PISA2018で「グローバル・コンピテンス」を計測

"創造性"が世界を動かす

PISA中心分野と追加分野
PISA2000読解力
PISA2003数学的リテラシー
PISA2006科学的リテラシー
PISA2009読解力
PISA2012数学的リテラシー
問題解決能力
PISA2015科学的リテラシー
協働型問題解決能力
PISA2018読解力・グローバル
コンピテンシー

「21世紀型スキル育成支援連携(略称21CS)」に取り組んでいるインテル、日本マイクロソフト、ピアソン・ジャパンは本取組の一環として10月13日、英国大使館で「1人1台タブレット端末環境」「協働型問題解決」「アクティブ・ラーニング」を考えるセッションを開催した。英語のCBT(=ComputerBasedTesting)試験システムを提供するピアソン・ジャパンのアラン・マルコム氏は「21世紀型スキルを測定するためにはデジタルアセスメントツールが必要。デジタルツールによる分析は、紙とは異なる分析ができる。21世紀型スキルを測定・分析しやすい学校環境づくりに貢献したい」と語った。

経済協力開発機構(OECD)が進めている生徒の学習到達度調査(PISA)で、2015年度および2018年度のPISA調査におけるフレームワーク開発に携わったジョン・デヨング博士(Pearson PLC)は、PISAを含む昨今のアセスメント(評価)やテクノロジーについて講演した。

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新たな内容を追加して計測

ジョン・デヨング博士
Pearson PLC
ジョン・デヨング博士
2015年度および2018年度の学習到達度調査(PISA)におけるフレームワーク開発に携わった

1961年に創立したOECDは、経済的な発展を維持継続していくためには教育が重要であると考え、教育に関わるあらゆるデータを収集して分析・評価。そのデータの一つが「PISA調査」によるもので、初のPISA調査は2000年に行われた。

調査には毎回、中心分野がある(右表参照)。さらにコンピュータ使用型調査に完全移行した2015PISAでは「協働型問題解決能力」(※)も扱いを開始。PISA2009と大きくフレームワークが異なり、クリティカルな視点と深い理解力の測定が加わった。

さらに、PISA2018は「グローバル・コンピテンス」も追加して扱う予定で、獲得した知識を活用する力や、異なる環境においても開かれた心で柔軟な対応をとり、関係性を構築していく力などをシナリオテストにより計測する。コンピュータ上の仮想の相手とのチャットも取り入れるなど「現在及び今後必要とされる能力」のスキルの抽出・測定に取り組む。

PISA結果から文教施策を見直し

PISAの調査結果は各国に大きな影響をもたらしている。例えばドイツでは、職業校と普通校の進路選択年齢を、PISA調査の結果を元に変更。それにより大きな成果が上がった。中国では現在、「全人教育」を主眼に小学校から大学まで一貫した教育改革が劇的なスピードで進んでいる。

コミュニケーション能力や問題発見・解決力について、8〜9割の教員が「重要である」と考えているにも関わらず、それらを育む「教育」については約半数の教員が「できていない」と答えている。一方でPISAのデータは、高い得点を挙げている学校では全ての生徒に学びやすい学習環境を提供していることを示している。

世の中を変革するのは、創造力のある人。「月曜日が来るのが待ち遠しい」授業・学校・教育内容であるべきで、21世紀型スキルを育む学習の目標の再定義や継続的な評価と振り返りの仕組みなど、カリキュラムの改変が必要。ビル・ゲイツ氏も「教育には明確な目標と指標の設定、フィードバックが必要である」と語っている。すぐに反応を得られるICTの力は大きく、それをもっと活用すべきである。

※協働型問題解決能力=2人以上が、解に迫るために必要な理解と努力を共有し、解に至るために必要な知識とスキル、労力を出し合うことによって問題を解決しようと試みるプロセスに、効果的に従事できる能力

 

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教員の「わかりやすい説明」は
記憶に定着しにくいバブル型

静岡大学
 益川弘如准教授

静岡大学 益岡弘如准教授

学習科学(ボトムアップ)と21世紀型スキル育成などの教育政策(トップダウン)を統合する手法について研究している益川弘如准教授は、「知識理解の習得を従来通りの手法で定着させてから21世紀型スキルなどに対応した力を育む」という現在一般的に行われ始めている手法について疑問を投げかけた。

その理由は「『既存の知識を必要に応じて再構成できる』適応的熟達者と、『決められた活動を確実に実行できる』定型的熟達者において、一度『定型的熟達者』になると、『適応的熟達者』に移行するパス=方法はない」からだ。理由は「出発点が全く異なるから」。

教師による「わかりやすい説明」を「バブル型理解」と呼び、「バブル型理解は忘れやすい。21世紀型スキルを発揮しながら自ら考えて言葉にすることで、深く理解ができて定着する」という。

手取り足取り支援してその途中経過を小テストで確認、同じルートを目指す「後ろ向きアプローチ」では「21世紀型スキル」を育むことはできないと話す。例えば「1人で考えた後、グループで自分の考えを順番に紹介。全体発表後、最後は先生がまとめる」という手法は「後ろ向きアプローチ」だ。

「前向きアプローチ」では、多様なプロセスを経過して疑問や問いを大切にして全体のレベルを上げていき、到達度ではなく伸びの幅で評価する。様々な考えを組み合わせることで「答えが出る」問いを設定し、それについて話し合う。

全国学力学習状況調査を解いたとき、「前向きアプローチ」で取り組む学校のほうが成績が良い。さらに「2人で解く」と、より伸び率が上がるという。

適応的熟達者が育まれる環境は、「絶えず事件が起こる」「対話が多い」「時間に余裕がある」「できることではなく理解を重視する集団にいる」など。その手法の一つとして「知識構成方ジグゾー法」の授業事例を紹介した。

小学校社会科で、「太閤検地、刀狩り、身分統制例とはどのような制度か」という問いでは「知識の羅列」に終わってしまうことから「豊臣秀吉はどのような社会を作ったのか」と問いを変えることで、制度を理解しつつそれがどのような社会の構築につながったのか、歴史を学ぶ価値づくりにつながる授業になったことを報告した。

また、子供の発話データを取ることで、その学習課題が「対話として成立しているか否か」を見ることができる記録方法も紹介した。

 

【2015年11月2日】

 

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