就学ガイドブック)の発行や、「サテライトスタッフ」(就職・就学先の場となる企業・大学を訪問)の設置、「進路相談会」の実施などがあり、現役選手のキャリアデザイン支援では、「インターンシップ制度」や選手OBがクラブを訪問して仕事の経験などを話す「OB交流会」、パソコンや英会話等の学習環境を充実させる「就学支援金制度」など、日本のスポーツ団体としては極めて先進的な取り組みを行なっている。
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「選手の日々の練習は企業などでも求められるPDCAサイクル(Plan/Do/Check/Action)の連続だ。サッカー能力の開発だけで終わっているものではなく、ビジネスにも必要とされる思考方法も開発されている。ただ、学生の頃からサッカー中心に打ち込んできているため、自分が何の職業に向いているのかわからないうえに、社会にどのような職業があるのかを知らない選手たちが多い。そのため、能力開発的な側面よりも、普段、競技の中で使っている能力を言語化し理解させる必要がある」と同氏は語る。
「懸命に練習や試合へ取組み、負けると涙を流す選手たちには、競技を通じて培った『達成意欲』『状況把握力』『寸時の決断力』がある。一つの商談を落として泣く人がいるだろうか。そこまで自分を追い詰めることは一般社会ではあまり見られない。それは人間として本当に貴重な経験だ。そういった能力の活用方法を選手たちに気付かせると共に、世の中に理解して頂けるよう努力したい」。表舞台の裏側で地道な取組みが豊かなスポーツ環境を育んでいる。(聞き手 吉木 孝光)
【2005年11月5日号】
【キャリア教育】