「チーム学校」の実現が求められている中、2月24日、都内で「学校を変革する地域教育ネットワークセミナー〜地域の力を生かした学校現場でのICT利活用に向けて」が開催された。主催は日本教育情報化振興会。総務省情報流通行政局・情報通信利用促進課の御厩祐司課長は、教育の情報化を実現するための環境整備における地域格差解消に向けた総務省の取組について講演した。
財政の豊かな市町村の整備が進んでるわけではないとデータを示した |
ICTは、学びを主体的・協働的なものにし(アクティブ)、個に応じた最適なものにし(アダプティブ)、学習や教育を妨げる様々な要因を改善・克服させる(アシスティブ)。このような「トリプルA」の効果を持つICTだが、我が国の整備状況は他の先進国に比べ遅れており、国内の整備格差も広がっている。
例えば、教育用PCの整備については、都道府県レベルで最大3・2倍の差が生じている。これも無視できない数字だが、市レベルでは最大30・7倍、町村レベルでは最大121倍もの差が生じている。
市レベルの最大格差は、岡山県備前市(0・7人に1台)と、瀬戸内海を隔てた香川県善通寺市(21・5人に1台)だ。
町村レベルでは、福島県双葉町(0・2人に1台)と、静岡県吉田町(24・2人に1台)との格差が最大だ。
都道府県内でも格差が見られる。
例えば最も整備率が高い佐賀県でも、武雄市では0・9人に1台だが、鳥栖市では13・7人に1台。15倍超の差が生じている。
普通教室へのLAN整備も、例えば埼玉県狭山市、東京都八王子市、神奈川県伊勢原市では100%だが、それぞれに隣接する所沢市、あきるの市、秦野市では0%。市境を一歩またぐだけで大きな差が生じている。
では、なぜ整備が進まないのか。
よく言われるのが「財政が厳しいから」という理由だ。しかし、教育用PCの整備状況と財政力指数をクロス集計すると、財政力指数が低い自治体ほど、整備が進んでいる。例えば、財政力指数下位50市町村である島根県海士町、高知県大川村、徳島県上勝町では、LANは100%、PCはそれぞれ2・1人、1・4人、1・3人に1台整備されており、国の目標値(3・6人に1台)を達成している。先に挙げた備前市と善通寺市の財政力指数は、同じ(0・48)であることからも、財政以外に整備が進まない原因があることは明らかだ。
教育委員会への調査でも、「予算が厳しい」こと以外に、「活用方法が不明」「ネットワークの運用が不安」といった点がICT整備の障壁として多く挙げられている。そこで総務省では、これらに的確に対応していく。
まず、予算面では、低コストで導入・運用できる「教育クラウド・プラットフォーム」の実証に取り組んでいる。実証中のシステムは、教員と児童生徒間の連絡・交流機能、学習ログの確認機能、教員の自作教材の共有機能等を持つ。また、ブラウザベースで軽快に動く教材アプリを、授業支援、個別学習、シミュレーション等の種別ごとに複数用意している。これらの利用状況は、教育委員会や学校で即時に把握することができる。
現在、世界6か国71の学校等で、約9千人がこのシステムを利用中だ。通常授業でのアクティブ・ラーニングだけでなく、朝学習や家庭でのドリル教材等によるアダプティブ・ラーニングにも活発に用いられている。
さらに、治安の悪化で休校を余儀なくされた海外日本人学校では、このシステムにより教育活動を継続できた。保健室など別室登校の生徒に対するリメディアル教育や、単位制・定時制高校での学習困難者支援、遠隔地をつないだキャリア教育など、特色ある取組もクラウドを用いて行われている。
学習記録データをもとに「習熟度マップ」を生成し、学校や家庭で共有のうえ、学力向上に活かす取組も進行中だ。
「ICTの活用方法が不明」との声が少なくない中、クラウドを活用したユースケースをさらに蓄積・公開していきたい。
「ネットワークの運用が不安」との声に対しても、実証事業でのノウハウを整理するとともに、実践的なガイドブックをAPPLICと共に作成したり、アドバイザー制度を設けたりするなど、セキュリティ面を含め、現場への支援を強化する。
さらに、プログラミング教育も、来年度より本格的に推進していく。具体的には、民間事業者と連携のうえ、クラウドも活用しつつ、全国10か所程度で放課後や土曜日等にプログラミング実習を行う。そこで育成された人材や蓄積されたノウハウをもとに、学校を民間がサポートしつつプログラミング教育を推進可能な体制を、全国に整備していきたい。
なお、本講演におけるPC、LAN整備のデータは、文部科学省「平成26年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査」の結果によるもの。27年度に整備を進められた自治体にあっては、ご容赦いただきたい。(編集部注=本文中の善通寺市は今年度、全小学校8校に約300台タブレットPCを整備)
教員の多忙感解消を始めとする様々な教育課題への対応のため、教員を中心に、多様な専門性を持つスタッフを学校に配置して学校の教育力・組織力を向上していくという「チーム学校」の実現が求められている。そんな中、2月24日、都内で「学校を変革する地域教育ネットワークセミナー〜地域の力を生かした学校現場でのICT利活用に向けて」が開催された。主催は日本教育情報化振興会。パネルディスカッションは「外部人材の活用は教育の情報化を推進する鍵となるか」がテーマ。
テーマは「外部人材の活用と教育の情報化」コーディネーターは東原義訓教授(信州大学) |
タブレットPCは
主体性を引き出す
ICT CONNECT会長である赤堀侃司教授(白鴎大学)は「アクティブ・ラーニングとICT活用」について講演した。
赤堀教授は「脳をアクティブにする」ための方法として「目当ての提示、知識をつなげていくための対話、対話の後の振り返りなど、授業のあらゆるシーンにアクティブな学びにつながる活動がる。ICTは、情報提示や検索、発表などこれらすべての活動に係るもの」と語る。また、タブレットPCについては「児童生徒のものであり、主体的にならざるを得ないツール。隣同士で画面や教材を共有することでコミュニケーションが生まれ、そこから生まれる『議論』はアクティブな活動へ導く。1人1台であってもグループに1台であっても、共有して触れることが重要」と語った。
パネリストは安藤明伸准教授(宮城教育大学)、稲家誠教育課長(新潟県関川村教育委員会)、柴田勝明指導主事(静岡県掛川市教育委員会)、前田浩志教諭(熊本市立田迎西小学校)。コーディネータは東原義訓教授(信州大学)。
「日本六三三制発祥の地」でもある新潟県関川村は小学校1校250人、中学校1校130人程度と高齢化率の高い小規模村だ。昭和21年、日本初の六三三制実験校が関川小学校であった。
関川小では、平成23‐25年度にNTTによって実施された「教育スクウェア×ICTフィールドトライヤル」に小学校が採択されたことをきっかけにICT活用がスタート。平成26年は全学年に電子黒板を整備してデジタル教科書の活用などが進んだ。
中学校でも同様の環境整備を進めるため、中学校教員は八峰町の2中学校1小学校を訪問して活用イメージを持った上で、現在中学校整備に向けた予算整備を要求中だ。PC室整備のPCをタブレットにして可動で活用できるようにする考えだ。同村が整備を精力的に進めることができる理由として「過疎債(7割補助)」が活用できること、首長の理解が大きいことを挙げた。
平成25年当時、静岡県では電子黒板やデジタル教科書、校務支援システム等整備率が国平均を上回っていたにも関わらず、県内の掛川市ではいずれも平均以下。そこで「整備が進んでいない」状況をチャンスと考え、平成26年から教育情報化を進めるための戦略を図った。
外部有識者として益川弘如准教授(静岡大学)を指導助言者に依頼し、平成27年からの5年間計画「掛川市教育情報化推進基本計画」を策定。初年度の重点施策は「かけがわ型スキルを育成するための効果的なICT活用」「教職員ICT活用研修の実施」「校務支援システムによる効率化」だ。かけがわ型スキル6項目は21世紀型スキル育成を盛り込んで作成した。また、地元にNECの工場があることから、協力支援を依頼して電子黒板も整備した。
地域連携の強化に向けて「かけがわ学力向上ものがたり」も作成。「学力」とは何かを学校・家庭・地域で共通理解をしてどのように実現するかについて「ものがたり」としてまとめた。これを元に各校が「我が校のものがたり」を作成し、全教職員が共通理解のもとに組織的な協働を図り、授業改善に向けた積極的な取組を目指している。
文科省事業であるICTを活用した学びの推進プロジェクト「指導力パワーアップコース」にも採択され、現在取組中だ。
柴田氏は「ICT活用を推進する3つの柱『ICT活用の研究』『ICT支援員や教員研修など人的支援』『ICT環境の整備』を同時にバランス良く進めることで費用対効果が高くなる」と報告した。
外部人材は、学校や教育委員会が「何かを変えたい、調べたい、検証したい」など課題を抱えているときに機能する。課題は「無線LAN活用を検証したいがどうすればよいのか」「整備を進めたが活用が進まない」「学力向上に結び付ける授業変革」など様々だ。
安藤氏は「大規模であればコストメリットが期待でき、検証などを効果的に進めることができる。小規模であれば、意思決定が早くフットワークが軽い」と大規模校・自治体、小規模校・自治体それぞれのメリットを活かすことができるという。小規模校と大学との連携として、県立学校である岩沼小学校の事例を紹介した。
同校では「電子黒板が高くて整備が難しい、低コストで整備できるAndroidタブレットを活用したい」という課題があった。そこで宮城教育大学とAndroidタブレット向けアプリ「イタッチ(iTouch)」を共同で開発。写真を撮影してテレビやプロジェクターで提示でき、書き込みができるというシンプルな機能で、これが教科指導におけるICT活用「みやぎスタイル」につながっている。「イタッチ」は既に4000DLを突破しており、iOS版も近日公開予定だ。
「外部人材は一般に、環境整備支援などの企業連携をイメージしやすいが、大学もまた『外部人材』。大学教員は地元にどれだけ貢献できたかということも評価され、双方にメリットがある」と述べた。
平成25年に開校した田迎西小は、開校2年目から2年間研究指定を受けた。しかしタブレットPCは整備されず、電子黒板は1台、テレビやプロジェクターは各3教室に1台と整備機器が不足。そこで、「今ある資源をしっかりと活用する」ことからスタート。「わからないことを、自らわかろうとする」「自分の考えを相手にわかりやすく説明しようとする」メディア活用ができる児童の育成を目標と設定して、書画カメラ、ワークシート、ノート、ICTなど全てを「メディア」と捉え、相手を意識してわかりやすく伝えるために適切なメディアを選択する、というスタンスで授業づくりをスタートした。これは日野市立平山小学校の公開研究会の参加が大きなヒントになった。
「主体的なかかわりを促す工夫」として、教材との出会わせ方を工夫したり、「思考を深め広げる工夫」として、シンキングツールのイメージマップも応用。デジタルならではの活用として制作過程を写真で記録する。「学びを確かなものにする工夫」として、デジタルコンテンツで授業中に何度も繰り返して定着を図るなどにより、教員の「教育の情報化」に対する理解が変わり、行動が変容した。
内部資源の充実のために、実践を共有する「ミニ研修会」やTTでの授業支援を実施。必要なものを共通理解しで校内予算の確保に努めた。
外部資源としては、ICT支援員や各種出前授業の利用、教委や企業への協力依頼によってICT機器の貸与も受けた。
前田教諭は、まずは内部人材・内部資源を活用する方策を検討して外部人材活用につなげていくべきであると報告した。
コーディネータの東原教授は、「外部人材は、学校や教委などを元気づけることができる。遠方であってもつながる仕組みをICTが担保することで、外部人材の活用は継続・活性化していく」と述べた。
【2016年3月7日】
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