インターネットの普及と活用が進むと同時に、いじめやネット中毒など、ネットに関わる諸問題が発生し、情報モラル教育の必要性、重要性が高まってきている。パネルディスカッション「諸外国の情報モラル教育の現状と課題〜韓国、シンガポール、ヨーロッパの取り組みから〜」では、インターネットの教育利用が進む諸外国の情報モラル教育を参考に、今後の日本の情報モラル教育の方向性について討議された。コーディネータは山西潤一教授(富山大学)。
山西教授は、シンガポールでは国家戦略としてポータルサイト「Cyber Wellness portal」において情報モラル教育に取り組んでおり、モニタリングに関しては学校では教員、家では保護者が行うという責任分担が徹底されていると説明。全てを真似する必要はないが、現在、国として情報モラル教育がカリキュラムに取り込まれていない日本では、成功している諸外国から見習う点はまだ多いと指摘した。
竹内和雄准教授(兵庫県立大学)は、「これまで欧米では子供がPCを使う姿を背後からチェック出来ていたのでサイバーいじめは起こらなかったが、手元での操作に終始するスマートフォンの出現によって親のチェックが困難に変わった。サイバーいじめに関しては欧州が日本にある多くの実例を参考にしている状態でもあり、この分野では日本は諸外国に学ぶ必要はない」と述べた。
いじめ対策プログラムで一定の成果【フィンランド】
フィンランドではいじめ対策プログラム「KiVa」で効果を上げている。これは、いじめの予兆が起きた際に傍観者を作らず友人同士で未然に解決をするプログラムだ。全体での情報を共有することで問題となる芽を早めに発見するので、縦割となった役割分担で責任を押し付け合いがちの日本では有効との考えを示した。
桑崎剛氏(熊本市立総合ビジネス専門学校教頭)は「問題は、人格形成が出来上がってからネットが普及した世代ではない。ネットが急速に普及している時に育った幼稚園・保育園・小学校など学ばなければ身につかない状況にある世代への対応だ。彼らがつまずいた時に複数の解決策を提示できる環境を私たちが整えられることが重要だと思う」と述べた。
法律を整備・成功には至らなかった【韓国】
ヤン・ヒョジン氏(韓国インターネット振興院責任研究員)は、韓国でのインターネットの情報モラル教育について報告。韓国では、国語、道徳、社会、家庭科の枠組みを中心に行われている。法整備にも着手したが、これについては成功には至らなかった。
「韓国では、ネット書き込みの際に本人の身分証明や、住民登録番号がないと書き込み不可となる法律が一度は通過したが、間もなく表現の自由の侵害と個人情報の漏洩に繋がるという違憲判決が出た。また、子供のゲーム中毒対策として、子供の使用する携帯が一定以上の時間ゲームに費やされるとシャットダウンする法律も作ったが、子供は祖父母の携帯を使って長時間ゲームしていたという現象が多発した。法律でネットを規制しても限界がある。情報モラル教育におけるポイントは、学校・家庭・地域での教育をいかに充実するほかない。全ての親が我が子の教育に対しての責任は自分にあるという自覚を持ち子供に接することが大事。この部分は世界中で共通のはず」と述べた。
警察庁の調査によると、昨年のコミュニティサイトに起因する被害児童数は上半期598人、下半期695人。サイト利用について保護者から注意を受けていない被害児童が約6割。約4割が"寂しさ"を理由に被疑者に会いに行っている。
パネル討論では、日頃からのコミュニケーションを大事にし、子供から出されているサインを見逃さないよう心掛けることは、文化的社会的背景の違いがあっても万国共通であるとの意見が最終的に導き出された。
【2014年7月7日】
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