プリントオンデマンドシステム 「エスプレッソ・ブック・マシン(EBM)」 |
EBMで印刷・製本した教科書や学術書など |
広島大学図書館は、日本の学術機関としては初めて、米国製のプリントオンデマンドシステム(POD)である「エスプレッソ・ブック・マシン(EBM)」を導入し、電子書籍から1冊単位で冊子体の印刷・製本ができる体制を整えた。
EBMは、世界各国の大学や図書館など60機関で導入されているシステムだ。特徴はサイズがコンパクトなことで、事務用複合機の2〜3台分しかない。PDFデータを活用することで、必要部数だけを印刷・製本することが可能となる。
広島大学では2012年11月にEBMの本格運用を開始。試行期間を含め、すでに4タイトルを出版している。
PODに取り組んでいる背景には、研究論文などの電子化が急速に進む一方で、研究や教育の現場では、印刷物が有効な状況も依然として多いという現状がある。
これまで、1部から印刷・製本できるEBMの特徴を活かし、研究で使用するマニュアル本の1部印刷、会議で使用する回覧資料の3部印刷など、少部数のニーズにも対応してきた。教職員の海外出張時に、電子ファイルとは別に持参する冊子を3時間で10部作製したケースもある。
一方、広島大学出版会でも大学図書館に設置されたEBMを活用し、書籍を刊行。例えば「英語の冠詞(増補版)」は、同会が2009年に出版し絶版となっていた書籍を、PODで増補版として刊行したものだ。
また、広島大学学術情報リポジトリで公開していた教材の中で、ダウンロード数が多く、冊子での発行が望まれていた複数の教材を「物理化学Monographシリーズ」という上下巻の教科書としてまとめ、PODで刊行したという例もある。各巻が400ページ以上と分量が多いにも関わらず、価格はそれぞれ1700円と1800円(共に税別)と安価に設定できた。発行3か月で、各約50部ずつの販売実績がある。
研究分野にもよるが、一般的に学術図書においては、発売後3年を過ぎると販売数が見込めない傾向にある。オフセット印刷の場合は販売単価を下げるため、やむを得ず印刷部数を増やし在庫を生む要因となっていた。EBMでは、その都度の印刷・製本が可能なので、在庫数を最小限度に抑えることができる。
EBMでは、作製した冊子体の書籍データを専用クラウド「エスプレッソネット」にアップロードすることも可能だ。こうすることで、世界中のEBMで書籍の印刷・製本できるようになる。これは海外の大学図書館などに直接、図書を提供できることを意味する。
国際的にみると、人文社会科学系の研究分野では、冊子体のニーズが依然として高い。今後は、学術情報の海外発信力を高めるためにも「エスプレッソネット」を積極的に活用していく方針だ。
また、広島大学では13年4月、図書館内にライティングセンターを設置し、学生の論文作成のサポートを開始した。ここでもEBMを活用し、研究成果の国際発信を強化させていく考えだ。
【2014年8月4日】
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