小学校でプログラミング アイデアを形にする力をつける

阿部和広氏
阿部和広氏

プログラミングを子供と学ぶという草の根活動を10年以上続けている阿部和広氏(青山学院大、津田塾大非常勤講師)は、プログラミング教育についての学校からの関心の高まりを肌で感じているという。「プログラミング教育は、従来の教育スタイルから子供がものを作る過程で学んでいくスタイルへと進化していく大きなきっかけになる」と話す。

”表現手段””思考ツール”に

阿部氏は昨年から新たに、プログラミング学習を支援するプロジェクト「Programming Education Gathering(PEG)」のワークショップの監修にも係わっている。これは、Googleが支援しNPO法人CANVASが実施するものだ。

プログラミング学習
Scratchはブロック感覚で
プログラミングできる

「プログラミング教育に関心が集まっているきっかけの一つが、産業競争力会議における三木谷浩史楽天会長の発言(※)だろう。学校でのプログラミング教育の目的はIT技術者の養成だという認識がある。間違いではないが、技術者養成だけが目的だと捉えると、プログラミング教育の持つ様々な可能性を潰してしまう。プログラミングとは課題解決の過程であり、プログラミング言語を使った表現手段という側面、プログラミング言語を思考のツールとして活用するという側面がある。結果よりも過程を重視することで、初等中等教育においてプログラミング教育が効果を上げると考える」

阿部氏がプログラミング教育で主に使っているのは、「Scratch」という教育用プログラミング言語だ。小中学生向けにMITメディアラボが開発したもので、必要なスクリプトが「ブロック」として用意されており、おもちゃのブロックを組み立てる感覚で手軽にアニメーションを作成することができる。アラン・ケイ博士が作ったオブジェクト指向プログラミング言語「スクイーク(Squeak Etoys)」などを参考に作られている。

小3理科・小5国語でプログラミングを実践

品川区立京陽小学校東京都では今年度から、Scratchと、ラズベリーパイという手のひらサイズのコンピュータを全児童に配布し、各教科の中で活用しようという取り組みが始まっており、阿部氏も係わっている。

3年生理科のゴムの力を学ぶ授業では、引っ張ったゴムの長さと車が動いた距離について仮説を立て、その仮説のシミュレーションをScratchで数パターン作成。その後に実験で検証した。プログラミングを取り入れることで、仮説を立てる時に言葉で「予想する」だけではなく、映像で予想してから実験に取り組むことができる過程を追加できる。

5年生の同音異義語を学ぶ授業では、ゲーム形式の教材を児童がプログラミング。3択にする、解答時に効果音が鳴るなどの工夫をし、児童がお互いに問題を出し合い、評価し合うようになった。

「ごく自然に自主的な学び合いが生まれ、コミュニケーションが活性化した。プログラミングには、自主的な学びを誘導する働きがある」と話す。

自ら考え作りあげて成功する、失敗したら再びトライする。成果物は実際に試し、他者から評価を得る。これらが、自主的な学び合いが生まれる要素になる。

「プログラムが書けるようになるということは、『アイデアを形にする力をつける』ということ。新しい視点が生まれ、お互いのアイデアを尊重し合うようになる」

教員にも変化が生まれている。

「多くの教員はパワーポイントで教材作りに取り組んでいるが、それと同等以上のものをScratchで作ることが出来る、とアドバイスしたところ、見事な教材が出来上がった。パッケージソフトの消費者が、2か月で自らプログラミングを書く創造者になり得るし、それがScratchでは比較的容易に実現する可能性がある」

■創造性を育む導入のポイント

プログラミング教育を導入するポイントは何か。

「遊びの中に学びを見つけるための方法論として展開していくこと。Scratchを教科学習の中で使う場合、すでに問題解決学習、プロジェクト学習が中高、特にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)などで行われているので、関連した取り組みの中で導入が期待される。小学校の場合は、表現方法の1つとしてとらえ、音楽、図工などで活用しやすいのではないか。また、中学校技術・家庭科での『プログラムによる計測・制御』の必修化に伴い、Scratchを活用した計測制御の仕組みを学ぶことができるロボットやセンサーボードなどの教材も増えてきた。これらを活用することで、子供や教員の活動に大きな変化が生まれる可能性がある」

◇ ◇ ◇

※(平成25年第6回産業競争力会議議事録より)エンジニアの質・量ともにレベルを大幅にアップさせる必要がある。義務教育課程の中でのIT教育について、特にアメリカではゲーム感覚でプログラミングの概念を教える。例えばMITが開発したScratchのような、楽しみながらプログラミングをマスターできるものは是非導入していただきたい。


【ゲーム】"買う人"から"作る人"へ

「ICT国際競争力強化・国際展開に関する懇談会」が平成26年6月にまとめた最終報告書「ICT国際競争力強化・国際展開イニシアチブ」では、ICT人材の育成・活用のために、特に注力して取り組むべき内容の一つとして初等教育段階からの「プログラミング教育」の実施を挙げている。

報告書では、アメリカやシンガポール、イギリス等では、プログラミング教育を強化する動きが出てきているが、プログラミング分野で日本は他国に比べ大幅に遅れていることから、初等教育段階からの「プログラミング教育」を実施し、プログラミング技術の養成のみならず、プログラムを設計するための考え方を身近なものにし、イノベーティブな発想を持つ人材の育成に早急に取り組むことが喫緊の課題であるとしている。

■米国=2013年1月に設立した非営利団体「Code.org」は、コンピュータプログラミングを必修科目にすべきと主張。ゲームを「買う」から「作る」人材を育むために、1時間のプログラミング授業を行う全国キャンペーン「Hour of Code」を開始。基礎的なプログラミングを学び、iPhone上でのゲームを作成するもので、参加者数は3000万人を超えた(2014年3月現在)。オバマ大統領も「プログラミングを全員必修に」とメッセージ。

■英国=2014年9月からコンピュータ授業を見直し。プログラミングを追加して計算や計算機の原理まで踏み込んだ目標を設定。5〜16歳を4段階にわけ、アルゴリズムの理解、誤りの発見・訂正、2つ以上のプログラミング言語の使用、デジタルデータの構造の理解など段階的に進める。(「ICT国際競争力強化・国際展開に関する懇談会」参考資料より」

【2014年8月4日】

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