アクティブ・ラーニングは「知識構成型ジグソー法」で

小中校の取組5年間の成果

対話型分析ツールも開発

ジグソー法新しい学力やアクティブ・ラーニングの重要性が指摘されている。これらの課題を解決に導く指導手法の一つが「知識構成型ジグソー法」だ。教員にとって簡単な授業手法ではないが、小・中・高等学校に確実に広がっているのは「効果があるから」だ。「知識構成型ジグソー法」のゆっくりではあるが着実な拡がりは、簡単ではない=活用が広がらないという理由にはならないことを証明している。3月28日、東京大学大学発教育支援コンソーシアム推進機構(略称CoREF/機構長=浜田純一東京大学総長)はシンポジウム「実践者が語るアクティブ・ラーニングの可能性」を開催した。

CoREFは、大学の知を教育現場に生かすことを目的として結成された組織で、平成22年度から全国の教育委員会や学校とアクティブ・ラーニングの研究連携を行っている。今回は小・中・高3名の教員が5年間にわたる実践を報告した。
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小学校4年算数
グラフの数値から該当するサーキ
ットコースを考える(小学校4年算
数)
中2理科
生徒の授業前後で解答で学びの質
がわかる(中学校2年理科)

CoREFの柱は、アクティブ・ラーニングの新手法「知識構成型ジグソー法(以下、ジグソー法)」だ。これは「人がわかるとはどういうことか」という認知科学の観点に立つもので、5つのステップから成り立っている。

三宅なほみ副機構長(東京大学大学総合教育研究センター教授)は「人はある問いについて人と対話する時、互いの知識を持ち寄り、相手を納得させるために自分の考えをブラッシュアップしながら、それぞれのタイミングで自分なりの答えを作り上げていく。それはすべての人に備わった潜在的な力。ジグソー法はこの力を前提として対話の中で子供たちが自分で自分の答えを作り上げる学びの手法。既にわかっていることを発表するプレゼンテーション等の学びとは異なる」と述べる。

埼玉県教育委員会の小出和重指導主事(平成26年度まで協力研究員としてCoREFに所属)は、「CoREFの広がりは全国各地の自治体や教員集団が21世紀スキルを育む新しい学びを求めて〓り着いたもの。上意下達のものではない」と語る。現在、全国で800名以上の教師がジグソー法の実践に取り組んでおり、CoREFは自治体を超えた教員同士のネットワーク作りに貢献している。

企業と協力して「対話分析支援ツール」も開発。対話データのテキスト化・キーワード出現の可視化等による評価方法の確立を目指している。

小学校算数
 ジグソー法は授業者を育てる

萩原英子教諭(安芸太田町立加計小学校・広島県)は、速度と距離の表を見ながら、レーシングカーがどのサーキットコースを走っているのかを見分ける課題を出題した。対象は小学校4年生。まず、1人ひとり答えの予測を立ててからにグループごとに「最も長い直線コースを見つける」「速度が一番遅くなったところを見つける」「速度の変化をグラフの傾きから見分ける」という3つの「エキスパート課題」を与え、話し合う。その後、異なるエキスパート課題に取り組んだ者同士でグループを組み直し、3つの課題から得た知識を持ち寄り答えを導く「ジグソー活動」を行う。最後に、クラス全体でグループごとの意見を共有する「クロストーク」によって全員で答えを作り、1人ひとりが自分の表現で答えを記述。クロストークでは6つのうち4つのグループが正解に辿り着いた。

萩原教諭は、「5年間の実践を通じて、人は協調しながら賢くなっていくということを実感した。子供たちは算数を通して対話して解決する力を学んでいる。今まで全員が同じようにわかるように授業をしてきたが、子供たちは実は自分たちで解に辿り着くのだと気がついた」と語った。

中学校・理科
 授業の狙いを明確に 導入・発問を重視

竹田市立竹田中学校(大分県)の堀公彦教諭は、中学2年生「雲はどのようにしてできるのだろう」の実践を報告。エキスパート課題を「雲の正体」「気圧と空気の温度」「露天」の3つとした。

解答は文字だけでなく、絵や図を用いて自由に記述させ、1か月後の定期テストにも同じ形式で出題。堀教諭は、4名の生徒の授業前、授業後、テスト時の解答を提示し、個性の異なる4名が3段階を経て「雲のでき方」を定着させている様子を解説した。

5年間の取組で重視してきたのは、「授業の狙いを明確にすること」。「生徒が意欲的に取り組みたくなる導入と発問」を明確にすることでジグソー法の成果を上げた。

高等学校・国語
 自己有用感が増 「読み」が深まる

埼玉県立大宮高等学校の畑文子教諭は、「羅生門」「高瀬舟」「こころ」「舞姫」といった現代文の定番教材から「源氏物語」までを教材とし、ジグソー法に大きな可能性を見出している。

エキスパート課題として該当作家の別の作品、昔話、評論文、漫画作品を与え、登場人物の行動について読みを深めた。また、グループごとに解答を演劇で表現。最初はとまどった生徒たちも、授業後は作品に対する問いを次々に発し、登場人物に親近感を持つようになった。「学力に自信がなく難しいテーマを語ることに引け目を感じていた生徒にとって、自己有用感を高めることにつながった。答えのない課題に抵抗があった生徒も、次第に自ら思考するようになっている」と述べた。

【2015年5月4日】

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